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    karanoito

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    karanoito

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    JとA 「仮A」エンド2であったかもしれない会話の妄想。

    あの頃に戻って

     ヤバイヤバイ、本当にAが現れるとか何かの悪い冗談だろ。俺の後ろで止まるな、と手を組み合わせて必死に祈るJの肩に無情にも触れる手。見つけた、と中性的な少年の声が耳に届いた。
    「うわっ!」
     パイプ椅子から飛び退いて、もつれた足は無様に尻餅をつく。床に転がった彼を見下ろす小柄な少年は愉しそうにくすくす、と笑みを零した。
     それは普通の高校生の姿で、以前見た化け物の姿じゃなかった。
    「君、驚き過ぎじゃないのか」
    「お、お前……A?」
    「久しぶりだなJ。この学校で待ってればきっと会えると思ってた」
     ずっとここで遊んでいたからな、と足元にしゃがみこんで頬杖を突く。顔は陰が落ちてよく見えないが、怒ってないような、一見和やかな雰囲気に騙されそうになる。仲良く遊んでいたあの頃に戻れるんじゃないかと。
    「また一緒に遊べるんだろう?」
    「……その前に、謝らせてくれない?」
    「何を? 約束を破って俺をひとりにした事か?」
     そうだよ、と起き上がった俺をしゃがみこんだまま見つめるAに勇気を振り絞って頭を下げる。もう彼に怯えて暮らすのは御免だ、断ち切れるならここで終わりにしたい。
    「もう許してくれ。お前を見捨てた訳じゃないんだ」
    「じゃあどうしてあれから校庭に来ないんだ、ずっと待ってたのに」
    「……ごめん」
    「謝罪なんか要らない。俺はただ君と一緒に遊びたたた……え永遠に……」
    「A?」
     メキメキと骨の鳴る音がする。Aの声が上手く聞き取れないほどに変質していき、グチャリと何かが床に落ちる。
     ゆらりと立ち上がった彼はすっかり姿を変えてしまっていた。悲鳴は喉の奥で凍りついて、壁にへばりついて距離を離すのが精一杯だった。
    「……そんなに怯えなくてもいいじゃないか。窓から転落すれば誰だってこうなる……君もここにいた四人だって、みんな同じだ……」
     なんだって? 言葉の中に含まれた嘲りと侮蔑の塊に苛立ちを覚える前に、周りを見回した。準備室の中にすでに他の四人の姿は見当たらず、ここにいるのは自分と目の前の化け物だけ。
     こんな化け物と二人きりとか冗談だろ……
     ほうほうの体で戸に飛び付いて横に引く。鍵を掛けたはずもないのにびくともしない。いくら引いても。
    「また逃げるのか?」
    「……っ、勘弁してくれよ、俺が悪かったから……!」
     後ろを振り返る勇気はない。関節が外れて折れ曲がった足、骨が歪んで嫌な音を立てて軋み、顔や体がグチャグチャに潰れたそんな姿をとてもじゃないが正視出来ない。
     開かない戸に張り付いて、恐怖に浸食された口は彼に向かって勝手に謝り続ける。無意味な謝罪と赦しをAがどんな気持ちで聞いていたのか、知る由もなく。
     それ以上彼は近づいては来なかった。僕たち友達じゃないの? と呟く声が聞こえる。
    「……せっかく会えたのにどうして泣くの? 僕と一緒は嫌? 君とまた遊びたかっただけなのに」
    「……」
    「さびしいよ」
     それは校庭で最後に聞いた言葉と同じ。途端に頭が冷えて、言葉を失った。無闇な謝罪は止まっていた。
     詫びすぎて乾いた喉がひりつく。それでも振り返る勇気は持てなくて押し黙っていると、そっとブレザーの裾を引く手のひらを感じた。肩を強張らせて、恐る恐るJは振り向く。
     涙を目一杯に溜めたAがこちらを見上げている。それは現れた時と同じ高校生姿で、見た目を自由に変えられるのか、許容範囲を越えた頭が見せた幻か、判断は難しかった。
     目が合うと堰を切ったように大粒の涙が溢れ出す。まるで小さな子どものように。
     そっか、コイツ子どもだった。いくら姿が成長して見えても中身は会った当時の小学生のまま。虚勢を張った皮が剥がれて本性が垣間見えた。
     呆気に取られた後、震える手でゆっくりと頭を撫でる。肩が震えて、泣きじゃくっていた声が次第に小さくなっていく。それが聞こえなくなるまで何も言わず撫で続けた。
    「落ち着いたか、この泣き虫」
     泣き止んだ後、ティッシュで洟をかむAにデコピンを食らわせる。軽く睨まれてももう恐怖は微塵も感じなかった。怯えまくってたくせに、と見上げてくる半目はまるっと無視。
    「それで何して遊ぶんだっけ。お前は何したいんだよ?」
    「……遊んでくれるのか?」
    「お前が言ったんだろ。どうせもう戻れないんだし、とことんまで付き合ってやるからさ。もう泣くなよ?」
     鼻の頭を赤くしたAが頷く。一番最初に出来た友達を見捨てて逃げ出した俺にはお似合いの末路だ。まあ、いいか。あの頃遊ぶのが楽しかったのは本当だし、一緒にいる分には危害も加えてこないだろ。多分。
     手を差し伸べると、Aは安心したように顔を綻ばせて手を重ねてくる。その手は降り続く雪のように冷たかったがもう気にならなかった。
     こうして繋いでればその内また温かくなるから。あの頃のように。



     図書準備室の電気が灯った時、そこには四人の姿しかなかった。軽薄なJはどこに行ったか杳としてしれない。きっとAに連れて行かれたのだろう。
     済まないな、と誰かが呟いて準備室の電気は消えた。

    2015.3
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