いつか書きたいドルパロキスディノ 大切な存在は失ってから気付く。失い続けていた人生を送る身からすると「何を今更」と一蹴していた言葉は、実際に身に降りかかってようやくその重みを知る。
肩を並べて学生時代を過していた友人は、野球観戦のために都会へ遊びに行った際に芸能事務所にスカウトされた。好奇心を刺激され、挑戦してみたい、と単身で上京してからはよく連絡があった。その回数が次第に減っていくと比例するようにテレビや動画配信サイトのコマーシャルで見る回数が増えていく。画面の中で仲間たちと汗をかきながら楽しそうに歌って踊る友人──ディノ・アルバーニはもうオレが知っている存在では無い。手の届かない場所に行ってしまった存在によって空けられた心の穴の大きさにようやく「あぁ、コイツのこと好きだったんだな」と思い知らされた。
今日もまたひとつ新曲が発表された。頑張っている姿に昔から変わらない言動を見る度に、地元でダラダラと過ごす日々の疲れも癒されていくものだ。家に帰ったら祝いに高めの酒でも飲みながら聴くか。高揚したままの足取りで街灯の少ない夜道を歩いていると見慣れない人影があった。観光に来るような場所では無いから迷子では無いだろう。
「あ、キース……だよな?」
こんな夜の田舎に珍しい者もいるものだ、と通り過ぎようとしたらかけられた声に歩みを止める。
声の方へ顔を向けるとマスクをして、深めに被られた帽子の隙間から夜だと言うのに青空が見えた。どんどん丸く、大きくなっていくその瞳に見覚えしかなくて、ついさっき耳にした声を脳内で反復させる。電子を挟まない生身の声は、いつ以来のものだろう。
「……ディノ、か?」
「ッ、よかったあ! キースに会えた!」
「ちょ、はあ!? 突然飛びついてくんな!」
情けなくも震える声で名前を呼ぶと、昔と変わらぬ姿が腕の中にいた。何年ぶりかも思い出せないのに、昨日も同じようなスキンシップをしていたかのよう咄嗟に体制が崩れないよう力が入る。
瞳だけで安堵しているのだと、力強く抱きしめてくる腕の力に嬉しさが溢れているのだと伝わってくる。こっちの気も知らないで。それ以上に懐かしさが駆け巡っているかのように体が暑くなるのだから文句一つも言えずに背中をポンポンと叩いてやった。昔と変わらぬやり取りも恋愛感情が無いとは言えないのだけが悔しいものだ。
「なあキース、お願いがあるんだけど」
「突然なんだよ、お前は昔から突然のことしか言わねぇけどよ……」
「暫くの間、キースの家に泊めてくれないか?」