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    sofi9617

    i7 楽ヤマ、龍ナギ、悠虎etc

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    sofi9617

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    自動販売機でジュース選んでるだけの悠虎
    りんごの花言葉▶︎選択

    ##悠虎

    リード・トゥ・アップルペットボトルを三本抱えて、自動販売機の前に立ち尽くしていた。
    内訳は桃のスパークリングジュース、ミルクセーキ、スポーツドリンク。それぞれ百さんと環と龍之介に頼まれたものだ。合同ライブのダンス練習に来てた面子がその三人で、これから休憩がてら振付やポジションの調整をするところ。俺が飲み物を買うと言ったら、それぞれが好きなものをリクエストしてきたからな。
    「あー……」
    全員分買ったんだからさっさと戻りたいが、自分の分が決まらない。喉は乾いている。何か飲み物は欲しい。ラインナップを見て決めるつもりだったのに、どれもなんだかピンとこない。
    いつもなら運動の後はミネラルウォーターを飲んでいた。そうするべきだと思っていたからだ。でもライブ後に好きなものを飲んでるメンバーや、さっき目を輝かせて頼むあいつらを見て、俺も何か別のものを選んでみようと思った。自分じゃ決められないのに、馬鹿みたいだな。
    ミネラルウォーターでいいか。ボタンに指を伸ばしたところで誰かに肩を叩かれる。はっと振り向いた俺の頬に、ぷすっと何かが突き刺さった。
    「あはは、ひっかかった!」
    「なんだ、悠か」
    人差し指を突き出したままケラケラと笑っている。これに引っかかったのは初めてじゃない。何度か同じ目に遭っている。それが無性に悔しくて強めに手を振り払った。
    「ったく、いつになったら飽きるんだ?」
    「虎於が引っかからなくなったら! 今休憩中? 何買うの? てか多くない?」
    「俺だけじゃない。今いる全員分買ったんだよ」
    「ふーん、誰がいる? どれが誰の?」
    一つずつ名前と飲み物を結びつけると納得したのか悠は頷く。そのまま俺を見上げて、首を傾げた。
    「で、虎於は何買うの?」
    「……水?」
    「また? てかなんで買う本人が微妙な顔してんの」
    そう言われて言葉に詰まっていると、音を立てて小銭が落ちてくる。タイムオーバーだ。もう一度お金を入れるところからやり直し。まずは拾おうと膝を曲げると、悠が横から掠め取った。
    「三本も持ってたら取りにくいだろ。水でいい?」
    小銭を手で弄びながらもう一度俺の顔を見る。なんだか重大な決断を迫られているような気になってくる。たかが飲み物ひとつだぞ。それなのに、うまく喉が動かない。自動販売機と悠の顔を交互に見る。人差し指を彷徨わせていると、不意にそれを優しく掴まれた。
    「そうだなあ、オレのおすすめはこれと、これと、これ!」
    レモン風味の炭酸水、アイスココア、オレンジゼリーのボタンにそれぞれ導かれる。それから手を離して、じっと黙り込んだ。悠に決めてもらおうかとも思ってたのに、この様子じゃそうはしてくれないようだ。あくまで俺に選ばせるつもりなんだろう。
    でも、選択肢は絞られた。この中からなら選べる。三つのパッケージをじっと見つめて思案する。ココアは俺にとって甘すぎるし、炭酸水は水と変わらなくてつまらない気がした。ゼリー飲料ってのは飲んだことないが、これくらいの冒険をしてみるのも悪くないかもしれない。
    「じゃあ、これ」
    オレンジゼリーのボタンを指差す。途端に悠は目を輝かせて、勢いよく百円玉、五十円玉、十円玉を一枚ずつ投入口に入れた。人差し指をぐっと押し込むと、ガコンと音を立ててペットボトルが落ちてくる。俺の腕からスポーツドリンクとミルクセーキをひったくって、取り出したボトルを渡してきた。
    「はい、虎於の分!」
    「ああ、ありがとう。せっかくだし一本奢ってやるよ、何がいい?」
    「ほんと!? じゃあこれ!」
    俺の十倍早く悠は自分の分を買った。俺に勧めてきた中にはない、マスカット味のスパークリングだ。ずっと気になってたんだよなー、なんて嬉しそうに言うから俺もつられて目を細める。両手が塞がってなければ頭を撫でていたところだ。
    「美味いといいな、それ」
    「うん! あ、虎於のやつ飲む前にちゃんと振らなきゃダメだからな」
    「振る?」
    「振って固まってるゼリーを砕くんだよ。面白くない?」
    「興味深いって意味ではな。初めて飲むから……楽しみだ」
    ラベルを眺めながら呟くと、悠がドンと身体をぶつけてきた。得意げに笑っている。なんでお前の方が楽しそうなんだ。同じくらいの勢いで俺からも肩をぶつけると、ついに笑い声が漏れた。行くぞ、とレッスンルームの方へ足を向ければ軽い足取りで悠もついてくる。
    「焼きそばパンくらいハマったらいいな!」
    「さあ、どうだろうな」
    「オレのお気に入りなんだから絶対美味いよ。マスカットも美味かったら一口あげる!」
    「はは、それならこっちも一口飲ませてやるよ」
    「いいの!?」
    いつの間にか俺の足取りも軽くなっていることに気づく。それは未知の体験への期待からだし、そこに導いてくれたのは悠だ。些細な一歩が踏み出せない俺の手を優しく引いてくれた。
    「ああ。お前に感謝してるんだ」
    「なんだよ、大袈裟だなあ。次は別のおすすめ教えてあげるから!」
    「ふは、楽しみにしてる」
    それを楽しみにしながら、同じだけ返していきたい。今は悠に教えてもらったり、あいつの希望を聞くばかりだけど、俺が好きなものも伝えられるようになりたいんだ。飲み物だけじゃなく、他のことも。
    不安はない。できるようになる。悠の笑顔を見ると、そう信じられる気がした。
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