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    sofi9617

    i7 楽ヤマ、龍ナギ、悠虎etc

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    sofi9617

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    こないだのトプステ33の無配。新刊のアフターストーリーなので出来ればそっちを読んでから読んでほしいです。サンプルだけ読んだ状態でもある程度は掴めると思います。
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19421005

    ##悠虎

    降る朝 うららかな日差しが虎於の頬を照らす。それに溶かされるようにゆっくりと意識が覚醒する。ベッドの窓際に寝転んだ虎於にしか日差しは届いていないようで、隣で眠る悠はまだ固く目を閉じていた。天井を見上げながらぐっと伸びをして身体を窓に向ける。サイドテーブルのデジタル時計は六時三十分を示していた。日付は三月一五日。虎於の誕生日だ。
     誰よりも早く、日付が変わった瞬間に祝いたいと言ってきかない悠が虎於のマンションに押しかけたのは昨夜のこと。宣言通り、悠の発した祝福の声が誰よりも早く虎於の耳に届いた。日付を超えてから帰すわけにもいかず泊まることになり、誕生日が恋人と過ごす時間で始まった喜びと共に眠りについたのだ。今日の虎於は朝から個人の仕事だし悠は学校もある。悠を車で送ってから虎於は現場に向かう予定だった。
     それを思い出した虎於が身体を一八〇度回転させる。未だ微動だにしない悠が静寂を保ったまま眠っていた。起こしてやろうと手を伸ばした虎於の脳裏にかつての記憶が蘇る。一緒に寝たはずの許嫁が一人ベッドで眠る姿。その眠りは、永遠になった。
     身体に悪寒が走る。そんなはずはない。わかっているはずなのに伸ばした手が震えていた。今になってあの朝の記憶が鮮明になる。温もりの感じられない手。されるがまま揺さぶられる肩。だらりと投げ出されたままの脚。決して開くことのない瞼。その全てが目の前にいる悠と重なる。それでも、このままにしておくわけにはいかない。
    「……は、るか」
     掠れた声で名前を呼ぶ。意識を覚醒させるにはあまりに弱々しいそれでは不十分だった。それならば、身体を。必死に震えを抑え込んで肩に手をかける。ゆさ、ゆさと微かに揺らす。起きる気配はない。
    「はるか、はるか」
    起きてくれ。必死に願いながら身体を揺さぶる。無抵抗な悠が恐ろしかった。恐怖から息が荒くなる。名前を呼ぼうとしても声が出ない。視界が滲む。死なないで。置いていかないで。僕を、俺を一人にしないで。涙があふれる前に拭おうと手を離した時だった。
    「ん……あと五分……」
     ぎゅっと悠が虎於の身体に抱きつく。びくりと震えた虎於の眦から一筋の涙が流れ落ちた。縋るように悠の身体を掻き抱く。ただならぬ様子の虎於に悠の微睡みが霧散した。かたかたと震える身体を落ち着かせるように背中を撫でる。ぽたぽたと流れる涙が悠の髪を伝って枕を濡らしていく。
    「……どうしたの? 悪い夢でも見た?」
    「いや、なんでもない……」
    「なんでもなくないだろ。隠すなよ、教えて」
     強く、けれど優しい悠の声が虎於の鼓膜を震わせる。背中に回した手をぽんぽんと規則的に当てると、一度鼻を啜ってから虎於は口を開いた。
    「……お前が死んだかと思った」
    「オレが? なんで?」
    「七歳の誕生日を思い出したんだ。……許嫁が死んだ朝のことを」
    「っ!」
     ぎゅっと悠の手が虎於の服を掴む。虎於も同じように悠の髪を一房握った。悠が脚を摺り寄せると、虎於もそれに巻き付くように絡める。触れる足先は冷えきっていた。
    「あの日と同じだったら……って考えたら……」
    「大丈夫だよ。オレ、ちゃんと生きてるだろ?」
     虎於の胸に悠が顔を押し当てる。その温もりに激しい鼓動が次第に落ち着いていった。オレと同じようにして。そう言った悠の呼吸に合わせて虎於もそのリズムを取り戻す。すう、と吸った空気からは、虎於と同じシャンプーの香りに交じってほのかに甘い、悠の匂いがした。
    「……ああ。朝から騒がせたな」
    「そんなの気にするなよ。誕生日のトラウマ、ちょっとはマシになった?」
    「少しだけ。……来年も同じようにしてほしい」
     二人きりの寝室で、悠だけに聞かせるように虎於は囁く。悠はぎゅっと腕と足に力を籠めた。落ち着いたはずの鼓動がまたどきどきと早まるのが伝わる。つられて悠のそれも騒がしくなる。
    「いいよ。毎年、三月一五日は虎於に起こされてやる」
    「そうか……ありがとう」
    「虎於も忘れんなよな。わ、眩し……」
     顔を離した悠が目を細める。いつの間にか日は昇り、二人の姿を明るく照らしていた。温もりをもたらすそれに身を任せたくなるが、そろそろ準備をしなくては。虎於が身体を起こすと、悠も伸びをしてからベッドを降りた。
    「早く着替えろよ。朝食は行きがけに済ませるぞ」
    「うん。……虎於、誕生日おめでとう」
    「はは、ありがとう」
     きっと一生忘れられない誕生日だ。拭いきれなかった涙がまた一粒落ちる。目ざとい悠はそれを見逃さず、細い指で掬い上げた。そのまま虎於の頬に手を添える。降り注ぐ朝日を浴びながら、二人はゆっくりと唇を重ねた。
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