シラーを摘む「あー! あとちょっとでチャンピオンだったのに!」
ぼふん、と勢い良くキングサイズのベッドに沈み込む。隣に座る虎於は呆れたようにため息をついた。オレの手から離れたスマホを取り上げて、リザルトが表示された画面をじっと見る。しばらくそうしてから、ロックがかかって真っ暗になったスマホを投げ返した。
「今のは惜しかったのか?」
「そうだよ、あと一人だった! あそこで勝ってればランク上がったのに……」
「はは、残念だったな」
もう一度スマホをつける。そのまま次のバトルにエントリーする。そのボタンをタップした瞬間、虎於があっと声を出した。
「まだやるのか?」
「ランク上がるまでやる! 絶対チャンピオン取る!」
もうちょっとでシーズン終わっちゃうし、もう一つランクが上がれば称号が貰えるんだ。ここまで上がれたのは初めてだから頑張りたい。それに、負けっぱなしは悔しいじゃん。
すぐにマッチングが完了して、バトルロイヤルが始まる。まずは武器、武器……。
「お! いいの見っけ!」
「……武器が良くても使いこなせないと意味ないんじゃないか? エイム、だったか」
「うるっさいなあ! よっしゃ、キルとった!」
まずは追いかけてきた敵を返り討ちにしてやった。跳ねるように起き上がって画面に集中する。あ、手負いのやつ見っけ。仕留めてやる。
「悠」
「……よし、2キル!」
「はーるーか」
「そろそろエリア移動しないと誰か来るかも……あ、回復あるじゃん。ラッキー」
順調に敵を倒して、自分の体力や残弾にも余裕があるまま残りは片手で数えられるほどになった。二人で争ってるところを漁夫の利でどっちも倒したらあと一人。位置はわかってる。あっちは気づいてない。これを当てたらチャンピオンになれそう! 称号取ったら四葉に自慢して……。
「悠!」
「あっ」
ショットのボタンをタップした瞬間、虎於がスマホを取り上げた。そのままロックをかけてベッドの反対側に放り投げる。ぽふ、と柔らかなクッションに受け止められたようだ。
「何すんだよ! せっかく勝てた試合だったのに!」
「俺をいつまで放っておくつもりなんだ?」
そう言いながら虎於がオレを抱き寄せる。そのままゆっくりと身体を倒して、二人でベッドに沈み込んだ。とくん、とくんと規則的な心臓の音が聞こえる。少しだけいつもより早い。
「虎於……」
「ちゃんと構えよ。寂しいだろ」
顔を見てそう言ってから、甘えるように顔を寄せてくる。ほったらかされて拗ねてるんだ。可愛いとこあるじゃん。ふっと笑ってから頭を撫でて、気づいた。
虎於がこうやって甘えるくらいオレは信頼されてるんだって。
付き合ったばかりの頃はお互い素直になれなくて、すれ違って何度も喧嘩をした。言いたいことが言えなかったり、心にもないことを言ったり言われたり。特に虎於は、オレに本音を隠すことも多かったのに。
「構ってほしかったの?」
「ん……」
それが今はどうだ。こんなに素直に、我儘を言ってくるようになったんだよ。オレが気づいてやらないと何も言えなかった虎於がさ。
ああ、愛おしいな。身体の内から湧き上がる熱が身体を支配する。寄せられた唇に自分のそれを重ねて、紅色に染まった頬を撫でた。
「うん、ごめん。この後はもう虎於しか見ないから」
「……それならいい」
「だから、虎於もオレ以外見るなよ」
じっと少し潤んだ赤い瞳を見つめる。それが優しく細められて、オレと同じ熱を吐くように虎於は言った。
「とっくにお前以外見えなくなってるのに」
***
「えっ、称号取れてる!」
「お、やっぱりか」
翌朝、ログインボーナスを貰おうと開いたプレゼントボックスには狙っていた称号が入っていた。驚いているオレとは対照的に、予想通りと言って虎於が笑う。その顔をじっと見つめると、なぜか得意げに画面を指さした。
「お前は当てると信じてたからな。一応勝利を確信するまで待ってやったんだぜ」
「虎於……!」
大好き! そう叫んで思いきり抱き着くと、重いと言って引きはがされる。昨日は寂しいって言ってたくせに。でも、その耳が赤いことにちゃんと気づいた。
長く付き合って変わったのは虎於だけじゃないんだからな。