好きも嫌いもなく
いつもの四人がいつの間にか二人になって、残った君に手を引かれ今は神社の外れの茂みの中。夏祭りの賑やかさから遠く離れて、押し当てられた湿った感触を何故か大人しく享受して彼の背中に腕を回す。
抗う気は一切起きなかった。
さっき食べていたかき氷の味が唇を冷やし、熱い息が反対に顔を赤く茹で上げらせる。
向かい合っていた時間はそう長くなかった、離れても仁は何も言わない。ただ無感情な瞳で見下ろして新の耳にかかる髪をそっと梳いた。
新も何も言わないで無表情な瞳を持ち上げる。いつもは簡単に呼び交わしていた名前すら今は上手く舌に乗らないまま口内に溶けていく。髪を梳く腕に指を沿わせて出方を窺った。
腕を下ろすだけでやはり弁解は一つもなく、彼の引き結ばれた口が開くのを新はひたすらに待った。
滑らかに回る口はどこに忘れてきたのか、気まずそうに視線を逸らすだけで本意はとうとう語られなかった。
背中を向ける彼のシャツを掴む指をどう受け取ったか新には分からない、傷ついたように仁の顔が歪むのが見えた。
「仁」
「……」
「祭りに戻ろう。きっと二人が探してる」
「……ああ、うん。黙って出て来たもんな」
普段の口調に戻って誤魔化された真意は祭りの中に溶けて、それっきり。言い訳する度胸もないから、お互いにこれ以上近寄らない。
好きも嫌いもない友人同士で隣にいよう。
2015.6