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    karanoito

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    karanoito

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    仁×新 文化祭に向けて、メイド服の試着をしていたサッカー部の中に友人の橋本を見つけた仁だが……の続き。新がメイド服から制服に着替えるまで。

    僕らの歯車

     何故このタイミングで来るんだか……と彼が俯く理由は着用したそれに全て詰まっている。フワフワと頭上で揺れる白いヘッドドレスにお揃いのフリル付きエプロン、クラシカルな黒いメイドドレスは未だ華奢な体を膝下まで隠したまま。上目遣いで睨むなって、着せたのは俺じゃなくて橋本だろ? 放課後の寄り道だけで共犯にされたら堪ったもんじゃねえ。
     教室に戻る途中でたまたま橋本を見つけただけで、文化祭にメイド喫茶を出店する部の試着に新が巻き込まれたのは全くの偶然。
     メイド喫茶ある所にメイドあり。たとえそれが女装喫茶だとしても、俺には何の罪もないのに前髪の隙間から突き刺さる視線はどうにも冷たい。
     当日も一緒にメイドどう? と明るく笑う女子マネやら部員の野郎共に囲まれ、騒がしかった空き教室も今は二人の影が佇むだけ。
     着替えるタイミングを逃した新は真っ先にウィッグを外して、手櫛で髪を整え始めた。いつものショートでも大した違和感無いのがもうアレだよなあ。
    「な、着替える前に写メ撮ろーぜ? こっち向いて」
    「止めろ馬鹿、携帯をこっちに向けるな」
     俺から離れて窓の方を向いてしまった。そのままカーテンを引くと遮られた夕陽の紅(あか)より色濃くなった影が床を走る。交差し、混じり合った二つの影のむこうで新が首に腕を回すのがくすぐったくて、じれったい。
    「背中にジッパー付いてるけど、それ一人で脱げる?」
     手伝ってやろうか、と影を踏みつつ背後から近づく俺に肩を怒らせ大げさに距離を取る。小動物が全身の毛を逆立てて警戒してるみてぇ。耳まで上げた両手をひらひらと振って警戒心を和らげると、数秒待ってから、頼むと呟くのが聞こえた。背に腹は代えられないといった様子で。
    「じっとしてて。動くなよ」
     白い首を根元から隠していた襟が、肩から背中までがっつりと開く。細い外見に違わず首筋から繋がる背筋もまるで子供みたいに全然鍛えられてない。のしかかったら潰れそう。
     肩の付け根で何かが控えめに光った。
    「あれ、お前ネックレス着けてたんだ?」
    「ちょっ、いきなり引っ張るんじゃない」
    「いいじゃん、どんなの? ほら見せてみろ~」
    「馬鹿、首が締まる」
     細かく連なった鎖の輪に引っ掛けた指から守ろうと条件反射でネックレスを掴む新と、これまた条件反射で引き留めようと後ろから両腕を回した俺、両者喚きながらもお互い一歩も譲らない。
     ちょっと見せてって言っただけで臨戦態勢とか、俺信用無さ過ぎない?
     背中からがっちり回した腕の中でもがく細い手足。ネックレスを包んだ指を解く前に流れるように逃げられる。そう簡単に逃がすかっての。遠慮なく指を鳴らす。
    「意地悪な新にはくすぐりの刑~」
    「こら、仁、やめ……っ」
     丸めた指先を黒いメイド姿の内側に突っ込むと存分にくすぐり倒す。胸も背中も腹も関係なく、手当たり次第に指を走らせる度、徐々に力が抜け背中が丸まっていく。
     くすぐり攻撃から逃れようと捻った新の体が床に横臥する。追って膝を着き体を跨ぐと、更に攻撃を畳みかけた。
     へそはどうだろ、弱いか? へこみを撫でつつ、軽く指を滑らせて反応を見る。
    「もういーだろ? ギブアップしたら?」
    「いや、だ……っ」
     どれだけ息が荒くなっても決して手を開かなかった。この頑固者め。
     ガードした腕を緩めようと脇腹をくすぐったりしている内に夕陽は半分以上沈んで、気付いた頃には新を膝に乗せてリノリウムの床に座り込んでて。丸まった影が相まってまるでダルマだ。
     俺らダルマみたいだな。と新の肩に顎を乗せると少しだけ笑ってた。
    「乱暴に扱わないと約束出来るか?」
    「お、やっと観念したか。どれだけレア物なんだよ」
    「別にレアとかじゃない。ほら。見えるか?」
     掲げた腕からは一本の古い鍵がぶら下がってて、今時のシルバーアクセでもドクロでもない素朴な所がまた新らしいと思ってしまった。
    「鍵? アンティークっぽいけど……ああ、あれか。部屋に懐中時計とかフラスコとか飾ってたりする?」
    「別にそういう趣味じゃなくて、大事な物だから」
    「だから肌身離さず持ってると」
     そう、と腕を元通り下げる彼に一片も悪びれた様子はない。そうだ、新は絵に描いたような優等生だが決していい子って訳じゃない。堂々と校則違反を選ぶ大胆さ且つ、持ち合わせた慎重さで教師に見つからないように上手くやり過ごすそんな奴。
     そんな新の大胆不敵な部分と俺の不良な部分がかみ合って、歯車のように上手く回ったのかもしれないなと。案外そんな部分で気が合ったり合わなかったりするもんだし。
     そろそろ着替えないと、と腕から抜け出して立ち上がる新の膝下でメイド服の裾が波打つ。ふと魔が差して、座ったまま白いフリルに腕を伸ばした。
    「下はそのままかー」
    「急に捲り上げるな! さっさと手を放せこの馬鹿」
     スカートの下は当然ながら男物の下着のままだった。今日だけで何回コイツに「馬鹿」って言われたんだろ。

    2017.2
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