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    kosho_karasi

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    kosho_karasi

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    転生猗窩煉のプロローグ。
    校正してないです。

    #猗窩煉

    「家賃含む光熱費と食費は俺が賄うので、平日の家事全般は君が担当だ。休日は仕事に余裕があるから、俺も多少は手伝おう。ああ、性交渉についてだが……多くても週に二回で頼む。教員というのは基本的に朝が早いから毎晩は付き合えないんだ、可能ならしない方が有難いが、俺の条件を呑んでくれる限りはこちらも応える必要がある。甘んじて受け入れてやる」

     つらつらと、凛とした表情のままおくびもせず言葉を並べる男。金色の髪をハーフアップに束ね、少ない瞬きのまま俺に視線を向けている。
    男の名は、煉獄杏寿郎。俺――素山猗窩座の高校時代の恩師であり、「恋人」である男だ。

    「……なんだその顔は。家事の大半を任された事が不満なのか? その代わり金銭面はすべて俺が責任を負うと言っているだろう。君はまだ大学生なのだし、」
    「いやいや杏寿郎。俺が言いたいのはそういうことじゃない」
    「? じゃあなんだ、その鳩が豆鉄砲を食ったような顔は」
    「――あまりに色気がなさすぎると言っているんだよ杏寿郎!」

     マンションの一室に、俺の悲痛な叫び声がこだました。
     ここは杏寿郎が所有するマンションの一室。正しくは、煉獄家が代々持つ土地の一部に立てた賃貸マンションのひと部屋だ。杏寿郎は高等学校の歴史教諭で、社会人になると同時に親からこの部屋を譲り受けたと聞いている。

     ……と、そんな説明はどうでもいいのだ。俺が今気にしているのは、杏寿郎が語る「条件」についてだ。
     つい先日、いわゆる恋人同士という関係になった俺たちは、杏寿郎のマンションで共に生活をすることとなったから、生活の上でのルールを決めよう、という話になったらこれだ。想像していた同棲生活とはあまりにもかけ離れている気がして、俺は焦る。

    「色気……? セックスだってしてやると言っているじゃないか」
    「週2回な! 高校時代からお前のその鍛え上げられて肉付きのいい体をどうにかしてやりたいと常々考えてはいたが、いざ『はいどうぞ』と言われてもピンとこないぞ杏寿郎! それに、俺の言ってる色気というのはそういう意味じゃない!」
    「うーん。じゃあどういう意味なんだ?」

     居間の広いソファに座って腕を組み、杏寿郎は困り眉になって首を傾けた。
     ……なんだその顔。かわいいな。普段きりりと眉を吊り上げているくせに、たまにこうして気の抜けた顔をするのが愛らしくて仕方ない……と、いけない。惚れた男の顔が好みで、話題を逸らされるところだった。

    「それは……」
    「思うことがあるのならはっきりと言え。これから共に生活する上で、意志の疎通は重要だ。言葉にしなければ分からない」
    「うう……」
    「はっきり言えといっているんだ。男だろ」

     じ、と丸くて赤い瞳に見つめられると弱いのは、高校時代から……いや、今世に限ったことではない。ぎゅ、と己の拳を握り、生唾を呑んで、俺はやっとの思いで口にする。

    「――もっとこう、恋人らしい態度、あるだろ!!」

     ……自分でも自覚する、なんて女々しい言葉だ……。
     そんな俺の渾身の叫びに対しての杏寿郎の反応を一言で表すのなら、「きょとん」だった。今度は杏寿郎が豆鉄砲を食らったような顔をして、それから、ぷっと噴出して笑う。

    「っ、はは! 面白いことを言うな。恋人らしい態度、とは。俺が、君に?」
    「……そうだ」
    「まさかだろう! そんなことを俺に期待しているのか? 君よりいくつか年上で、大人で、同じ男である俺に? 生娘のように恥じらって、これからの同棲生活に浮き足立つような素振りを期待しているのか」

     何がおかしいのか、体を丸めるように腹を押えて肩を震わせて、杏寿郎は「っ、ふふ、はは、」と笑っている。俺はそんなにおかしいことを言っただろうか。無理に求めているわけではないが、恋仲というものはそういう、恥じらいや甘酸っぱさが多少あってもいいものではないのか。もちろん、この男にそれを期待していたわけではないが、こんな契約結婚のようになることも想定していなかったのが本音だ。

     杏寿郎は腹を抱えて笑って俯く体勢になってしまったからその表情は窺がえず、困惑する俺は顔を赤くして、目の前の男を見つめることしか出来なかった。

    「っ、はは……本当に、昔から君の考えは解せないな」
    「そこまで笑うことないだろう。恋人だぞ、少なくとも俺は出会った時から杏寿郎が好きだった。高校の時は未成年だの教え子だのとかわされ続けてきたが、それがやっと叶ったんだぞ。どんな形であれ」
    「ふ。そうだな、君は初めて目が合ったその瞬間からしつこかった。俺のものになるまで諦めないと、他の生徒の目の付くところでもお構いなしにけしかけてきて。だからな、君の気持はよく分かっているぞ」
    「だったら、」
    「無理だろ」

     食い気味に杏寿郎が否定する。そんなに即答で否定されると、いくら俺でも怪訝な顔をするというものだ。
     そんな俺を気にすることもなく、杏寿郎はようやく笑い声を落ち着かせて、髪を揺らし、ゆっくりと顔を上げる――その顔を見て、俺は硬直した。

     つい先ほどまで面白おかしく笑っていたさわやかな声。快活で気持ちのいい、正義感の強い男。それが周囲の知っている煉獄杏寿郎という男。
     だが今、彼はその印象に似つかず、すっと血の気の引いた静かな面持ちを浮かべている。口元は相変わらず引き延ばされて口角を上に向かせているが、鷹のように鋭い瞳は一ミリだって笑っていない。背中に悪寒が走るような、殺気すら感じる顔を俺に向けて、杏寿郎こう言った。

    「――無理だろう。前世で、自分を殺した相手に」

     冷えた表情と突き放す言葉。ぞく、と俺の体は震えて、緩む口元を抑えきれなかった。



    [夏風に心中]



    少し、身の上話をしよう。

     俺の名前は素山猗窩座。去年全日制の高校を卒業し、現在大学一年生。将来の夢もやりたいこともなかったから、大学は奨学金がもらえる体育学部に進学した。
     狛治という名前の兄が一人いる。双子だ。同じ学部だが、俺と違いスポーツ医療科なので、学校で顔を合わせる機会は少ない。幼馴染の恋雪という女と入籍している。式は自分が社会人になってから挙げる予定だといつも惚気を聞かされていてうんざりだ。勝手に幸せになっていろ。

     俺たち双子は見た目も似ていたし、たまに癇癪を起す性格も似ていたけれど、兄は人の面倒見が良く、俺よりも周囲の評判は良かったように思う。幼馴染の恋雪とは毎日遊んだり一緒に過ごす仲だったし、俺も女の中では唯一心を許せた相手だったが、気づけば狛治と付き合っていて、そりゃあ素行のいい兄貴の方を選ぶのは当然だろうなと思っていた。俺の初恋は間違いなく恋雪だったが、その恋はあっけなく敗れ去ったというわけだ。

     二度目の恋は、高校の入学式だった。
     その頃には立派な不良となっていた俺は、高校の進学もしたくないと駄々を捏ねていたのだが、父親が金のことは気にしない頼むから高校だけは行ってくれ、と息子にまで頭を下げるので、仕方なく兄と同じ学校に入学した。

     桜の舞う入学式。
     何時間も祝辞を聞かされるのが面倒でサボりたかったが、狛治と恋雪に引きずられるようにして出席した。体育館のパイプ椅子に座りながら、お偉いさんのじいさんや、年甲斐もなく短い丈のスーツスカートを穿いたオバサンの話に飽きて眠りそうになったその時。学校の教員紹介で聞こえた声に、俺は落としかけていた瞼を見開いた。

    「――煉獄杏寿郎! 担当は歴史だ、新入生の諸君、よろしく頼む!」

     ――瞬間、俺の体には、雷を打たれたかのように衝撃が走った。

     この声を知っている。
     この名前を知っている。
     あれほど欲しがった男の姿を、俺は細胞単位で知っている。

    「――杏寿郎……、……」

     思わずパイプ椅子から立ち上がりそうになった俺を、狛治が慌てて引き戻して座らせる。
     それが、俺と杏寿郎の出会い――いや、正しくは「再会」だった。

     初めは自分の頭がおかしくなったのかと思った。
     この体で、経験したことのない記憶がまざまざと脳に沸いて出てくるのだ。
     まだ第二次世界大戦も始まっていない大正時代。俺は人間じゃなかった。ある夜、一人の男を見つけて、戦って、何度も腕や体を斬り捨てられ、拳を交わし、殺した。

     夏の太陽のように焼き付いて離れなかった男の記憶を、なぜ俺は忘れていたのか。いや、これは俺の頭がおかしくなったから見る幻覚か? あまりに夢見が悪かったら医者にかかろう、そう思っていたのだが。学内で初めて杏寿郎と会話した時、それが悪夢でないことを確信した。

    「……杏寿郎」

     廊下で鉢合わせた歴史教師を見て、つい下の名前で呼んでしまった時のこと。通常であれば教師は叱るものだろう、ちゃんと先生と呼びなさい、と。
     だが、この男は目を丸め、おおよそ生徒に向ける顔ではないほどに威圧的な眼光を向けてきた。

    「……驚いた。鬼も人になれるのか」

     それが、今世で初めて杏寿郎に掛けられた言葉だった。
     ――「同じ」だ。
     覚えている。この男、前世の記憶を引き継いでいる。それを確信した時、俺の体は生まれて初めて昂揚した。全身が熱くなり、震え、顔は高ぶる興奮を抑えきれずに口元を笑みに歪ませる。

    「杏寿郎……! まさか、こんなことがあるとは!」
    「本当にまさかだな。日本が法治国家でなかったら、今すぐ君を殺していたところだ」
    「ははっ、刀もないのにか?」
    「素手でも人は死ぬだろう」

     物騒な会話に、杏寿郎は笑っていた。

    「杏寿郎は変わらないな、相変わらず鍛えているのが分かる。喜ばしいぞ」
    「君は変わったな。妙な紋様が消えて、人間らしくなった。ああ、人間だったか、今は」
    「ふ。そうだ人間だ。あれ程嫌っていた弱者に元通りだ。ところで杏寿郎、今度こそ俺のものになれ、あの夜のことを思い出してから落ち着かなくていけない。俺はよっぽどお前が欲しかったようだ」
    「なんだそれは。鬼の勧誘でもなく君のものになれと?」
    「そうだ、俺のものになれ、杏寿郎」
    「ならない」

     懐かしい会話に、久しぶりに舌が回って仕方なかった。
     あの頃と違い杏寿郎の顔はどことなく穏やかで、俺の戯言にも、ふっと肩を竦ませて呆れ笑いをする余裕があった。

    「冗談を言っていないで教室に戻りなさい、授業が始まるぞ」
    「なんだつまらん、もう少し杏寿郎と昔話でもと、」
    「こら。……先生と呼べ。素山くん」

     にこ、と。
     初めて向けられた笑顔が決定打だった。

     ――俺はよっぽど、この男が欲しかったらしい。
     その瞬間に、俺は恋に落ちる音を聞いたのだ。花瓶が落ちて割れるように、それはそれは簡単なことだった。





     ……と、これが俺の今世での経歴。
     なに? 色恋沙汰の話しかしていない? ああそうだ、これは俺の、素山猗窩座という男の、恋愛の物語だ。

     ――だというのに。

    「……こんな同棲初日があるか?」

     杏寿郎のマンション。
     キッチンに立つ俺は、大学の授業の終わりに立ち寄ったスーパーで買ってきた食材たちをまな板の上に並べ、よく磨かれた包丁でざくざくと切っていた。
     白菜、えのきだけ、人参、ねぎ、しいたけの飾り切り……エトセトラ。平日の家事全般は俺の担当らしいので、遅くまで学校で仕事をしている杏寿郎の為に夕飯を作っているというわけだ。

     今日の献立は鍋だ。理由は簡単、作るのが楽だから。同棲初日ということもあって、本来ならばもう少し気合いを入れた料理を作ってやってもよかったが、そんなことをするほど俺たちの同棲生活に色気というものはないのだと痛感させられたので、なんとなくやる気がなくなったというのもある。自分ばかり浮かれて、杏寿郎に冷めた態度をとられるのもつらい。

    「……まあ、当たり前か」

     杏寿郎の態度があんななのは、理解していたことだ。
     高校生の時に出会ってから、卒業までの三年間、全力で口説き続けてきた相手。学生のうちは無理だ、教師が生徒に手を出すことはできないと、彼らしい正論でずっと誤魔化され続けてやっと。杏寿郎の指導もあり、大学進学を決めて受験が終わったころ、ようやく告白にOKを出して貰えたのだ。そして、大学に慣れて少し経つ今日この頃に、杏寿郎の方から一緒に住もうと提案してきた。そして始まる念願の同棲生活――。

     ――それだけ聞けば付き合いたてのお熱いカップルの同棲だが、現実は違う。
     なんせ、前世で俺はあいつを殺している。あいつは俺に殺されている。そんな男が、自分を殺した相手と恋人という関係になり、同棲まで持ち掛けてくるのには理由がある。

     俺と煉獄杏寿郎という男の同棲生活、それはつまりある事を意味している――俺・素山猗窩座の、監視だ。

    「……今世での俺も、また人を喰うとでも思われているのか?」

     はあ、とため息を吐いた時だった。
     ガチャリ、と玄関の方面から扉の開く音が鳴り、「ただいま!」と快活な声がする。規則正しい足音の後リビングの扉が開かれ、ネクタイをぴっちりと上まで絞めた杏寿郎が帰宅した。

    「早かったな」
    「家に誰か居ると思うと自然と足が早まってな! む、今日は鍋か? いい匂いだ! さて、食事の前に風呂に入ってくる! ああ覗くなよ! 同棲生活のルールに覗きの許可は入っていな、」
    「分かった分かった、その間に出来上がるだろうからさっさと済ませてこい」

     帰宅するなり捲し立てるように言われて呆れてしまう。だが、そんなところが前世から欲しがった男の本質なので、困り顔ながらに口元が緩む。
     鍋の仕込みもあと少し。今日は初めての二人暮らし。どんな形であれ、俺は杏寿郎から聞いた初めての「ただいま」に浮かれていた。

     ……それにしても。俺は風呂を覗くと思われているのか……。





     もちろん、風呂場を覗くことはしなかった。
     風呂上がりの杏寿郎は乾かした髪がほかほかと膨れていて、冬毛の鳥のようだと思って見惚れてしまった。「顔に何か付いてるか? いや風呂に入ったばかりだから何もついてないだろう!」と勝手に自己完結する杏寿郎を見ながら、いそいそと食事の準備を進めていると、「食器の場所は分かるか?」と言いながら手伝ってきた。こんな共同作業をあの煉獄杏寿郎とすることになろうとは、前世の俺は思っていただろうか。

    「よし、いただきます!」
    「ああ……」

     準備も終えて、二人でちょうどいいサイズのローテーブルを前に隣同士。ソファに背を預けて、二人初めての夕食だ。
     頭では理解しているはずの現実が、夢のようにふわふわしていて現実感がない。俺はこいつを殺したことがあって、それは殺すくらい欲しかったからであって、今では隣にこの男が居て手に入ったうようなもので、

    「む!?」

     ぼうっとして箸を動かすことも忘れていると、杏寿郎の大声でハッと我に返った。

    「なんだ。手抜きで煉獄先生のお口に召さなかったか?」
    「違う。なんだろうか、深みのある味がする! 実家の母の味に近いような、自分で鍋を作った時にはない味が……」
    「……ああ、杏寿郎。お前さては、出来合いの鍋スープを買って使っているな? あれはうまいが化学調味料の味が強いからな、こうして一から出汁を取るのとはまた違う」
    「出汁から取ったのか!?」
    「は? 普通そうだろう」

     出汁くらい自分でひく、と俺が答えると、杏寿郎は丸めた目を輝かせてわなわな震えていた。
     そして片手で俺の頭をわしわしと撫で、

    「君は料理が得意だったんだな! 知らなかった!」

     と、満面の笑みを浮かべていた。
     それからうまいうまいと一口ごとに言うので、隣で鼓膜が破れそうだと思いながら俺も食べた。出汁を取るくらい、ひと手間ではあるが簡単なことなのに。そこまで喜んで、まるで子供みたいはしゃいで食べなくたっていいじゃないか。

     ――俺も知らなかったよ。そんなに楽しそうに食事をするなんて。








    初セックス編へつづく
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    TRAINING転生猗窩煉のプロローグ。
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    男の名は、煉獄杏寿郎。俺――素山猗窩座の高校時代の恩師であり、「恋人」である男だ。

    「……なんだその顔は。家事の大半を任された事が不満なのか? その代わり金銭面はすべて俺が責任を負うと言っているだろう。君はまだ大学生なのだし、」
    「いやいや杏寿郎。俺が言いたいのはそういうことじゃない」
    「? じゃあなんだ、その鳩が豆鉄砲を食ったような顔は」
    「――あまりに色気がなさすぎると言っているんだよ杏寿郎!」

     マンションの一室に、俺の悲痛な叫び声がこだました。
     ここは杏寿郎が所有するマンションの一室。正しくは、煉獄家が代々持つ土地の 6585

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