Kissing ─キスをする
触れ合わせてた唇を離すと、緊張が解けたように息を吐いて君はゆっくりと目蓋を開いた。どう? と訊くと、……よく分からないと頭を俯かせる。
「気持ちよかったとか何かの味がしたとか上手だったとかさ」
「そう言われれば少しアルコール臭い気がする。君、昨夜ビールか何か飲んだだろう」
聴きたかったのはそういう事じゃなくて。新の細い肩に両手を付いて仁はガックリと肩を落とす。ムードやロマンを求める相手じゃないとは解っていても肩すかしだ。せめて熱い眼差しくらい向けてくれても構わないのに、相変わらずの無表情は崩れないし。
「何なんだ、一体」
「いーや、冷静な新くんはさぞかし経験豊富なんだなって感心してたトコ」
「経験なんてある訳ないだろう。この外見で女子と付き合えると思うか? 可愛いとしか言われないこの俺が」
「範囲外だわな……って事は今のが初?」
「……一応幼少にはあるけど」
「事故で?」
「どうしてそう決めつけるんだ……似たようなものだけど」
言葉は尻窄みになっていき、ついには顔を背けてしまった。もはやムードどころかただの雑談になりつつある。もう一回、とは言えない空気に仁は小さく唸った。
じゃあ帰るかとカバンを手に取る新を、ちょっと待ってと呼び止めたもののどうしたらいいか良案は浮かばない。
「……髪に糸くずが」
「え、ああ、取ってくれんの あり……」
屈んだ拍子にちゅ、と小さく音を立て、口を掠めて行った感触。
咄嗟過ぎて何も言えない。口を金魚のようにパクパクさせる仁に、感想は? と目を細めた新が下から覗き込んだ。
2015.3