いつかシルバーで飾らせて 寒さが少しずつ和らぎ、春の訪れのように誕生日を迎えるディノは陽気に誘われるように食べるピザの種類も変化していく。毎日食べているというのに表情は曇ることはなく輝きを増していく一方で、様子を観察していたキースはずっと考えていたことをどう訪ねるべきかと思考を巡らせていた。そんな何かを言いたいのに言えない視線をずっと感じていたディノは手に取っていた欠片を飲み込んでキースへと顔を向けた。
「キースどうかしたのか?」
「ディノ……誕生日何が食べたい?」
「ピザ」
「あー……いや、わりぃ。聞き方間違えた」
ラブアンドピース星人及びピザ星人だとも言えるディノには愚問の問いかけだったことは間違いないが、進行形で食べているというのに即答をする姿に呆れて溜め息をつく。セクター内で誕生日を祝う時、気がつけば一部とはいえ料理担当はキースになっていてそれぞれの誕生日が近付くと面倒だと口にしながらもしっかりと準備をしていた。普段から頼まれて作ってる故にそれぞれの好みはなんとなく把握しているとはいえサプライズだとしても気分でなかったり微妙なものを出す気にはなれず、フェイスの時はしっかりとリクエストを聞いたのだがディノもジュニアもやっぱり返ってくるのはいつも通りのものだろうと言う考えは正解だった。
けれど、やっぱりピザか。ディノが復帰したことにより手作りピザを作れる環境は整っているが、代わり映えが無さすぎるしいつものピザパーティーと大差なくなってしまう。思わず遠くを見てしまうキースを見てディノは苦笑しながら二枚目のピザへと手を伸ばす。
「ほら、色々種類あるだろ。それの中だとどれがいい」
「んー……今の時期だとオルトナーラとか美味しいよな」
オルトナーラといえば野菜をたっぷりと使ったピザで、記憶を辿ってみれば三月に入ってから一日に必要な野菜の摂取もほとんどピザからになっていると言っても過言ではない気がする。老若男女から好かれるディノは何かと春野菜も差し入れでもらってるし、確かに良いかもしれない。ディノほどではないが気がつけば身に付いていたピザの知識を総動員させながら、あまり自ら作ること無いピザ作りの手順を思い出していく。
「あっ! でも別にピザは注文すればいいし、キースがわざわざ作らなくてもいいからなっ!?」
「は?」
慌てたように申し出たディノの言葉に思考停止する。
「俺はキースが作る料理だったらなんでも好きだから、作りたいものを作ってくれて良いぞ?」
「そんな大雑把でいいのかよ」
「まぁピザ作ってくれたら嬉しいのは確かだけど、その日はオフじゃなかったし無理しなくていいから! その気持ちだけでも俺はすごく嬉しいし」
「……じゃ、言葉に甘えさせてもらうか」
早口で訴えてくるディノにどこか引っ掛かりながらも圧倒され、折れるようにキースは両手をあげた。その事に安堵の息を漏らしたディノは「誕生日楽しみにしてる」なんて頬を指でかきながら満面の笑みを浮かべる。健康的なその手には願掛けといっていたミサンガがついている以外はまっさらだ。飾り気がないとも言えるが、
結局本当に聞きたかったことはピザのように適当にはぐらかされそうで、まぁ良いかと口を閉ざす。そして覚悟しておけよ、と心のなかで呟いては柔らかい髪の毛をくしゃりとかきまぜた。
*
「ディノっ誕生日おめでと!」
「おめでとう、ディノ。これ俺からのプレゼント」
「ありがとうジュニア、フェイス!!」
クラッカーの弾ける音とともに響くジュニアとフェイスの声。パラパラと紙吹雪が舞っている中、本日二度目になる愛しのメンティー達からの祝福にパーティーは始まったばかりだと言うのに感極まったディノは瞳を潤ませる。手渡されたプレゼントの他にオスカーやアッシュ、ジェイもこの場に不在ではあるが届いていた。
「ブラッドは仕事片付けたら持ってくるっていってたぞ~」
キッチンの方から届いたのはキースの声と美味しそうな匂い。既にテーブルには幾つもの料理が並べられていたがメインとなるピザはまだ姿を見せておらず、きょろきょろと辺りを見渡すとキッチンの方から大好物の匂いを纏ったキースがようやく出てきた。そしてその両手に持っているものが視界にはいると目を丸くさせる。
「え。キースそれって」
「オルトナーラとマルゲリータ。あとジャーマンポテトも今焼いてる」
至極当然のように答えていくキースはテーブルに並べていく。ジュニアやフェイスは「上手くできたじゃねぇか」なんて会話をしていて、手作りピザが出てきたことに驚いていたのはディノだけだった。
「注文でいいって言ったじゃないか」
「作りたいものでいいって言ったのはお前だろ」
「それはピザ以外のつもりで……」
嬉しいというのは本心だ。けれど手間暇掛かる料理だと知っている故に自分で作るならまだしも、キースに作ってもらおうという考えは大分前に置いてきたものでもあったから申し訳なさににた戸惑いが生まれてしまう。他人に踏み込むことは得意なのに、距離が近くなると妙なところで一歩後ろへと下がってしまうその様子に呆れたのはフェイスだった。
「誕生日なんだし、主役がそんなに遠慮してどうするのさ」
「そうだぞディノ。おれ達も準備手伝ってたし、キースひとりからってわけじゃねぇしな」
「でもピザソースだけはキースだけでこだわって作ってたよ」
「ばっ、お前それは言うなよ!」
手助けをするように見せかけたフェイスとジュニアは、ニヤニヤと笑みを浮かべながらキースの背中を押してディノの前へと連れてくる。思いもよらぬ暴露に頭をかくが、小さく息を漏らすとディノと正面から向き合った。その頬はわずかに朱色を帯びている。
「まぁ絶対に足りねーと思うから、その分は追加で注文してくれ。……改めて誕生日おめでとう、ディノ」
「……ありがとうキース。すごく嬉しいよ」
まっすぐな言葉がディノの胸へと落ちてくる。不器用な形をしているのに暖かくて、優しくて。心からの言葉なのだと伝わってくるのが嬉しくて、自然と溢れた笑みはキースにつられるように頬が熱くなっているのが分かった。
*
「そうだ、ディノ。お前誕生日プレゼント何が欲しいんだ?」
「んぇ?」
楽しい時間はあっという間に過ぎていき、いつも以上に散らかったリビングを片付けてようやくおちついたキースは、ベッドの上でのんびりしているディノへ言葉を投げた。突然の問いかけに変な声が漏れながらも、体を起こして向けられる視線とみつめあう。
「キースからは手作りピザをもらったぞ?」
「いやそれはなんか……ちげぇだろ」
元々仕事があるというのに自分のためにラブ(本人に言えば否定されるだろうけど)がたっぷりつまったピザを作ってくれたのだ。時間とか、そっちまで頭が回らなかったとパーティー中にも聞いていたから納得しているというのに。クエスチョンマークを浮かべるディノに反して、キースはなにかを言おうと口を開けては閉じてを繰り返す。ここでなにか思い浮かんだものを口にしてもよかったがキースの様子からすると、きっと考えてくれていることがあるのだろうと察したディノはキースの声を待つために固く口を閉ざした。
「なぁディノ」
「なんだ?」
「……オレ、の薬指。いるか?」
「えっ」
予想にもしていなかった言葉に血の気が引く。
「切る訳じゃねぇかあらなっ!?」
「じゃ、じゃあ何で薬指……」
慌てたキースに震えた声で言葉を返すと、狭い歩幅でディノのスペースへとキースは入ってくる。そして音をたてながらディノのベッドへと腰かけると、毛布を掴むディノの手をとった。太いキースの指が、僅かに小さいディノの手の輪郭をなぞっていく。そしてなんの飾り気の無いまっさらな薬指のつけね辺りを優しく撫でた。
「オレのここに。ディノが指輪をつける権利……てのはどうだ?」
「え……」
薬指に指輪。ディノはここまで言われて分からないほどの鈍感ではなく、引いたばかりの血液が戻ってきてはバクバクとうるさく心臓が音をならしていた。つまりこれはプロポーズというものだろうか。けれどなんでこんな遠回りの言い方をするのだろう。やけに回転の早い思考は小さな違和感を感じ取っていて、その正体がキースの己に対する自信の無さから来る不安だろうと直ぐに勘づいてしまう。
バカだなぁ、キース。
心のなかで小さく笑う。ディノがキースのことをどれぐらい大好きなのか、愛しているのかがしっかり伝わっていないのは悔しくもあり、これから何十回、何百回と伝えていくことを強く思いながら、もう片方の手でキースの手が離れないように覆った。
「俺にちょうだい。キースの特別で、一生を誓う証になる場所を」
「お前の誕生日だってのにオレが幸せになってどうすんだ」
「キースが幸せなら俺も幸せだし、これぞまさしくラブアンドピースだなっ」
「……そうかもな」
キースと一緒だと心臓がなかなか落ち着く暇がない。それでも楽しくて、愛で満ち溢れていくのだから幸せ者なのだろう。照れ臭さを表情に浮かべながら困ったように、泣き出しそうに見えるのに嬉しさが隠しきれていないキースへと口付けをした。