軽くて薄いのがいい「リコ」
なんとなくの勘で休憩に入ってすぐ店の裏口にむかうと、濃紅の色が視界に飛び込んでくる。気怠げな仕草で呼びかけに首だけ向けたリコが軽く目を見開いた。雑然とビール樽やストッカーが積まれた裏口に軽く目をやり、どうやら連れはいないらしいということを確認して歩み寄ると、懐から携帯灰皿を出してタバコの火を消す。何も口にはしないが、その目に軽く棘があるのには気づかないふりをした。
「……なに、アンタ具合悪いんじゃないの。まさかシフト入ってないよな」
「今日は荷物取りに来ただけ。それにもう治ったよ」
病人が出歩くなと言外に言われ、こうして出歩ける程度ではあることを見せてもリコは疑わしい目を向け続ける。病人扱いされることは愉快ではないが、その目の奥にある気遣わしげな色を隠しきれないのを見ても反発する気持ちは湧いてこなかった。これが他のチームの人間であればまた違っただろうが、実際にヒースが調子を崩すたびに直接の迷惑を被るのだからやはり態度は他とは違ってくる。
ボディバッグを探り、そっけない茶封筒を取り出し差し出すと、訝る様子を隠そうともしない。
「なにこれ」
「昨日のタクシー代」
「……あっそ」
先程タバコの火をもみ消した指が優雅な動きで薄茶色の封筒をつまみ上げる。その場で中を改めて、軽くうなずいてみせた。気を遣って受け取りをためらうでもなく、当然のように手を伸ばすのがリコの良いところだと思う。
「リコのお陰で助かった。ありがとう。」
「別に? アンタが倒れるとオレらも困るってだけだし」
「ごめん。でも助かったのは本当のことだから」
言い募れば、タクシー代を忍ばせた茶封筒をひらめかせて面倒臭そうに再びタバコに火をつけた。もう行けということだろう。そらした目元に僅かに赤みが差しているのを見ないふりをして重い扉に手をかける。
「今度からもっと早く言えよ。どうせアプリですぐ呼べるし」
振り返らず、もう一度礼を言って店の中に戻った。