先天性🍺🍕♀ テレビの中で見るヒールを鳴らして街を歩く女性を同性ながらかっこいいと憧れていた。いつか大人に成長した自分もあんな風に歩くのだろうかと夢見てた日があるのは正直な所。結局それらが雲の上よりも遠い想像だと知ることができたのはアカデミーに入ってすぐだった。
オシャレよりもスポーツが好きで将来はヒーローの道に進むことが決まっていたこともあって男の子と自然豊かな田舎を走り回っていることが多い幼少期で、女の子という単語とは縁もなかったのだから仕方がない。唯一女の子らしく胸だけが大きく成長してもいるが、運動をするうえで邪魔でしかなくつぶせる下着を身に着けていたし制服以外はオーバーサイズのパーカーやセーターにパンツスタイルが多かったからか男の子に間違われることも少なくはなかった。
故に「女の子」「女性らしさ」とは無縁で生きていたから突然舞い込んだ現状に上手く対応できずにいる。何年ぶりになるかも思い出せない肩の出たワンピースに、夢見たヒールのついたパンプス。肩に触れるか触れないかという長さの髪の毛も綺麗に纏められて首が心許ないし、何よりも胸の圧迫感がなく、視線を下へと向けても足元が見えなかった。
パーティーというものに招待される日が来るなんて想像もしていなかった。実際に招待されたのはジェイだったけれど、メンティーということでブラッドやキースと共に招かれたのだから拒むことも出来ずに今日に至る。パンツスーツでいいという主張は却下され、リリーさんの手によって着飾られた姿はまるで別人だ。軽く化粧も施し終わったのちに「可愛いぞ」と褒めてくれたリリーさんの笑顔の方が絶対に可愛いと思いつつも、後には引けずに会場に向かうことにした。
「気が重い……」
幼い頃に憧れた地面を鳴らしていたリズムとは違って不安定な音を立てて進む度に足取りが重くなり、立ち止まると膝を抱えて溜息をつく。柔らかい裾に皺が出来ちゃうかなぁと頭の隅で考えはするが、立ち上がって会場へ行こうという気持ちに離れずに何度目になるか分からない溜息をついた。
似合っていると言われもしたが俺自身からしたら服に着られているようだと思ってしまう。それにずっと可愛らしい、女の子らしい格好とは無縁だったのだ。キースやブラッド達になんて思われるのだろうかという不安も会場へと一歩進むたびに大きくなっていき近付くことが怖くてたまらない。
「ぉわっ!?」
持たされたショルダーバックが突然震えて体を跳ねあがらせるとバランスを崩して尻もちをついた。痛みで視界が歪んだ気がする。瞬きをして元通りになった世界でスマホとハンカチ、それにインカムしか入ってないショルダーバックを開けてスマホを取り出した。会場に辿り着かない俺を心配してのメッセージがキースから届いていて、自然と口元を緩ませていると手元に何かの影が重なった。
「……ディノ?」
「えっ、キース?」
「なんつー格好してんだよ」
声に顔を上げると見知った姿があって目を丸くする。どうしてここに、と続けようとして発せられた言葉がぐさりと心臓を突き刺して世界が揺らいで視線をスマホへと戻した。
「あ、あはは……やっぱ似合わないよな……」
心臓がじくじくと痛みだす。なんだろう、これ。後ろへ転んだ時よりも痛みを感じるけれどその理由がよく分からなくて戸惑っていると「は?」なんて気の抜けた声が聞こえ、恐る恐るキースに目を向けてみると首を傾げている。
「いや、なんでこんな所で転んでんだよってことなんだけど」
「へ」
「……立てるか?」
差し出される手の平とキースの顔を交互に見て、パチクリと瞬きをすると涙が頬を伝っていくのが分かった。