シンパシー
「ユーリ、ウチらの愛の勝利じゃ!」
「へいへい……」
戦闘終了後、ユーリに抱き付きに行ってはさらりと避けられるパティ。適当にはぐらかされ、あしらわれる。いつもの見慣れた光景とはいえ、ちっともめげない姿に少し同情を覚えた。
「パティ、ちょっと」
カロルはこそっとパティに近付くと、何やら耳打ちをする。熱心に頷きながら聞き終わると、ほー、成程のう。と感心したようにパティは舌鼓を打った。
「それでユーリは喜ぶのかの?」
「うん、絶対喜ぶから試しにやってみたらいいよ」
「むー、物は試しと言うし、一理あるかもしれんの……よし、実践あるのみじゃ。アドバイス感謝するぞ!」
手を大きく振った後、意気込んで駆けていくパティに手を振って見送った。少しでもパティが喜ぶといいな。そんな何気ない気持ちで。
その後もユーリはパティに一歩引いた態度で、進展は無さそうだった。
……上手く行かなかったのだろうか?
パティに聞いても、
「うんにゃ、カロルの言う通りじゃったぞ。優し〜く笑ってくれた」
成功はしたが何か違うのじゃ、と首を捻って煮え切らない顔をする。
「じゃが……うちの顔見た途端、相手を見間違えたみたいにすぐ戻ってしもうた。きっとあの笑顔はうちに向けられたものでは無かったんじゃな」
「ごめん……ボクが余計な事言ったから」
「何じゃ? カロルが教えてくれたからユーリの笑顔が見れたんじゃぞ。感謝なのじゃ!」
まだまだ諦めた訳じゃないからの! とパティは腰に手を当て胸を張った。
*
「ユーリ」
名前を呼び、後ろから首に腕を回し長い髪に顔を埋める。そしてゆっくり顔を上げると、目を細め優しげに自分を見つめるユーリが居る。いつもと同じ笑顔。
「いつもと一緒……だよね」
「パティに入れ知恵したのお前だな、カロル」
首から腕を離し、しぶしぶ頷く。ユーリの目元に軽く皺が寄った。
「入れ知恵って言うか……パティが少しでも喜んだらいいなって。ユーリちっとも優しくしないから。だから、ユーリが笑ってくれる方法教えたんだ」
「……あのな、応える気も無いのに優しくしてどうすんだ? おっさんじゃあるまいし。かえって傷付けるだけだろ。大事な奴一人だけ優しくすればいいんだよ」
うん、そうだよね……とカロルの頭がどんどん下がっていく。
「……おい?」
「余計な事してかえって傷付けて……本当に解ってなかった。もう最悪だよ……」
「カロル」
頭を抱えて、うわーとか最悪だとか唸っているカロルを見て、出会ったばかりの頃をユーリは思い出した。ハルルでも同じようにいじけて、殻の中で自己嫌悪していた。
あの頃より随分成長したと言っても根っこの部分はそう簡単には変えられないと言う事だろう。
「落ち着け。別に悪気があったワケじゃないだろ? いちいち気に病むなよ、ハゲるぞ?」
言いながらつるっパゲになったカロルを浮かべてしまい、思わず噴き出した。ツボに入って笑いが止まらなくなったユーリを眺め、笑い過ぎっ! とへそを曲げたカロルが横髪を思いっきり引っ張る。
「わり……」
「いーけど。ユーリの言う通り大切な人に優しく出来ればいいんだよね。うん」
「そう言うこと。誤解させても悪いしな」
「だよね! ……あれ?」
「ん?」
「あのさ、ボク、よくユーリの首に引っ付くけど、あれ誰か他の人もする?」
いいや、とユーリは首を横に振った。
「じゃあパティとボクを見間違えたって事?」
「まあ、そう言うことになるか」
「そっかぁ、ああしたら誰でも喜ぶと思ったのに違うんだ……え?」
つまり、引っ付いてユーリが喜ぶのって。
「ボクにだけ……?」
「正解」
ちゅ、と音を立てて頬にユーリが口付ける。目を見開いてカロルが飛び退くように体を離した。
赤く染まった頬を押さえ、言葉はひとつも出て来ないカロルに目を細め、“喜ん”で笑ってみせた。
2011.9