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    karanoito

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    POIPOI 207

    karanoito

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    鬼×狐

    鬼さんこちら

     鬼さんこちら、手の鳴る方へ。
     耳に馴染んだ掛け声に焦がれて、鬼は有りもしない幻想を追いかける。夕暮れにはまだ早い青空の教室の中で出会った誰かを探し求めて。
     その教室にいたのは狐面を被った小柄な少年。
    「……違う」
     呟いた一言に狐の少年は首を傾げて、鬼かと静かな声で長身の影を見上げる。
    「そう、鬼の怪異。そういうお前は……狐?」
    「そうだな狐だ。面だけの紛い物だが」
     甚平から伸びた細い足の下で草履が立てる微かな草の音、草の香り。幻想の人影と似てるようで似ていない。当たり前だ、何処にも存在しないから幻想なのに。
     幻想だから恋い焦がれて、フラフラと彷徨う。見えない誰かが手を叩いて鬼を呼んでいる。
     まるで目隠し鬼だ。
     約束しないかと差し伸べた手はどうなった? 人間たちの祭りの中、誰と何の約束をしたんだろう……?
    「たどり着いたか?」
     何の事か分からない。首を振って否定するが諦めてはいない。居もしない幻想を追いかけるのは意外と楽しいから。
    「さあ。呼ばれてるからフラフラしてるだけだよ」
    「誰に」
    「会いたい奴、じゃないの? 幻聴だからよく分からないけど」
    「そうか。……会えるといいな」
     こっちだよ、と声に引かれて鬼は戸を振り向いて、教室を後にする。一度も狐の少年の方を振り向かなかった。
    「鬼さんこちら、手の鳴る方へ……」
     鬼の少年がいなくなった後、教室で一人口ずさむ。
     窓縁に肘を突き、楽しそうに。
     頭に白い狐面を斜めに被った少年が小さく笑う。
    「……ここにいるよ」
     鬼さんこちら、手の鳴る方へ。早く見つけて捕まえないと逃げてしまうよ。
     さて、気が付くのはいつ?

    2015.5
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