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    snakeslave

    @snakeslave

    ついったに投げたものがごちゃごちゃになり始めたので試験的に運用中。

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    snakeslave

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    書いた。楽しかった。
    手配書を捨てますか? いいえ →はい

    ##さいてり

    \それを捨てるなんてとんでもない!/

    旅を終えた後、当たり前のように先生の屋敷で同棲している設定。
    テリが、書斎の掃除をしてる最中に先生の隠しものを見つける話。突然始まる。

    ……

    「あんたはっ、出した本を元の位置に戻す事と紙を纏める事をいい加減覚えろ!」
    「いや面目ない……」
    床に山と積まれた本。机の木目が見えない程に散らばる走り書きだらけの切れ端……に混じった重要そうな書類。
    ぱらぱらと手に取った本の頁を捲り、中を改めながら苦笑いを浮かべるサイラスに「いいから手を動かせ」と悪態をつきながらも、テリオンはそれらを片していく。
    施錠を解き、後で必要になりそうな書類を紐で括って中へ押し込んだテリオンは、違和感に手を止めた。
    「――ん?」
    その引き出しは外から見るより明らかに浅い。とん、と爪で底を弾けば空洞音がした。
    二重底か、と深く考えることなく仕掛けを解いたテリオンは秘められた場所を開く。開いてしまった。

    「――サイラス」
    サイラスはつい夢中で本を紐解いてしまい、テリオンが整頓の手を止めている事に気づかなかった。そのサイラスに、テリオンの静かなーー怒りを押し殺すような声が掛けられる。
    「何だい? テリオン」
    「一つ……聞きたいことがある」
    サイラスは本に落とされていた顔を上げる。目に入るテリオンは顔を引き攣らせ、一枚の大きな紙をサイラスの面前へ突きつける。
    それは、一枚の手配書。そこには、テリオンが描かれている。
    丁寧に保管されていたそれは日に焼ける事もインクが薄れる事もなく、在りし日の形を保っていた。
    「何でこれがこんな所にある?」
    ――おっと、まずい。遂にバレてしまった。
    サイラスは突き刺さんばかりの鋭さを持ったテリオンの視線から逃げるように視線を宙へ彷徨わせた。
    鍵を掛け仕掛けを施した引き出しも、その気になった凄腕の盗賊相手には力不足だったようだ。
    「三つ数える間に、解るように答えろサイラス」
    突きつけられるは鋭い視線と短剣の切っ先。サイラスは参った、とばかりに両手を頭上へ上げてみせる。だが、彼の顔には締まりの無い笑みが浮かんでいる。
    「ふふ、凄い気迫だ。まるで戦士だね」
    「俺は盗賊だが? 一つ」
    話を逸らすな、とばかりに刃が一歩近づく。本気ではあるまいと思うものの、これ以上テリオンを刺激するのは許されないだろう。
    「……」
    「二つ」
    慎重に言葉を選ぶ猶予もない。サイラスは慌てて口を開いた。
    「譲ってもらったのさ。かの町の……バーテンダーにね」
    「……へぇ?」
    テリオンの片方の眉が神経質そうに跳ねた。

    ………

    雪深く閉ざされた地、ノースリーチ。ダリウス率いる盗賊団が巣食うこの町に、サイラス達はやって来た。テリオンが、決着をつけるために。

    酒場の壁の、いっとう目立つ場所に掛けられた手配書。そこに描かれているテリオンの姿は、それに込められた意に反して美しい画だと思った。
    サイラスは思考する。
    一体どんな画匠が描いたかは知らないが、特徴と細部が恐ろしく精巧だった。――髪の一糸、唇の艶、右目の傷跡に至るまで。一目見ただけでは到底ここまでテリオンを正確に描き切る事は出来ないだろう。ーー描かせた人間の愛か憎か。サイラスはその執念を垣間見た気がした。

    からからと来客を知らせる鐘が鳴る。
    疎らな入りの酒場に一人、サイラスは足を踏み入れた。真っ直ぐにカウンターまで歩を進め、バーテンダーの正面の席に腰を下ろした。
    「お勧めを一杯、もらえるかな」
    すぐさまサイラスの前に出てきたのは、背の低いグラスに氷と共に入れられた琥珀色に揺らめく蒸留酒。
    静かな店内で氷を鐘のように鳴らし、サイラスはグラスを傾ける。その視線の先には、件の手配書。
    雌雄は決し、この町から脅威は去った。しかし、住民たちがそれを実感するのは明朝以降であろう。
    この町にあれはもう、必要ないのだ――。サイラスの目の前で、バーテンダーの手によって壁に貼られた手配書は剥がされていく。
    「失礼、少しいいかな」
    強い酒をものともせず、全て嚥下し終えたサイラスはバーテンダーの背に声を掛けた。
    「不要であれば、それを頂くわけにはいかないだろうか」
    「そりゃあ構わねぇが……」
    なんだってこんなものを欲しがるのかと、怪訝そうな顔でバーテンダーはサイラスの顔を窺った。数多の曲者を見てきたバーテンダーをもってしても、目の前で微笑むサイラスの――それこそ絵画のように美しい――表情から内心を読む事はかなわなかった。
    どうせ紙屑として着火材にしかならないもの。渡してしまったところでバーテンダーには痛くも痒くもない。
    筒のように丸めた紙を潔く手渡したバーテンダー。その袂に、代わりのものが差し込まれる。
    バーテンダーが入れられたリーフに気を取られている内に、サイラスは紙の中の人物を愛おしげに撫で、丁寧に折り畳む。
    「ありがとう。この事は内密に。……特に彼にはね」
    紙を挟んだ書物を軽く揺らす。サイラスは一つ微笑みを残して踵を返すと、店を去っていった。

    ………

    「確かにそれは、キミにとっては面白くない……思い出したくもないものかもしれない」
    けれど、とサイラスは食い下がる。真剣なその目が、真っ直ぐにテリオンに向けられる。
    「キミという個を精巧に写してあるその画は美しい。それが生み出された経緯がどうであれ……捨てられ、燃されてしまうにはあまりにも惜しいと。そう思ったんだよ」

    手配書の中のテリオンの虚う瞳と、生けるテリオンの険しい瞳。二つの左目がサイラスを見る。――ああ、やはりそっくりだと心の中で呟く。

    「三つ。……サイラス」
    テリオンの声は、視線の強さに反して静かな吐息のようだった。

    「覚悟はいいな!?」

    「待――」
    ぎくり、と体を強張らせたサイラスの制止を無視してテリオンは、手に持った己の描かれた紙を宙へ放る。天井近くまで上がったそれはひらり、と不規則に舞いながら落ちてくる。だが、それが形を成したまたまま床に着く事はなかった。内なる怒りを弾けさせたテリオンは、音もなく伸び上がるように短剣を掲げ――瞬きにすら満たぬ一瞬に、幾筋もの銀の煌めきを走らせた。旅を終えた今でも技の冴えは衰えを知らず。見惚れる間も止める間もなく、散り散りになった紙は白と黒の斑吹雪のように書斎の床へ、積まれた本へ降り注ぐ。

    「……ああ」
    なんと勿体ない、とサイラスは憂いた顔で紙片に手を伸ばす。
    テリオンは清々したとばかりにくるり、と短剣を手のひらで回し、流れるような手捌きで鞘へ納めた。
    「後生大事にあんなもん抱えてやがって。大層なご趣味だな、先生?」
    吐き捨てるように言ったテリオンは軽蔑の眼差しをサイラスに向ける。
    「う……返す言葉もないよ……」
    俯いたその横顔があまりにも寂しげで、テリオンは更に浴びせようとした罵倒を喉に詰まらせる。怒りと混乱で煮えていた頭は冷や水を被せられたように落ち着いていく。テリオンがどう思うにしろ、サイラスにとっては大事なモノであるには違いがなかった。
    ――壊れたモノを元に戻す。そんな都合の良い魔法は残念ながら発見されていない。無いなら創れば良い。……今こそ研究の時か?
    諦めがついていないサイラスが頭の中で妙な考えに取り憑かれているとは露も知らず。テリオンは軽くため息をつき、手心を加えた。加えてしまった。
    「好きなだけ、見ればいいだろ……」
    「え?」
    テリオンの言葉に、ぱちりと音がしそうなほどサイラスは驚き瞬いた。
    「だからっ! 絵じゃなくて俺を……うわっ!」
    「テリオン……!」
    言い終えない内にテリオンはサイラスに勢いよく飛びつかれた。頬が紅潮し、テリオンの胸の中には恥ずかしさと後悔の波が押し寄せてくる。サイラスは愛おしげにその頬に指を滑らせてこう言った。
    「勿論、そうさせてもらうよ。どんなに美しくとも、この温もりを感じさせてはくれないからね」
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