下町青年からの手紙
「カロル先生、手紙だぞ」
首領の部屋をノックしてユーリが入ってきた。
机でかじり付くように仕事と睨めっこしていたカロルが顔を上げて、ご苦労さまと手紙を受け取った。
宛名を確かめていくと殆どが仕事の依頼だったが、一通だけは違った。それを手に取り、困った風に息を吐いた。
「またフレンか」
「あ、うん。フレンってマメだよね……」
騎士団の捺印が入った白い封筒。それは大事な仲間のフレンからの物。
旅を終え、カロルたちはギルドへ、フレンは騎士団へとそれぞれの道を選び、歩み始めた。世界が変わり落ち着くまで、お互い忙しくて以前のように中々会うことは出来ず、近況を手紙で知らせるのが精一杯だった。
最初は、離れていても毎日の様に送られて来る手紙に一喜一憂してカロルもマメに返事をしていたが、一ヶ月経ち二ヶ月を過ぎ、そろそろ一年。一日も絶やさずに手紙は届けられた。
ギルドも順調に航海を続けている。安定もしてきた。
だから逆に毎日も書くことが無くなってしまい、カロルは返事に困り始めていた。
「ボク、手紙書くの嫌いじゃないけど、毎日はちょっと……困ったなあ。どうしよ……」
「毎回律儀に返事出す必要ねぇだろ、書きたい時だけ書けばいいんだよ」
「そしたらまたフレン来るよね、絶対」
封筒を開け、中身を読みながらカロルが呟くとユーリの眉間に皺が寄り、心底嫌そうな顔になった。
以前カロルがフレンの返事に困った時、無断でユーリが届いた手紙を捨ててしまった。
カロルから返事が来ず、心配になったフレンがいきなりギルドのアジトを訪ねて来たのだ。事の顛末を知りユーリと大喧嘩になったのは大変だった。
その出来事はまだ最近の話だったりする。
「返事書くのか?」
「うん、一言でも書いて送るよ。やっぱり気になるし。フレンの手紙読むの好きだから」
更にユーリがしかめ面になり、目がつり上がっていく。カロルの手から手紙を引ったくり、オレが書くと仏頂面で言い放った。
「ユーリが書くの? 手紙苦手だって言ってなかったっけ」
「いいから。とにかく手紙はオレが書くからお前は気にすんな。わかったな?」
「うん……くれぐれもヘンな事書かないでよ? 騎士団とギルドの仲拗じれさせる訳にいかないんだからね」
へいへいと左手を振りながらユーリは部屋を出て行く。
ドアをくぐる前に振り向き、カロルが肩の力を抜いてるのを確認してから、ユーリはドアを閉めた。
「……たく、誰がお前に譲るかよ。オレのだぞ」
フレンの手紙に目を落とし、忌々しげに“恋文”を握り潰す。
カロルは近況を知らせているだけだとしか思わなかったらしいが、そんなのは二、三日置きでも充分足りる。長話好きの女ならともかく、大の男が毎日も思いを綴る中身なんて恋愛以外有り得ないだろう。
他の男からの手紙(おもい)が大事な奴に届く。これほど苛立つものも中々無い。
ユーリは、普段使わない丁寧な言葉で幼なじみに返事を出した。
勿論、その内容は穏やかなものでは無い。
後日、フレンからいつもの三倍以上の手紙が届き、こっぴどくユーリはカロルに怒られた。
「ユーリはもう手紙禁止! ぜ〜ったい、フレンに出しちゃ駄目だからね!」
「ああ、オレもあんな面倒なモン二度と書きたくねぇし。ホント性に合わねぇわ、やっぱ直接言うのがいいよな」
「会ってケンカもだめだよ!」
「意味違うし……ま、いいか」
新しいフレンの手紙は、次の休みには絶対に会いに行くから。と締め括られていた。
2011.5