らしくない。
黒塗りの車、後部座席に座り、左馬刻は確かにそう思った。
信号待ちをしている間、何気なく見た外に小さな花屋。そろそろ店仕舞の時間だろうか。外に並べられた色取り取りの花を、小柄な男性店主が店の中に運んでいた。
目に付いた赤色。思い出すのは自宅で待つ愛しい恋人。
らしくない。だが春だから?やけに美しく見える。そしてこれを贈ったらアイツはどんな顔をするだろうと想像したら。
「停めろ。」
運転をする舎弟に一言放ち、左馬刻は弾む足取りで車外へ出た。
「恋人へですか。」
赤い薔薇を一輪。確か家に花瓶は無い。一輪なら適当なグラスで代用できるだろう。まだ咲き切らない窄んだ赤は思ったより深く、もっと明るく鮮やかな別の花の方が良かったかと悩む左馬刻に、繊細な手つきで包装しながら店主は柔らかな声で話し掛けた。
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