校内限定放課後ハロウィン
「よし、チョコをやろう」
「じゃあ俺はこの飴を」
廊下で出会った貴文とお菓子を交換する新。趣旨違わね? と頭の後ろで腕を組む橋本にも飴をやる。今日は教師公認のお菓子を持っていても没収されない日だ。
校内限定ハロウィン。演劇部や個人で持ち寄った衣装のお化けたちが、放課後の校内を練り歩いている。貴文は札が貼り付いたキョンシー、橋本はミイラ男、新は白いお化けの被り物といった具合だ。放課後なのに職員室がもぬけの殻でちょっと面白かった。今頃は警備員がターゲットになっているだろう。新もさっき貰った。
これで仁対策はバッチリだ。今年はこっちから悪戯を仕掛けてやろう。
校内を探しても出てこない。もうすぐ最終下校時間だ。
「……知らねぇって言ってるだろ!?」
校舎裏を散策する新は怒鳴る声を聞いた。いつもヘラヘラしている友人が怒っている。仁の打って変わった様子に足が止まった。対面ではなく通話のようだ。
「あんたらの部屋に近づいたり、物に触らないから失くしようがないんだけど? 俺じゃないって言ってもあんたはいつも信じないよな。そうやっていい顔ばっかしてるから、あいつらに舐められるんじゃねえの?」
電車来たから。会話を打ち切る声は水のように冷たい。チッと低い舌打ちがこちらに気づいた。
「新? そんな格好で何してんだよ」
「これはハロウィンの仮装、で……」
「ハロウィンって日曜にやってなかった? 今日が本チャンか。そういや校内でやってたな」
クラスで誰も着なかった奴だな、と仁が微笑った。文化祭で用意したものの、誰にも選ばれなかった哀れな白いレインポンチョ。微笑むといつもの彼にしか見えなくなる。
──さっきの電話は何だった?
友人の顔で笑う君にはもう訊けなかった。余計な詮索はよくない。
「で、お菓子だっけ。持ってないけど、俺イタズラされちゃう?」
ポケットに手を入れる仁は制服のままで、元より参加してはなかったらしい。参加は自由だから要求は出来ない。節度を守って楽しいお祭りに。
首を振る。持っていた籠から飴とチョコを掬って、仁のシャツに押し付けた。なんで? と目を丸くされても、さっきの君が気になったからとは言えない。
「まあいいか、ありがとな。チョコや飴と見せかけて、中身はキムチやタバスコ入りとか」
「いいから食え。すぐに下校時間だ。帰ろう」
お化けの裾を捲り上げ、脱いだポンチョから顔を出す。
「ああうん……って本当にイタズラじゃなかったか。じゃあさ何処かでハロウィンっぽい物食わない? パンプキンパイとか」
「ドーナツやプリンとか」
仁の提案に新が続いた。お前の好物ばっかりだな。と笑う。甘い物が多そうな予感に胸が躍る。そうやって、無機質な顔を向ける数が減らせればいいと思った。対話でも電話でも。
悪戯は──来年でもいいか。君が楽しい顔で過ごせるようになるまで取っておこう。
R6.10.31