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    karanoito

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    karanoito

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    吉田&新 吉田ルートネタバレ。エンドNo.13の続きみたいな。

     俺のこと怒ってますか。終わらない夕焼けの中、顔の見えない少年は言った。逃げ続ける吉田の足が止まる。彼の顔も名前も知らない。でも言うべき言葉は覚えていた。
    「ああ、もちろん怒ったさ。お前のことは何度も夢に見るんだ」
     金曜日に一緒にいた誰かのこと。展示の準備を手伝ってくれた誰かのこと。一緒に文化祭を楽しんだ存在のことを。誰が忘れるものか。
    「お前が引き留めたから、って狐に八つ当たりもしたよ。あの狐は何も悪くないのにな」
    「そうですね、俺がしたかっただけですから。すみません」
     先輩をこんな目に遭わせて。逢魔ヶ時の世界を逃げ続けて、疲れた手を取る温かい手。それは子狐の時と変わらなくて、七不思議の少女に連れて行かれそうになる不安が和らぐ。
    「なぁ、何一つ思い出せないけど、お前は人間だよな?」
     手を引いて歩き出す背中に問いかける。
    「それは……俺にも解りません。覚えてないなら怪異かもしれませんよ」
    「逃げ続けてヘトヘトなのに気落ちすること言うなよ……」
     これ以上、追いかける鬼が増えるなんて冗談じゃない。
     もし思い出せたらどうしますか? と落ち着いた声は問いを返した。
    「思い出せたらって……お前が人間に戻れるってことか?」
    「戻れるかもしれないし、狐の姿かもしれません。それでも思い出したいですか?」
     少年の影は振り向かないまま校舎を進む。狐のまま……怪異のまま? それは暗に、戻りたい日常ではなく異界に消えることを示唆していた。あれだけ恐れた異界に。
     それでも。
    「思い出したい」
     本当に? くすくすと笑う少女の声が廊下に反響する。
    「思い出したからって帰れるとは限らないのに……二度と現世に戻れなくてもいいの……?」
    「そうですよ、熟考しましたか?」
    「お前がそれ言うなよ」
     それでもいい、思い出したい。行く末は同じなのに何故だろう、決められずに逃げ続ける今よりずっと明るい展望のような気がした。
    「そうだよ、こうして怯え続けるくらいならお前と心中する方が清々するだろうし。間違ってもいい」
     怪異を振り切るように二人は走り出す。
    「思い出して、またお前と会って話がしたいよ」
    「そうですね……俺も」
     もう一度、外で吉田先輩と会いたいです。かみしめるように呟く。胸に希望が灯るような声音だった。
     昇降口が見えてくる。小さくなって、そして止んでいく笑い声。
    「そう。決めたならもう止めはしないよ……つまんないけどね……」
     ため息を残し、少女の気配が消える。扉の前に立った少年が取手を掴むと、あっさりと扉が開く音がした。
    「ほら、外に出られますよ先輩」
    「え? ああ……」
     また会えたら話してくださいね。光の中そう言って控えめに微笑んだ後輩を、何処かで見た気がした。
    ***
    「また来るよ」
    「……司? ここどこ……?」
    「──吉田!!」
     立ち去ろうとする司を呼び止める。喉がガラガラだ。戻ってきたんだな!! と友人の感涙に濡れながら、眼鏡のない朧気な視界で確かめる。
     決断出来なかった日曜日に倒れて以来、今まで入院していたらしい。長い闘病の末、精密検査の結果、精神に異常なしと認められた。
     手もある、目もある、耳もある。あれから何度も確かめる。両親に祖父に司……ふとした日常の大切なもの。何度確かめてもしっくり来ない。
    「……全部あるのに」
     何故だろう、何かが足りないと思ってしまったのは。

    R6(2024).5.6
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