相棒と子供と、自分の立ち位置
ラピードは思案していた。どうやったら相棒の目を醒まさせてやれるか、そもそも何故こんなにもべたべたと引っ付いているのか。それが問題だ。
主人兼相棒のユーリは、カロルとか言うガキが気に入っているらしく朝から晩までずっと一緒にいる。カロルが首領で、自分たちはギルド員だから当然と言えば当然かもしれないが、ジュディスは言うほど近寄らない。男と女の違いというヤツか。
人間はよくわからない。
「あら、悩み事かしら?」
じゃれつこうとするエステルを追い払い、今日も問題を解決すべく思考に耽っていると、ジュディスがやってきて、隣に座った。
丁度いいので気になることを訊いてみた。
「そうね。あの二人は仲がいいと思うわ、まるで兄弟みたいにね」
兄弟とはあんな風にベタベタといつも一緒に居るものなのか。
「そうとも限らないわ、仲が良いケースもあれば悪いケースもある。兄弟と言う見方が一番当てはまりそうだと思っただけよ、周りから見ればね」
ジュディスの言う事は納得は出来ないが正しいのだろう。時折風に乗って聞こえてくる人々の囁きの中には、さっき訊いた言葉が紛れていることが多いからだ。
「それで貴方はどうしたいのかしら?」
言ってる意味が判らないが。何かしなくてはいけないのか?
「困っているんでしょう? それとも気が付いていないのかしら、二人がイチャイチャしていて面白くない。前みたいにユーリには自分を一番信頼してもらいたい──とは思わない?」
……どうだか。
「認めたくないのね、うふっ、カワイイ子」
ひとしきり笑うと、また相談してね。と一言を残し、ジュディスは立ち上がって行ってしまった。
面白くない?
それでは自分があのカロルに負けていると、認めてしまうことになる。
それは癪だ。
認めたくない。
こうなったら納得出来るまで、あの子供に張り付いて見定めてやる。
*
……と決めたはいいが、早くも厭になってきた。と言うより、相棒が構いすぎだと気付く。よくよく観察してみると、ユーリがカロルの側に寄ってくるだけで、実はカロルからは言うほどではない。
ユーリに話しかけられるから愛想よく返事をし、笑いかける。一緒にひとつのベッドに寝るのも、湯に漬かるのも、飯の時間も。近くにいるのは全部ユーリの方が先──
むしろ、付きまとわれているカロルの方がよっぽど気にかかる。相棒のせいで嫌な思いを味わってないか心配だ。
カロルに付いてまわること一週間、相棒の目を醒まさせる所か、逆にカロルの身を案じるようになってしまった自分がいた。
「あ、ラピード」
「ワン」
ここ一週間しつこく付けまわしたお陰でカロルからの好感度は抜群に上がっている。
元々人懐っこいので、近づくのは動作もない。
「何だ、またか。お前この所よく来んのな」
「何でユーリ、怒り気味なの? やっとボクにも懐いてくれたのかなぁ。うれしいな」
「いや、違うぞ。多分」
ユーリがじろり、と頭上から覗きこむ。相棒は自分の心変わりを見抜いた上で如何に追い払おうかと算段を立てている。
クールに見えて独占欲が強い。こうなったら徹底的に邪魔をしてやろうと、高らかに雄叫び、抗戦の狼煙をあげてやった。
2011.2