浸透香を炊く。むせるくらいの煙を部屋から廊下、ひいては玄関まで届くように、火を絶やさずに居間を燻す。壁に香りが染みて、買い物から帰るたびにくん、と鼻を通る。部屋の中でもマスクをしない限り、この香りは心を安らぎへ導くことだろう。鼻から通った香りで、きっと気分は色付くことだろう。
「マスクを外せばですけどね」
そう独りごちたあと、早速オクタビオを呼びつける。可能性は低くとも、マスクを外してくるように伝えた。バカ言うなと軽口を叩いたあと、あと3枚写真を撮ったらこちらへ向かうそうだ。あと3枚も待たなくてはならないが、電話を切った私は少し気分が高揚した。廊下に花なんかも散らしたら、オクタビオは呆れるだろう。しかしそれでも、彼がベッドまで歩む道を飾らずにはいられなかった。
6705