Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ねこさ

    好きなものを好きなタイミングで

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Gift Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 11

    ねこさ

    ☆quiet follow

    イデマレ版ワンドロライ。お題は初恋。
    恋人同士なイデマレちゃんがお互いの初恋暴露をネタに喋ってるだけ

    #イデマレ
    imago-mare

    初恋


     その日イデアは、いつも通りに不法侵入してきたマレウスを放置で、オルトの新しい飛行ユニットの出力計算に勤しんでいた。マレウスの方も心得たもので、勝手知ったる恋人の部屋とばかりにイデアの本棚を漁って読書を楽しんでいる。
     あの辺りの棚はいわゆる表棚で片付け済だから見られてマズい類は置いてないはず、と横目で確認して、それきり作業に集中していたイデアが漸く一段落したところで声をかけられた。

    「シュラウド。初恋の経験はあるか?」
    「はいぃ?」

     相変わらずの前ふりなしのピンボール発言。
     何故そんな質問を、と目を剥いたイデアはマレウスの手元を見て納得した。あ、それ幼馴染モノの恋愛漫画……。内容はちょっと甘酸っぱすぎてイデア好みではなかったけれど、絵がものすごく好きだったので買ったやつ。エログロも下ネタも無いので無難と判じて表棚に入れておいたんだった。
     そういえばあれ、初恋を引きずってどうの〜って話でしたなー。
     いやそんなことよりお目々キラキラさせちゃってるけどマレウス氏、それ面白かったんですか? 初恋拗らせた男女が三角関係だの四角関係だのドタバタしつつ青春しまくる王道ラブコメが?
     茨の谷の王族に変なもの読ませちゃったかな……今更だけど……と些か遠い目になっていると、マレウスのご尊顔がぐわっと眼前に迫った。

    「質問に答えろ。初恋は経験したのかしないのか」
    「あ、あー、まあ、したと言えばしたみたいな……?」
    「ほほう。その話聞かせてもらおう」

     ここで『僕の初恋は君だよ』なんて微笑めれば良かったのだろうが、残念なことにイデアにそんなスキルは備わっていない。あと妖精さんにその手の嘘をついても十中八九見破られる。
     仕方なくイデアは重たい口をブチブチと開いた。

    「僕のは初恋って言うか……もどきだと思うんだけど……僕がまだ小さかった頃さ、実家の近くでお祭りがあって、その晩、窓越しに覗き込んできた女の子がいたんだ。お祭りで迷っちゃってみたいなこと言ってたと思う。暫く話して帰ったんだけど、その子がそれからもちょくちょく……って言っても月イチくらいで遊びに来るようになってね。いつも窓越しで会話するだけだったけど、オルト以外とそんな話すのは初めてだったからもっと仲良くなりたいとか思ったりして……」
    「ほお。それで? どうしたんだ?」

     興味深そうにするマレウスにイデアは肩をすくめてみせた。

    「どうもしない。ある日突然気がついたんだ。僕の部屋、三階だって。認識阻害がかかってたんだろうね。僕が成長したから破れちゃったんでしょ。びっくりして次に彼女が来たとき問い質したら案の定ゴーストだった。ついでに少女の姿だったのはその近所で少女時代を過ごした彼女の残留思念みたいなもので享年は八十二歳。本体は死者の国で生前の旦那さんと再会結婚して幸せにやってた」
    「それは……残念だったなと言うべきか?」
    「いやいや、そういう人間的おためごかし覚えなくていいから。まあ、そもそも周りにいたのがその子だけだったっていう選択肢のない状況だったわけですし、初恋と言うにはノーカンでしょこれ」
    「ノーカンとはなんだ」
    「ノーカウント。数に数えないって意味ですわ」

     なるほど、と頷くマレウスにイデアは、これ以上突っ込まれる前にと矛先を反らす作戦に出た。

    「拙者のことよりマレウス氏はどうなんです? 長い人生……じゃない妖精生でしょ。初恋とかあったんじゃないでござるか〜?」
    「僕か。そうだな」

     マレウスは少し考え込むようにして形の良い顎に指を当てた。

    「……僕がまだ卵から孵ったばかりでドラゴンの姿を多くとっていた頃のことだ」
    「おっ」

     正直に言えばマレウスの初恋などというものを聞くのは複雑である。こう見えてイデアは独占欲の強いほうなので。出来ることなら愛しい妖精の最初の恋も最後の恋も全部自分が独占したい。まあ最後の恋はがっちり頂くつもりだが、出会う前のことは諦めるしかない。
     あとはもう禁忌の時間魔法かタイムマシンでも開発するしか。あ、それちょっと有りかもしれない。でもその場合タイムパラドックスの管理が面倒くさいかなあ……なんて考えていると、涼やかな声がゆっくり言葉を紡ぐのが耳に届いた。

    「今でもだが、茨の谷の城にドラゴンは僕とおばあさまのふたりしか居ない。おばあさまは滅多に竜体になられないので僕は自分以外のドラゴンを見たことがなかった」

     ほうほう。てかこれ、ドラゴンの生態に触れるかなり貴重な話なのでは?

    「僕の寝室の窓は東を向いているのだが、その頃、昼のほんの一時だけ靄が晴れて東の山の砦が見えた。砦にはいつもひとりの黒いドラゴンが見張り台に立っていた。見張り台から何者の侵攻も許さぬとばかりに睥睨する姿が凛々しくて、僕はその姿を見るのが好きだった。憧れていた」
    「う、同族、しかも稀少種……これ拙者負けフラグでは」
    「なんだ?」
    「あ、いえ、続きをどうぞ」
    「うむ。やがて僕も成長し長く飛べるようになって、そのドラゴンに会いたいと思った僕は城を抜け出し砦に行ったのだ」
    「そ、それで会えたのですかな?」
    「会えた……が会えなかった」
    「と言うと?」
    「彼はドラゴンではなかった。ドラゴンを象ったガーゴイルだったんだ」
    「…………」

     え、えぇーー。まさかの無機物。
     言葉を失くしたイデアの前でマレウスは深々とため息を吐き出した。

    「リリアには笑われた……『だから茨の谷のドラゴンは陛下とお主だけだと言っただろう』とな。あまりに腹を抱えて笑うので笑いすぎて椅子から転げ落ちて腰を打っていたくらいだ」
    「リ、リリア氏……」

     それでいいのかお目付け役。ぶっちゃけマレウスの情緒がバグってるのってリリアの責任が大きいんじゃないかと疑っているイデアである。

    「だがまあ確かにリリアが笑うのもわかる……ガーゴイルを同族と間違えて恋をしていたなど……」
    「の、ノーカン! マレウス氏のそれもノーカン! 初恋に入りませんので恥じることなし!」

     イデアはつい、しょんぼり肩を下げてしまったマレウスに、咄嗟のノーカウント判定を突きつけてしまった。だって可哀想じゃん!
     するとマレウスはきょとりと丸くした目を何度も瞬かせた。

    「ノーカン……なのか?」
    「ノーカンですぞ! それはただの勘違い! だって相手は無機物でござるぞ? 子供の頃のあるある!」
    「そうか、ノーカンか。ではこれは初恋ではなかったのだな。それなら僕の初恋は……いやこれもノーカンか……こっちも……ノーカンだな」

     え、マレウス氏、どんだけ無生命物体に恋してるの?
     ちょっと恋人のフェティシズムが心配になったイデアだったが、急に顔を上げたマレウスの浮かべた笑みと続いた台詞に何もかもがすっ飛んだ。

    「ああ、なるほど。どうやら僕の初恋はシュラウドだったらしい」

     お前ならノーカンではないだろう?
     そう言ってクスクスと笑う妖精さんに心臓を撃ち抜かれイデアは椅子に沈み込んだ。

    「どうしたシュラウド?」
    「い、いえ……」

     何とか背を起こし反撃を試みる。

    「そ、そういうことなら拙者の初恋もマレウス氏ですなあ?」

     ふひひ、と口端を釣り上げてみせると、マレウスは光る魔力の鱗粉をパアッと飛ばして、更に嬉しそうに破顔した。

    「では僕たちは初恋同士ということか。ふふ、お揃いだなシュラウド」

     ああ〜〜拙者の恋人がこんなに可愛い。
     クリティカルヒットを食らったイデアは最早これまでとPCの電源をオフにした。今日の作業はここまで。マレウスの手から持ったままだった漫画本を取り上げデスクの上に放り出すとベッドの方へ引っ張る。
     夜は長いようで短いので。
     初めての恋も最後の恋も全部捧げるから捧げて欲しいと、そんな欲を秘めてイデアはうやうやしいキスを開始した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💴💴💴💴💴💕💖💕💯💯🙏😭🙏💖💖💒💒😍😍💒💒💒🇱🇴🇻🇪💕💕💕😭😭💕🙏🙏🙏🙏😭❤🙏💖💕💕💕💯💴💖💖💖💖💖💖💘💖💖💞💙💚😭🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    ねこさ

    DONEイデマレ版ワンドロライ。お題は初恋。
    恋人同士なイデマレちゃんがお互いの初恋暴露をネタに喋ってるだけ
    初恋


     その日イデアは、いつも通りに不法侵入してきたマレウスを放置で、オルトの新しい飛行ユニットの出力計算に勤しんでいた。マレウスの方も心得たもので、勝手知ったる恋人の部屋とばかりにイデアの本棚を漁って読書を楽しんでいる。
     あの辺りの棚はいわゆる表棚で片付け済だから見られてマズい類は置いてないはず、と横目で確認して、それきり作業に集中していたイデアが漸く一段落したところで声をかけられた。

    「シュラウド。初恋の経験はあるか?」
    「はいぃ?」

     相変わらずの前ふりなしのピンボール発言。
     何故そんな質問を、と目を剥いたイデアはマレウスの手元を見て納得した。あ、それ幼馴染モノの恋愛漫画……。内容はちょっと甘酸っぱすぎてイデア好みではなかったけれど、絵がものすごく好きだったので買ったやつ。エログロも下ネタも無いので無難と判じて表棚に入れておいたんだった。
     そういえばあれ、初恋を引きずってどうの〜って話でしたなー。
     いやそんなことよりお目々キラキラさせちゃってるけどマレウス氏、それ面白かったんですか? 初恋拗らせた男女が三角関係だの四角関係だのドタバタしつつ青春しまくる王道ラブコメ 3247

    recommended works