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    ジロー

    @jirow_fukuyoka

    流浪の民

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    ジロー

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    シーンメモ
    勃たないオビとフィスト

    #シアオク
    sheaOk

    強奪目をよくつぶされた。つぶされた目は何度か蘇って、右は4回、左は5回ほど蘇った。医療技術が貢献したことが大きいが、何度も蘇る青い目に、周りは狂っていくばかりだった。この世界は呪いに縛られている。昔のお姫様もひどいものだ。両親が健やかに過ごせるはずの世界を、たったの御伽話だけで生きづらくするのだから。お姫様はきっと愛する男だけの幸せを祈り、あと数十年で朽ちるこの星を慈しむ民のことなんか知らないのだ。蛾のように燃えて尽きるのがこの星の、民の使命だというのは些か納得ができない。災害が日常となったこの星で、おかげさまで何度も傷つけられ何度も蘇った私は、視力が極端に悪くなり、私生活ではアイウェアが欠かせないほどだ。眼球にレンズを入れることも考えたが、目を壊されるたびに手術の時間が長引くので、やはり眼鏡というのが1番良かった。
    「ゴーグルにしちまえば、物投げられても当たらないんじゃないか」
    「想像したら笑えちゃうので、ダメですね」
    「安全第一じゃないのかアンタ」
    右目に石の詰められた空き缶が当たり、まぶたを縫ってもらっているところだった。幸い眼球には傷がついていなかったが、壁に寄りかかってこちらに言葉を投げかけるオクタビオの言葉には少し棘があった。賞金を受け取るためのレッドカーペットで、周りには柵があった。私が登場する時だけに、そのようなバリケードが敷かれるのだという。しかしバリケードは人の波を抑えるにとどまり、投げられたものは醜く赤い道に落ちていった。当たらないよう、顔を俯けながら避けていく。オクタビオは悪意が降り注ぐこの状況を楽しんでいた。こういうコースも作っちまえば面白いんじゃないか?と一緒に歩くローバへ声をかけていたのを覚えている。ローバの反応は、いまいちだったが。縫い糸が切られたので、これで施術が完了したと医者は言う。毎回私の目を治してくれる医者だ。この惑星の半分の支持者のうちの1人である。
    「いつもありがとうございます」
    「いつも、じゃダメなんですがね。オビさん、この星に来るのはもう辞めなさいな」
    「辞めませんよ。支持してくれる方がいる限り、私の姿をお見せしなければ」
    「その姿が傷付いていくのを見るのが、結構しんどいんですよ」
    苦笑いして、医者は立ち去った。壁に張り付いていただろうオクタビオはこちらへの興味も失せたのか、ガジェットで忙しなく配信していた。その軽い口で父親のスキャンダルを捏造して『アミーゴ達』に聞かせるのを楽しんでいるようだった。楽しそうな人生だ。
    配信の邪魔をするのも面倒なので、そのまま立ち上がり病院を後にした。後ろを数メートル離れてついてくるオクタビオは丁寧にコメントを拾って反応していた。この場所は、ボレアス。ここは、オビ・エドラシムが通う病院。あの背中が、さっきまぶたを縫ったオビ。そして俺様が立ち会ったオクタン。え?オビがどうして傷付いたかって?それは。

    「弁償しろよ」
    「お金持ちなら買い直せばいいじゃないですか」
    「すぐ頭に血が上るの治したほうがいいぜ」
    「あなたに諭されるとは、私も落ちましたね」
    オビさんは、すこぶる不機嫌だった。ついさっきまで高く掲げて撮影してた俺のガジェットを突然銃で撃ち抜いて、ただのボロクズにしてしまった。せっかく賞金もらってボレアスのことを話してたのに、オビさんは悪いやつだ。生家の悪口なんて俺が生きてる間ずっと言われ続けてきてるし、殺害予告もきた。けど結局それを気にするかしないかで、俺にはナビィもアミーゴもいたし、シェだって守ってくれた。そんな環境に浸かっている俺を、オビさんは時々憎む。憎んだ後、憐れむ。
    「今日は、気分が最悪なんです」
    「まぶたが痛いからか?それとも良い詩が思いつかないからか?」
    「シルバ」
    「なんだよ」
    「…いいえ。冷静になるのは私の方ですね。失礼しました。では」
    口早に去ろうとする。オビさんは、変だ。本当はハラワタが煮え繰り返って軽口叩く俺に飛びかかって何発も拳を振り下ろしているはずだ。でも、オビさんは自分に言い聞かせている。『冷静にならなければ』と。呆れた。どうやったら、こいつの感情を飛ばせるんだろうか。俺が代わりに怒ったって、どうせ嗜められるんだ。なんだか腹が立ってきた。
    「オビ!この臆病者!」
    咄嗟に地面のぬかるみを掴んで、オビさんの背中に投げつけた。思い通り、泥の塊がオビさんにへばりついた。歩みを止めて、じっと立ち尽くしていた。これはチャンスとばかりにどんどん泥を投げ、オビさんを醜くしていった。どうだ、これで、怒るだろう。怒れ。そうじゃないと、オビさん壊れちまうよ。
    「…シルバ」
    じろりとこちらに振り向き直ったオビさんは、明らかに怒っていた。周りにマイクロドローンが飛び、臨戦体制になっている。その調子だ。俺も腰に備えていたナイフを取り出した。
    「へっ!トロいんだよ!」
    言うか言わないかのスピードで、俺は後ろに吹き飛んだ。オビさんの方から爆風が飛んできて、マイクロドローンがチカチカ光っている。きた。ようやく怒った。嬉しい。満面の笑みでガッツポーズをする。すぐそこまで迫っていたオビさんが、俺にまたがって俺の首を押さえた。ぎらぎら光る目が本気だと分かった。殺されそうだ。息が詰まってきて、でも嬉しくてにやける。この顔に出来んのはこの星で俺だけだ。負けじとオビさんの腕を掴んで、押し返す。ぐぐぐ、と力の均衡が揺れ始めた。
    「怒ってんじゃん」
    「いいえ、これは別問題です」
    「ははっ!ボケてんじゃねえ、一緒だろ!アンタのキレやすいポイントなんてのは、この、クソみてえな!バカみてえな!ボレアスって星の人間だろうが!」
    「オクタビオ!」
    「俺と一緒に考えたマップもさあ!紙屑になっちまった!でも喜ぶと思ってたんだろ!なのにあいつら、アンタに何したんだよ!なんでアンタが遠慮してんだ!バカみたいだ!」
    カッと開いた目を見た後、俺は空を仰いでいた。息切れがして、それからオビさんが俺の胸に突っ伏していたから、息が苦しかった。お互い泥まみれで何やってんだろうって思った。こんな形でしか発散させられないのを、悔しく思うべきなんだろうか。理解者だった親も、オビさんの側にはもう居ない。最近では母親からの電話にも出なくなったし、着信画面が消えるまで悲しそうに見つめている姿も見てきた。それがオビさんの家族であって、俺にはどうでもいいはずなのに、やっぱりオビさんが報われないのだけは悲しいと思った。
    「なんでっ…!」
    「何故あなたが苦しむのです。…はあ…もう、良いのですよ、オクタビオ」
    「バッ…!俺じゃねえだろ!慰められんのはさあ、アンタであるべきだろ!」
    「私のことは、どうぞ放っておいてください」
    「なんで、どうしてだ!アンタはさ、ちゃんと」
    「…」
    幸せになるべきなんだってば!

    私以上に全身に傷を作っているオクタビオは、泥まみれの体をゴシゴシと乱暴に洗っていた。白い壁が泥はねで汚れるのは少しだけ気に食わなかった。先程まで激情をぶつけた私たちは、ボレアスから程遠い星へ飛んできていた。すぐさまホテルを手配し、泥まみれでチェックインしても、受付のアンドロイド達は何も咎めることはなかった。浴室を熱いシャワーで温めている間、汚れた服をカゴにまとめた。洗面台の棚にジャブジャブと洗ったアクセサリーをまとめて、体を洗い終わったのか、浴槽の淵に座っているオクタビオを振り向いた。
    「あ」
    「はい」
    「血。まぶたの傷」
    ピリッと沁みる感覚があったのは、そういうことだったか。気にしなくていいですよと伝え、オクタビオを少し通り過ぎてバスタブに湯を張り始める。わざとだろうか、どこまでも私の仕草を顔で追うオクタビオ。その視線の意味を分かっていても、あからさまにするほど私は子供ではない。だんだんと湿度を帯びていく室内にただ2人、壁に持たれた私と私を睨むオクタビオだけがいた。それだけであった。浴槽の湯もおおよそいい感じに溜まってきた頃だ。自身の下着に手をかけた時、彼の手がそれを阻んだ。
    「なんですか」
    「…分かんだろ」
    「はあ…別に求めてませんよ」
    「ヤろう、オビ。俺のことバスタブに沈めてもいいからさ」
    「自傷行為に付き合うつもりはないです」
    「別に俺に勃たなくてもいいからさ。アンタに潰されたい」
    そう言って、私の唇にかぶりついてきた。乱暴で幼稚。私の口を無理やり開けて、舌を滑り込ませる。好き勝手にさせていたが、彼の背中を撫でると肌の冷えを感じたので、浴槽に入るべく彼を抱き上げた。口を離し、彼を浴槽に浸からせる。離れようとすると、首に腕を回された。
    「戻るから、待ってなさい」
    返事を聞かず、彼の顔を見ず、脱衣所へ戻る。下着を払って、バスジェルを手に戻る。たったの数秒だったろうに、浴槽にはまったオクタビオは向こうを向いてしまっていた。拗ねたのだろうか。それは気にやむでもなく、手にしたバスジェルのボトルをオクタビオの頭の上で逆さまにした。とろみのある液体がオクタビオにぶつかりながら湯へ溶けていった。ジェルの冷たさに驚いたのか、慌ててこちらを振り向いた。
    「なにすんだっ」
    「ふふ。いたずらです」
    ムッとしてまた向こうを向いたオクタビオの背中側に足をつけ、そのままバスタブに浸かった。オクタビオを自分に寄り掛からせ、湯面を波立たせると泡がむくむくと出来上がる。泡をオクタビオにまぶし、そのまま肌を撫でた。ぬめりのある泡で、するすると上へ下へと手を滑らせる。くすぐったそうに声を漏らし、彼の股間に手を当てがった途端には、喉をクッと閉めた。このまま擦れば、彼の思惑通りだったが。
    「…」
    「早くしろよ」
    「私、間違えてませんよね」
    「なにがっ」
    痺れを切らしたオクタビオは、私の問いかけなんかに耳を傾けず、私の手ごとペニスを包み、上下へ擦った。たったの数秒も待てないのだこの男は。だんだん硬さを持つそれに、私はただ手を添えているだけ。動かすエンジンは彼自身だった。彼の動きに合わせて、湯面が細かく乱れる。軽い彼の体が浮力に負けないように、もう一本の腕でオクタビオを抑えた。
    「正しいつもりでいるんです」
    「っはあ…んっ」
    「母からの電話も父からの手紙も、随分見てません。あの日から、触れるのが怖くなりました」
    浴室に響く私の呟きと、オクタビオの小刻みな喘ぎと、水の音。全く違う出来事がそれぞれで起きていた。自身の力だけでは満足できないのか、時折私を肘で突く。集中しろということだろうか。しかし、私も溢れる言葉を止めることができなかった。オクタビオ、聞いてください。
    「あなたの父上のせいで、私の生活は変化しました。慢心を解く良い機会だったのかもしれませんが、私の家族も心が離れ、寂しいばかりですよ」
    「どうでも、」
    「どうでも良いですよね。あなたには関係がないのだから」
    前振りもなく、ペニスを包んでいた手を離した。片腕で彼を固定し、彼の尻の溝をなぞって指を挿入した。そのままぐぐぐっと根元まで埋め込み、引き抜いては間髪入れずにもう一つ指を増やして奥に進めた。彼は突然の刺激に背を逸らし、パクパクと息を吸っていた。
    「関係がないあなたでも、私に組み敷かれて善がっているのは、どんな運命でしょうかね」
    「っは、あ、あっ!」
    「指だってもう、慣れたでしょう。何回も何回も、お邪魔してますもんね。オクタビオの中は、狭くて窮屈だったんですよ、最初は」
    オクタビオの尻だけをもたげると、バランスを崩して顔が湯に沈んだ。彼が慌てて手を浴槽の淵に着こうと暴れてみても、ぬるりとして何度か失敗していた。そんな様子にお構いなく、彼の腰を固定し、指を四つ、穴に埋めた。埋めた後は指が進めるところまで力を込め、指を丸めて伸ばすのを繰り返した。たまに空気と湯を含んでじゅぶじゅぶと泡になった液が漏れていた。彼の肉壁は柔らかく波を打つ。そしてようやく縁をしっかり掴んで顔を湯から上げたオクタビオは、苦しそうに息をしていた。体が持ち上がるのと同時に、反り腰になって、自然と彼の尻はぎゅうと締まる。
    「っ、はっ…んぐっ!し、し!死ぬだろ!」
    「死にませんよ。ちゃんと腕に力を込めていれば支えられるでしょう」
    「くそっ!この体勢っ…!い、いやだ!」
    「私はとってもいじめやすくて、良いですよ。ほら、体を緩めてください。グーが入りますよ」
    「ん、っ!」
    みち、と彼の穴が目一杯広がる。拳をグググと押し入れる。久しぶりのフィストに、彼は全身で拒否する。滑りが足りないので、湯をかけ入れてはもう一つの手指で隙間を撫でた。次第に埋まっていく握り拳に、オクタビオの息は合わせていく。短い呼吸を繰り返して、首筋を真っ赤に染めていた。ピークを越えれば、彼の飲み込みは早いもので、グビリと私の拳を丸呑みにした。全身が震える彼が可哀想で可愛くて、拳を開くそぶりをした途端に、大きな声が響く。
    「ぁっ…!やめろ!」
    「なぜ」
    「や、やめてくれよ…!マジで開くな、そのまま待って…!頼む、死ぬ」
    「待つのは好きではありません」
    「ちょっとほんとに、まっ、待ってくれ」
    彼の焦りが伝わってくる。本当に嫌なんだろう。彼の体を支える2本の腕が、苦しそうに揺れている。息遣いが短いままだ。今、彼の頭にシャワーを当てたら、いよいよ息をする場所がなくなって、パニックになりそうだ。そんな中でも、彼は、生死の境に笑うだろうか。
    「可哀想なオクタビオ。ほら、息を吸ってください。そして吐いて」
    「頼むオビさん、待って、悪かったから、ごめん」
    みるみる声が小さくなって、浴槽の淵にしがみついて震えるオクタビオは、可哀想で可愛い。誰かに食われるうさぎも、皮を剥がれる前はこんな感じなのだろうと思う。オクタビオの全身の緊張がほぐれる様子もなく、だんだんと締め付けられている拳や腕が痺れてきた。今日はここまでか、と大きなため息を吐いてみせた。
    「…はあ…興醒めですね」
    「悪い…痛えから」
    「ちょっと広げますよ。手を抜きますから、すこし我慢してくださいね」
    「んっ…」
    ぐぽ、と粘膜じみた音が鳴って、オクタビオの中で硬く固く結ばれた拳が出てくる。手を広げれば、少し粘液がこびりついていて、やや血の香りがした。切れてしまっただろうか。あとで薬を塗ろうと思った。せっかく抜いたくせに、ずっと向こうを向いて息を整えているオクタビオが、そのうちぽつりと話す。
    「そ…そっち向いて良いか」
    「良いですよ。さあどうぞ」
    「向いたら、俺、キスするけど」
    「遠慮なくどうぞ」
    言うや否や、湯面を大きく揺らし体を捻ってこちらに振り向いたオクタビオは勢いよく私の口にかぶりついてきた。またもや私の口を割り、舌を捩じ込んでくる。じゅるじゅると汚い音を立てて、私を吸っていた。その間、オクタビオの背中を何度もなぞり、彼の肌を震え立たせた。オクタビオは何度も乱暴なキスを堪能し、ようやく息を継ぐ時に、目と目があった。瞳がふやけていて、艶っぽい。なんとなく、謝らなければという気持ちが沸く。
    「…痛かったですね。いじわるをしてすみません」
    「いいぜ。なにも気にしてないさ」
    「あと、私、勃ってません」
    「お!本当だ!ははっ!さっきから気持ちよがってたの、俺だけかよ!マジか!」
    そう言って、くたりとした私のペニスを掴んだ。にゅるにゅるといじられるが、全くと言っていいほど気持ちいい刺激ではなかった。私の表情を伺いながらいたオクタビオは、そのうちいじるのをやめ、また私にキスを落とす。
    「俺に興奮しないオビさんがいいな。これからも惚れずに頼むぜ」
    「あなたと寝る人は、みんな勃ちます?」
    「勃ってるよ。俺様は魅力的らしい。体も半分ないし、みんな俺をいじめるのが好きなんだろ」
    「可哀想だとは思うんですけどね、どうも」
    「性的に見えてないっての?」
    「まあ、性的に見てますとは言えませんかね。なんというか、私の醜い部分に埋めるパテというか、なんと言ったらいいですかね。難しい。美しい言い回しが思いつかなくて」
    「へんっ。こんな時まで優雅なこった」
    「まあ、なんにせよあなたが必要です、オクタビオ。あなた自身を大事になさい」
    アンタが言うなと頬をつねられる。つねられるまま、彼をじっと見つめた。ああそう言えば、彼の尻に軟膏を塗ってあげなくては。私の瞼に塗っているものと同じでいいだろうか。そんなの、どうでもいいだろうか。
    「でもさあ、さっきの溺れそうになった時、興奮しなかったか?俺はイキそうだったよ。苦しいのにケツは掘られてるしさあ。頭の中ぐちゃぐちゃで、そこら辺のクスリなんかより良かった。訳わかんなかった」
    「…そういうの、配信で言ったらだめですよ。その時はあなたの周りのガジェット叩き潰しますからね」
    「オビさんもさ、溺れてみようぜ。多分、何も考えられなくなる。野暮なこと全部、どうでもよくなる。こんな世界の空気が吸いたくなる」
    そう言うと、オクタビオは私の頭を抱き抱えた。なんと、彼なりの励ましのようだ。抵抗することなく、されるがまま、彼の体重に押されるまま、浴槽に沈んでいく。ぶくぶく、口から漏れる泡。耳が、轟々と鳴る。液体の音と、彼の体。まぶたの傷に湯が沁みてピリつく。我慢大会よろしく、なるべく沈んでみたくて堪える。時折口や鼻から空気が抜けて、寂しい気持ちもあった。私を沈めるオクタビオの力はずうっと重いままだった。やがて、肺や全身がビリビリと苦しむ。息を、吸わなくてはならない。しかし、空気の代わりに、この風呂の湯を飲んでもいい。オクタビオが浸かっているこの液体を、取り込んで仕舞えばいい。そうしたらもう、家族のことで悩まなくてもいい。私は、口を開けようとした。

    もう着替えを済ませていたオビさんは、起き抜けにオーガニックジュースをがぶ飲みしていた。そういう時は、水じゃないんだなって思った。ガジェットで時間を確認して、やっぱり日の出くらいだったから、もう一眠りしたかった。でも、オビさんは昨日から死にたがるから目を離せない。昨日は沈めた湯船で口を開いたから、咄嗟に俺が引き上げてぶん殴ったけど、寝起きのオビさんは、どうなんだろう。どういう気持ちなんだろう。消えたいのかな。テクノロジーだらけなのに、それだけが分かんねえ。
    「オビ」
    戻ってこいというつもりで、話しかけた。俺がいるベッド、俺が手を広げているベッドに、戻ってこい。行くな。俺のところに来い。
    「ではまた」
    オビさんは、ニコリと笑ってドアから出ていった。静かになった部屋で、サイドテーブルに置きっぱなしのタブレットを引っ掴んで胸に抱く。ムカつきすぎる。あいつにまた、泥を塗ってやろうと思った。
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    DONE拒食症のオクに口移しで食べさせたり飲ませたりするオビのオビ→←オクなシアオクSS。まだ付き合ってないけどそうすることには慣れてる二人。
    言葉は要らない 私は、彼の異常に、いち早く気が付いていた。打ち込んだ興奮剤が切れた直後のふらつき、平常な態度とは裏腹に異様なほど乱れた心音、物資を漁る指先の震え。不調を隠すのに慣れている様子だが、私の目は誤魔化せない。連戦に連戦が重なり、惜しくも二位で終わった試合の後、私はドロップシップに戻るシルバの背中を追った。同じくシップに帰ろうとするレジェンド達の最後尾を歩く彼の足取りは、ゆったりとしているようでどこかおぼつかない。カッとなりやすい性分のせいで、いつもより小さく見える背中に我慢できなくなり、足音を立てず、後ろから彼に急接近する。
    「――おわっ!」
     誰も見ていないのをいいことに、両腕で彼の体を横抱きにして持ち上げれば、シルバは虚を衝かれたように声を上げた。いわゆるお姫様抱っこというやつで、腕の中で私の顔を見上げたシルバが体を硬直させる。本気で嫌がるなら下ろすことも考えていたものの、萎縮するように、怖がるように身を縮こませて震えるものだから、優しく彼を見下ろして微笑みかけた。
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