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    last_of_QED

    @last_of_QED

    ディスガイアを好むしがない愛マニア。執事閣下、閣下執事、ヴァルアルやCP無しの地獄話まで節操なく執筆します。デ初代〜7までプレイ済。
    最近ハマったコーヒートーク(ガラハイ)のお話しもちょびっと載せてます。

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    last_of_QED

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    しがない愛マニアである私が原作の奥に想い描いた、ディスガイア4、風祭フーカと父親の話です。銀の弾は怪物を殺せるか?

    #ディスガイア4
    disgaea4
    #フーカ
    hookah

    【銀の弾など必要ない】



    白衣が揺れる。頭をかいてデスクに向かうそのくたびれた男に私は恐る恐る声を掛ける。

    「パパ、お家なのにお仕事?」

    男はこちらを振り返りもしない。研究で忙しいのだろうか。それとも、私の声が届いていないのだろうか。
    父親の丸まった背中をじっと見つめる。十数秒後、その背がこわごわと伸び、首だけがわずかにこちらを向く。

    「すまん、何か言ったか?」

    この人はいつもそうだ。母が亡くなってから研究、研究、研究……。母が生きていた頃の記憶はあまりないから、最初からこんな感じだったのかもしれないけれど。それでも幼い娘の呼び掛けにきちんと応じないなんて、やはり父親としてどうかしている。

    「別に……」

    明らかに不満げな私の声に、ようやく彼は腰を上げた。

    「いつもすまんな。仕事が大詰めなんだ」

    パパのお仕事はいつも大詰めじゃない、そう言いたいのをぐっと堪え、代わりに別の問いを投げかける。

    「いつになったらフーカと遊んでくれる?」

    ハハハ、と眉を下げて笑う父は少し疲れているように見えた。すまんなあ、と小さく呟き床に胡座をかく。すまん、それがこの人の口癖だった。ようやく視線を合わせた父から少しお喋りしようか、と提案されて私は目を輝かせた。

    「フーカ。『銀の弾などない』という言葉があってね」
    「銀の玉?」
    「弾さ、銃弾のことだよ」

    父は右手でピストルの形を作ると引き金を引くそぶりを見せた。小さな私を抱き上げ、自身の膝に乗せると頭を撫でる。ぎこちない手から、それでも温かみが伝わってくる。それだけで私は父の全てを許してしまえる気がして、馬鹿らしく思えた。

    「パパは来る日も来る日も、こうやって研究を繰り返してる。これを打破する発想、助っ人、万能の一手……そんなものがあればそれこそ魂を売ってでも手に入れるんだろう。そうすればフーカとも遊んでやれる。でもね、実のところ世の中にはそんな都合の良いものなんかないってニュアンスの格言なんだ」

    首を傾げて聞いている幼いフーカに白衣の男は続けた。

    「銀の弾というのは例えなんだ。狼男、ドラキュラ、その他諸々の恐ろしい怪物たちと鉢合わせる……そんな局面に一発で形成逆転を狙える聖なる銃弾。そんなお伽話みたいな代物なんかないから、地道にやりなさいよってことなんだろうさ。それに、元も子もない話だが銃弾の素材は鉛が基本だ。銀じゃ威力不足な割に値が張ってとてもじゃないが実用的ではないだろうね」

    まあ、時として銀は魔を退けるという西洋の宗教観は理解出来るんだがワシは科学者だからな……そんなことをごにょごにょ言うこの研究者は、間違いなく自分の父親だと思った。私は腹回りにまわされた腕をひしと掴む。

    「でもね」

    父は続ける。その目は慈しみをもってフーカを見つめている。フーカはきょとんとした顔で父親を見上げた。目の下の隠せないクマ、伸びっ放しにされている髭。何かに追われるように、刻一刻を惜しむように研究に打ち込むこの人が、一体何に突き動かされているのか、この頃の私は知り得ない。

    「それでもワシは銀の弾を今でも夢見ている。楽しようっていうんじゃない。フーカ、君のための最高の一手がきっとあるって、パパは今も信じているんだ」

    だから待っていてくれ、君と母さんの幸せをきっと叶えるから。そう告げた父はぐにゃり歪み始める。輪郭がぼやけていき、色と色とが混ざり合い背景に溶けて、私は1人になった。
    1人になった私は、己の存在を確立できず、机上のフラスコたちと浮遊し、ゆっくりと、泡のように、消えて行く。





    「おねえさま、おねえさま」

    目を開けると妹のデスコが不安げな表情で顔を覗き込んでいた。目を擦ると此処がいつもの地獄だと分かり、不思議とホッとした。私の悪夢はまだまだ覚めないらしい。

    「ずっと目を覚まさないから心配したのデス……」

    可愛い妹。私の家族。愛おしくなり、デスコをぎゅっと抱きしめる。

    「おねえさま?」

    何も言葉を発さないことに動揺するデスコの触手はそわそわしている。大丈夫よ、良く寝てスッキリしたわ。そう言うとデスコの頭を優しく撫でた。デスコが嬉しそうに目を細める。

    「デスコ、ちょっと着いてきてくれる?」
    「勿論デス! ……何処へ行くのデスか?」
    「ふっふっふ。いざ、怪物たちのいる所へ!」

    プリニー帽をくいと被り直し、妹を引き連れ慣れ親しんだ地獄道を征く。





    恐ろしい怪物の本拠地……というよりも、好んでこの地獄に居座る様変わりな怪物。それを目当てに執務室へ飛び込むと威勢良く声をあげた。

    「ヴァルっち、ちょっと聞いていい?」
    「どうした、小娘」
    「お前は最低限の礼儀作法も知らんのか。せめてノックをしろ、ノックを」

    扉の向こうにいたのはお目当ての怪物たち。吸血鬼ヴァルバトーゼとその執事の狼男、フェンリッヒ。
    夢から覚めない少女は、夢から覚めないままで問う。

    「銀の弾って実在するのかな」
    「ほう? ヴァル様の武勇伝が聞きたくなったか?」
    「そういえば400年前、銀の銃弾で撃たれた覚えがあるな」

    どの辺りだったか、数発喰らったような気がするが……とヴァルバトーゼは胸の辺りをペタペタと触っている。

    「えっ、あるの!? それで、どうなったの!?」
    「この通り生きている」

    何を言っておるのだときょとんとした顔でフーカを見るヴァルバトーゼの横から今度はフェンリッヒが誇らしげに語り始める。

    「俺を庇い、対悪魔用に作られた銀の銃弾を3発受けてなお、ヴァル様は膝をつかなかった。それどころか屋敷の天井を結界ごとぶち破り、敵の精鋭たちを薙ぎ払ったあの御姿……まさに暴君、惚れ惚れする強さでございました」
    「銀の弾が実在したと思ったら結局悪魔に効かなかった、なんてそんなのアリ? 状況打破の最強の一手なんてやっぱりない、かあ……」

    しょげるフーカを横目に状況が読めんが、と一呼吸置いて吸血鬼は笑う。

    「今更何を言っているのだ。銀の弾など、俺たち悪魔を仲間にしたお前にはそも必要ないだろう」

    その言葉にハッとして吸血鬼を見る。吸血鬼の目はフーカの奥の何かを見据えている。何が、とは言えない。しかし彼の中の何かがほんの少し父と重なったような気がした。

    「閣下、あくまで小娘が我々悪魔の仲間なのであって、我々が小娘の仲間なのではありません」
    「どちらも同じではないか」

    使い魔風情が偉そうに……ぼやくフェンリッヒと小言を受け流し飄々としているヴァルバトーゼの相変わらずのバランスが妙に目と耳に馴染んだ。そんな光景が無性に愛おしく、おかしくなって、少女は笑った。つられてデスコも笑って、2人の怪物は不思議な顔でそれを見ていた。

    パパが追い求めた銀の弾は実在した。けど、怪物には効きませんでした。なんて、とんでもない悪夢よね。

    でも。
    5歳の小さなアタシの願い「世界征服を手伝ってくれる妹がほしい」。それを真に受け叶えようとあなたが生み出した妹と、銀の弾なんかものともしないトンチキな悪魔たちと過ごす地獄生活も存外悪くないんだよ。パパ。


    ++++++++++++++++++++


    ディスガイアを語る上で大切なものがあると思っています。「愛」です。
    ディスガイア4にも沢山の愛が込められていました。愛に優劣や順位はありませんが、しがない愛マニアである私が特に愛を見出したのは、原作ではあまり触れられなかったフーカと父親とのことです。
    フーカが地獄に堕ちたのは、世界征服を望んだからではなく、その幼い願いが実際に父を動かし、ラスボスを生み出す直接的な原因となったからだと推察しています。
    銀の弾などない。という言い回しが実際にありますが、フーカという少女には「銀の弾など必要ない」。何故なら父が銀の弾を見つけられなかったお陰で唯一無二の妹が生まれ、地獄に堕ち、父の愛と真意を知り、悪魔たちととびきり愉快でハッピーな夢を見ることができたのですから。
    ディスガイア4で皆さんの見た「愛」は何ですか?
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    白衣が揺れる。頭をかいてデスクに向かうそのくたびれた男に私は恐る恐る声を掛ける。

    「パパ、お家なのにお仕事?」

    男はこちらを振り返りもしない。研究で忙しいのだろうか。それとも、私の声が届いていないのだろうか。
    父親の丸まった背中をじっと見つめる。十数秒後、その背がこわごわと伸び、首だけがわずかにこちらを向く。

    「すまん、何か言ったか?」

    この人はいつもそうだ。母が亡くなってから研究、研究、研究……。母が生きていた頃の記憶はあまりないから、最初からこんな感じだったのかもしれないけれど。それでも幼い娘の呼び掛けにきちんと応じないなんて、やはり父親としてどうかしている。

    「別に……」

    明らかに不満げな私の声に、ようやく彼は腰を上げた。

    「いつもすまんな。仕事が大詰めなんだ」

    パパのお仕事はいつも大詰めじゃない、そう言いたいのをぐっと堪え、代わりに別の問いを投げかける。

    「いつになったらフーカと遊んでくれる?」

    ハハハ、と眉を下げて笑う父は少し疲れているように見えた。すまんなあ、と小さく呟き床に胡座をかく。すまん、それがこの人の口癖だった。よう 3321

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    last_of_QED

    Deep Desire【悪魔に愛はあるのか】の後日談として書きました。当社比アダルティーかもしれません。煩悩まみれの内容で上げるかどうか悩むレベルの書き散らしですが、今なら除夜の鐘の音に搔き消えるかなと駆け込みで年末に上げました。お許しください…【後日談】


    「やめ……フェンリッヒ……!」

    閣下との「戯れ」はようやくキスからもう一歩踏み込んだ。

    「腰が揺れていますよ、閣下」
    「そんなことな……いっ」
    胸の頂きを優しく爪で弾いてやると、我慢するような悩ましげな吐息でシーツが握りしめられる。与えられる快感から逃れようと身を捩る姿はいじらしく、つい加虐心が湧き上がってしまう。

    主人と従者。ただそれだけであったはずの俺たちが、少しずつほつれ、結ばれる先を探して今、ベッドの上にいる。地獄に蜘蛛の糸が垂れる、そんな奇跡は起こり得るのだ。
    俺がどれだけこの時を待ち望んでいたことか。恐れながら、閣下、目の前に垂れたこの細糸、掴ませていただきます。

    「閣下は服の上から、がお好きですよね。着ている方がいけない感じがしますか?それとも擦れ方が良いのでしょうか」
    衣服の上から触れると肌と衣服の摩擦が響くらしい。これまで幾度か軽く触れ合ってきたが素肌に直接、よりも着衣のまま身体に触れる方が反応が良い。胸の杭だけはじかに指でなぞって触れて、恍惚に浸る。

    いつも気丈に振る舞うこの人が夜の帳に腰を揺らして快感を逃がそうとしている。その姿はあまりに 2129

    last_of_QED

    DOODLE主人に危機感を持って貰うべく様々なお願いを仕掛けていくフェンリッヒ。けれど徐々にその「お願い」はエスカレートしていって……?!という誰もが妄想した執事閣下のアホエロギャグ話を書き散らしました。【信心、イワシの頭へ】



    「ヴァルバトーゼ閣下〜 魔界上層区で暴動ッス! 俺たちの力じゃ止められないッス!」
    「そうか、俺が出よう」

    「ヴァルっち! こないだの赤いプリニーの皮の件だけど……」
    「フム、仕方あるまいな」

    何でもない昼下がり、地獄の執務室には次々と使い魔たちが訪れては部屋の主へ相談をしていく。主人はそれに耳を傾け指示を出し、あるいは言い分を認め、帰らせていく。
    地獄の教育係、ヴァルバトーゼ。自由気ままな悪魔たちを良く統率し、魔界最果ての秩序を保っている。それは一重に彼の人柄、彼の在り方あってのものだろう。通常悪魔には持ち得ない人徳のようなものがこの悪魔(ひと)にはあった。

    これが人間界ならば立派なもので、一目置かれる対象となっただろう。しかし此処は魔界、主人は悪魔なのだ。少々横暴であるぐらいでも良いと言うのにこの人は逆を征っている。プリニーや地獄の物好きな住人たちからの信頼はすこぶる厚いが、閣下のことを深く知らない悪魔たちは奇異の目で見ているようだった。

    そう、歯に衣着せぬ言い方をしてしまえば、我が主人ヴァルバトーゼ様は聞き分けが良過ぎた。あくまでも悪魔なので 7025

    last_of_QED

    DONER18 執事閣下🐺🦇「うっかり相手の名前を間違えてお仕置きプレイされる主従ください🐺🦇」という有難いご命令に恐れ多くもお応えしました。謹んでお詫び申し上げます。後日談はこちら→ https://poipiku.com/1651141/5571351.html
    呼んで、俺の名を【呼んで、俺の名を】



     抱き抱えた主人を起こさぬよう、寝床の棺へとそっと降ろしてやる。その身はやはり成人男性としては異常に軽く、精神的にこたえるものがある。
     深夜の地獄はしんと暗く、冷たい。人間共の思い描く地獄そのものを思わせるほど熱気に溢れ、皮膚が爛れてしまうような日中の灼熱とは打って変わって、夜は凍えるような寒さが襲う。悪魔であれ、地獄の夜は心細い。此処は一人寝には寒過ぎる。

     棺桶の中で寝息を立てるのは、我が主ヴァルバトーゼ様。俺が仕えるのは唯一、このお方だけ。それを心に決めた美しい満月の夜からつゆも変わらず、いつ何時も付き従った。
     あれから、早四百年が経とうとしている。その間、語り切れぬほどの出来事が俺たちには降り注いだが、こうして何とか魔界の片隅で生きながらえている。生きてさえいれば、幾らでも挽回の余地はある。俺と主は、その時を既に見据えていた。堕落し切った政腐を乗っ取ってやろうというのだ。
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    CAN’T MAKE11/5新月🌑執事閣下🐺🦇【俺の名を、呼んで】今、貴方を否定する。
    「呼んで、俺の名を」の後日談。お時間が許せば前作から是非どうぞ→https://poipiku.com/1651141/5443404.html
    俺の名を、呼んで【俺の名を、呼んで】



     教会には、足音だけが響いている。祭壇の上部、天井近くのステンドグラスから柔い光が射し込んで、聖女の肌の上ではじけた。神の教えを広め、天と民とを繋ごうとする者、聖職者。その足元にも、ささやかな光を受けて影は伸びる。
     しんと凍えそうな静寂の中、彼女はひとり祭壇へと向き合っていた。燭台に火を分け、使い古しの聖書を広げるが、これは決してルーチンなどではない。毎日新しい気持ちで、彼女は祈る。故に天も、祝福を与えるのだろう。穢れない彼女はいつか天使にだってなるかもしれない。真っ直ぐな姿勢にはそんな予感すら覚える眩しさがあった。

     静けさを乱す、木の軋む音。聖女ははたと振り返る。開け放っていた出入口の扉がひとりでに閉まるのを彼女は遠目に見つめた。風のせいだろうかと首を傾げれば、手元で灯したばかりの蝋燭の火が揺らめき、何者かの息によって吹き消える。不可思議な現象に、彼女の動作と思考、双方が同時に止まる。奏者不在のパイプオルガンがゆっくりと讃美歌を奏でればいよいよ不穏な気配が立ち込める。神聖なはずの教会が、邪悪に染まっていく。
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