Trigger of love.「ただいま戻った。」
「ブラッドさん!お疲れ様です!」
ブラッドが部屋に戻ると、ウィルはちょうどリビングの植物に水をあげているところだった。
「アキラとオスカーさんはボクシングの試合を観戦するとかで、出掛けています。」
「ほぅ、オスカーが外出とは珍しいな。ウィルは行かなかったのか?」
「オスカーさんがアレキサンダーくんの餌の心配をしていたので残ったんです。夜はやはり活発ですが、餌をあげたら大人しくなりましたよ。」
「そうか。」
「あ!ブラッドさん!またリトルトーキョーで新しい和菓子が出てて、ブラッドさんの分も買ってきたので一緒に食べませんか?!」
「あぁ、頂こう。その前に部屋着に着替えてきても良いか?」
「はい!じゃあその間に用意しときますね♪」
「これは...日本茶か?」
「はい!和菓子にはこの方が合うと思って!ブラッドさん日本茶は飲まれますか?」
「普段はコーヒーが主だが、寿司を食べる時には日本茶を飲むな。」
「えへへ、相変わらずお寿司がお好きなんですね!あ、そうそう!アキラがこのDVDを是非見てくれって勧められたんです。ウィルは日本っぽいものが好きだろって...ブラッドさんも日本のものがお好きですよね?良かったら一緒に見ませんか?」
「それは興味深いな。アキラが勧めてきたというのが怪しいが、まぁ観てみることにしよう。」
ウィルがDVDプレイヤーを起動させると、リビングのテレビ画面にはその内容が映し出された。
ただ2人してその内容に驚愕することとなる。アキラから勧められたのは、所謂『和物』のいかがわしいDVDだったのだ。
肌蹴られた着物の隙間から白い乳房が目に入り、ウィルは固唾を飲んだ。
「えっ?!いや、あの!違うんです!こんな内容だとは思ってもみなくて...!本当なんです!」
「だ、大丈夫だ。ウィル、落ち着け。」
「うわわ...とりあえず止めないと...!」
慌ててリモコンを取ろうと立ち上がった反動でテーブルを蹴ってしまい、まだ湯呑みに入っていた日本茶がウィルの足の甲に零れ落ちた。
「うわっ!熱っ...!」
「ウィル!落ち着くんだ!深呼吸しろ。ゆっくり大きく吸って...吐いて...そうだ、その調子だ。」
ブラッドがウィルの肩を掴み、深呼吸を促した。その時お互いに気付いてしまった。ウィルの下半身が熱を持っていることを...
「す、すみません!これは…!」
「気にするな。生理的なものだから仕方がない。男とはそういうものだ。ウィル、ひとまず手洗いに行ってくると良い。しばらく心と体を落ち着かせろ。」
「はい...わかりました。」
ウィルはトイレに入り、便座に座り込んで頭を抱えた。
うぅ...最悪だ。ブラッドさんにあんなもの見せてしまうなんて。そういえばアキラ、絶対絶対一人で見ろよって言ってたな。あの内容知っててわざと俺に貸したんだな!
って、今はアキラを怒っている場合じゃない。おさまれ、おさまれ、俺の下半身。
ブラッドさんはアレを見て、驚きはしたけど恥ずかしがったり動揺したりはしなかったな...ああいうの見慣れてるのかな?俺よりずっと大人だし、見たことくらいあるよね?
それに男なら当然って...ブラッドさんも女の人とあんなことするのかな?あれ...なんでだろう...?何だか胸がモヤモヤする。このモヤモヤは何なんだろう?
ひとまず落ち着いてリビングへ戻ると、零したお茶は拭き取られており、代わりにコーヒーが用意されていた。ブラッドは何事もなかったかのように、新聞を片手にコーヒーを啜っていた。
「あの、その...先程はお見苦しい姿を見せてしまい、すみませんでした!」
「気にするな。男なら当然のことだと言っただろう。ウィル、つかぬ事を聞くがお前は今まで女性と交際した経験は?」
「えぇ?!そんな!ありませんよ!フェイスくんみたいにモテる訳じゃないし!」
「ウィル、お前は自分を過小評価し過ぎるところがある。植物や動物に限らず面倒見が良いことは元より、真面目で誠実だ。きっとお前に想われる者は幸せだろう。自信を持て。」
「あ、ありがとうございます!ブラッドさんにそう言ってもらえるなんて...」
そう...今までなら、あのブラッドさんに褒めてもらえた!なんて無邪気に喜べたのに...何故か悲しいような切ないような、味わったことのない感情が渦巻いている。
この感情の名は?
部屋に戻って来たアキラがブラッドさんに正座させられている間、考えても考えても答えは出ないままだった。