文字通り敗北宣言
……非常に緊迫していた。
壁際に追い込まれ、睨み付けるカロルに、壁に手を付いて見下ろすユーリは後には退けなくなっていた。
部屋の中に仄かに漂う食べかけの甘いケーキの匂いが、今日がクリスマスだと思い出させる。
ついさっきまであんなに穏やかに喋ってたのに。
ユーリのバイトが終わった後、約束通りケーキを食べようと部屋に呼んだまではよかった。ケーキのイチゴをつついては、今日も寒かったね、等と他愛ない会話を交わして微笑ってた。
それがちょっとした事で険悪になり、食べるのも途中に、帰る。とカロルは席を立って玄関に向かってしまった。
へそを曲げたカロルと押し問答の末、引き止めようとして今に至る。
「……」
カロルは依然ユーリを睨んだままだ。
ちょいと突っつき過ぎたかなー…と反省しながらも顔がにやけてしまう。
以前見たカロルのウエイトレス姿があまりにも可愛過ぎて。
「オレが悪かった。だから、ほら。ケーキ食おうぜ」
「……ユーリ、本当に反省してる?」
「実はあんまりしてない」
「もう帰る!」
「この態勢で?」
「帰るったら帰る! 意地悪なユーリなんか」
嫌いっとそっぽを向くカロルを見るとついつい意地悪をしたくなってしまう。腰を落とし前のめりにぐっと顔を近づける。
気づいたカロルが横にかわそうとする。腕で行く手を遮って阻止。
「……」
反対方向に逃走を図るが、これまた腕に挟まれ撃沈。
逃げ場が無くなっても気は収まらないらしく、カロルのしかめ面は変わらずユーリを睨んでいる。
構わず鼻先まで近づくと、ビクリとカロルの肩が震え、左右に目が泳ぎ始めた。
そして、
……へたっ。
迫ってくるユーリに限界を迎え、とうとう力なく床にへたり込んだ。
オレの勝ちだな。と耳元に囁くユーリに、
「……ユーリのバカあっ!!」
と顔を真っ赤にして怒鳴るカロルがいた。
2013.9