残さず食べろよ
ごちそうさまーと次々に食事を終え、食器を重ねてカロルの皿だけが片付かない。皿の中にはカロルの嫌いなクラムチャウダーがほとんど手付かずで残っていた。
「カーロール、いい加減観念して食え」
片付きやしねぇ、とユーリにせっつかれてもカロルは皿を見つめたまま、うーと唸って動かない。勇気を出して、スプーンで掬い上げてもそこで止まってしまう。
「そんなに嫌がる程美味しくないです……?」
「そんな事ないわよエステル! ちゃんと……お、美味しかった、から」
「おっさんも〜。嬢ちゃん料理上手くなったよ」
作ったエステルが瞳を潤ませると、リタやレイヴンのフォローがすかさず入った。カロルが苦手なだけで普通に食べられる出来だったと思う。
「あとで口直しにデザート作ってやっから、我慢して食え」
「……残すの勿体ないならユーリが食べてもいいんじゃないの?」
「ダメだ。好き嫌いすると大きくなれないからな」
ユーリの方が酷いです……エステルの恨めし気な呟きは取りあえず無視して、
「ホラ、口開けろ。鼻摘んどいてやっから一気に飲みこめ」
そこまでして完食されても……と思うが、出された物は平らげるのがポリシーのユーリには通用しない。
カロルが大きく口を開けた所に皿を傾けて中身を流し込んだ。
「ご、ごちそうさま……エステル」
「お粗末様です、カロル頑張りました」
涙目で飲み込んで、カロルが空になった皿を食器の一番上に重ねる。頑張ったわね、偉いわ。とジュディスが微笑むと、カロルは照れて頬を赤らめた。
「さーて、何作るかなー」
「ユーリの嘘つき。鼻摘むって言ったじゃん」
「ちゃんと味わった方がいいだろ、作ってくれた奴にも悪いし。もうこれからは食えるよな?」
「自信無いけど……頑張るよ」
いい子だ、とユーリが頭を撫でると、やっと機嫌を直してカロルが笑った。
それじゃ丹精込めて作るとするか、とやる気一杯のユーリがエプロンを付けた。その前にカロルに目を留め、少し考えてからその唇を舐めていく。
「わあっ!? なななな何っ?」
「口汚れてたぞ。……うん、エステル上手くなったな」
真っ赤になって慌てるカロルを横目にペロリと舌で唇をなぞった。ますますカロルの顔が赤くなり、輸快そうにユーリはほくそ笑んで見せた。
2011.7