Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    たかだ

    🐶💓🦊
    リアクション押してもらえるととても嬉しいです!

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 14

    たかだ

    ☆quiet follow

    酒はほろ酔い。映画のあとの风昊。自覚する話?

    #风昊
    fengHao

    花は蕾 花火を見終わったあと、僕たちは野田のおすすめの店で寿司を堪能した。職人の手で握られた寿司は、どれも見た目が美しくて味も良かった。
    「どうだった?」
     野田が得意げに微笑む。
     唐仁とジャック・ジャーは目を輝かせて、口々に「あれは初めて食べた」とか「サーモンが絶品だった」とか感想を言った。美味しいものは人の顔を明るくする。
    「秦风は?」
     野田は微笑みを浮かべたまま、僕を見上げていた。頷いて見せれば、「良かったぁ」と眉と目尻がくしゃりと一層下がる。その顔を見ると胸が妙な音をたてた気がして、誤魔化すように目を逸らした。
    「どうかした?」
    「何でもない。さっき少し飲んだ日本酒がまわったかも」
     小さく首を振って歩き出す。野田は黙って隣に並んだ。後ろから、残りの二人が追ってくる。
    「あの酒も実に美味かったなぁ!」
    「オレは少し飲み足りない」
    「バーにでも行く? 素敵なところがあるよ」
     三人は楽しそうに次の店の話を始めた。それに、少しむっとする。僕はそんなにお酒が得意ではない。
     東京の夜風は湿気が多くて、肌にまとわりつくようで、体が重くなる。
    「僕はいい。今日は何だか疲れたし」
     そう申し出ると、野田は器用に片眉を上げた。そして、三人は顔を見合わせる。
     水を差したいわけではない。僕は笑みを作って、「楽しんできて」と「今日とってくれているホテルの場所を教えてくれる?」を言おうとした。
     けれど、それは唐仁の高い声によって遮られたのだった。
    「じゃあ、こうしよう!」


     あれから僕たちはコンビニに入っていくつかのつまみと酒を買い、全員で野田が用意してくれていたホテルの部屋に入った。大きな窓の向こうには、煌めく夜景が見える。がさりと鳴るコンビニのビニール袋は、どう見ても似つかわしくない。
    「良いの?」
    「持ち込み料を払った。ルームサービスも頼もう。秦风は何が飲みたい?」
     涼しい顔をして野田が言う。少し悩んで「オレンジジュースを」と答えた。野田は、電話でオレンジジュースとワインと果物を注文した。
    「バーには行かなくて良かったの?」
    「それはいつでも行けるもの。それより、君と話したい」
     上目遣いでされたウィンクに、また胸が妙な音を立てた。何かが心臓のあたりで大きく膨らんで、小さな針で刺されているみたいにちくちくする。
     嬉しいと思った。なのに、上手く言葉は出てこない。無言で唇を動かすだけの僕を、野田はじっと見つめて笑った。
    「何だ、また二人の世界か。乾杯するぞ」
     唐仁が僕たちを呼ぶ。テーブルの上には、チープなつまみと酒が広げられて準備されていた。
     わぁ、と野田が声をあげる。
    「こういうの、僕初めてだよ。実はやってみたかったんだ」
     嬉しそうなはしゃいだ顔は子供みたいだ。唐仁とジャックも似たような顔をしていて、僕は何故だかさっき胸で膨らんでいた気持ちが萎んでしまうのを感じた。


     買って来たつまみと酒がなくなる頃、唐仁とジャックはホテルのバーに行くと言って出て行った。
    「ごめんね、付き合わせちゃったね」
     窓辺にぼんやりと立っていると、野田が隣に寄って来る。ふわり、とワインの香りがする。華やかな、花のような、果実のような香り。
    「野田は行かないの?」
    「言っただろ、君と話したいって」
    「楽しそうだったよ。あの二人と話している君」
    「それって、やきもちかな?」
     からかうような言葉に、押し黙る。図星だった。野田が僕に向ける顔は、いつもどこか余裕で大人ぶっている。
     事件の推理をしている時は、僕と野田でしか共有できない何かがあって、僕たちこそが対等だと感じていたのに、推理を離れてしまうと違った。僕だけが年下なんだと気づかされた。
    「そんな顔しないで」
     野田が困ったように眉を下げて笑う。
    「どんな顔」
     むっとしたまま答えると、垂れた目がとろりと優しくなる。その顔に胸がそわそわとしたけれど、それを悟られるのも悔しくて、そのままの表情を続けた。
    「座らない? ワインは少しならどう?」
    「……少しなら」
     野田はにこりとして、ソファを示した。隣り合って座ると、慣れた手つきでグラスにワインが注がれる。それを僕に手渡すと、控えめにグラスを持ち上げた。
     ひとくち含めば、アルコールが喉を熱く焼いていく。慣れない味だ。くらりとする。
     グラスを手持ち無沙汰にくるくると回して、野田は呟いた。
    「君と話したいと思っていたのに、何を話せば良いのか迷っちゃうな」
    「僕もそう思う」
     素直に答える。
    僕も野田と話したかった。なのに、何から話せば良いのか分からない。
    「同じだねぇ」
     そう嬉しそうに笑う野田の声は、どこか甘さを含んでいる。酔っているのかもしれない。初めて見る顔だ、と思った。焦げ茶色の少し潤んだ瞳が揺らめいている。
    「さっき、君は二人といる時に僕が楽しそうだと言ったけど」
     そこまで言って、少しだけ躊躇う様子で野田は言葉を切る。僕は、その奥にあるものをそっくり見逃さないつもりで、目をじっと合わせた。首を傾げて、続きを促す。
    「君といる時の方が、ずっと特別な気持ちになる」
     初めての気持ちだよ、と野田は解けない謎について考えているときのように眉を寄せた。空調が快適に整えられた部屋なのに、体がかーっと熱くなる。首から上まで血が駆け昇るのが分かった。
    「お酒、弱いんだね」
     僕の顔を見て、野田は目を細めた。分かって言っているのかいないのか。野田の考えていることは分かりづらい。そういうことにしておいても良いけれど、このままでは負けているようで悔しいので。
    「本当にそう思う?」
     そっと手首を握って、耳元に顔を寄せた。野田が呆れるように笑って、首筋に息がかかる。
    「君って、負けず嫌いだよね」
    「それは知ってただろ」
    「うん」
    「野田も酔ってるんじゃない? 体が熱い」
    「そう思う?」
     僕たちは秘密を共有するように囁き合って、もう頬と頬が触れる距離だった。
     野田の、誰も見たことがない顔が見てみたい。そう思った。それは、ミステリーを解き明かすくらい魅力的な気がする。
     伝えてみると、野田はぴたりと額を僕の肩に預けるようにした。
    「君なら、きっと見られるよ」
     少しくぐもった声はいつも自信と余裕たっぷりの野田からは聞いたことのない初めての声で、無防備に見えているふっくらとした耳たぶは赤かった。
     まずは今どんな顔してるの、と僕はその頬に手を伸ばした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works