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    watarunworlds

    わたるん書庫

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    炭治郎と着物の話です
    大正軸・生存if
    このお話は1月のインテで配布したものです
    ご了承ください

    恋衣 炎柱・煉獄杏寿郎の継子になって気づいたことがある。
     煉獄は、いや煉獄家の人々は着道楽だ。煉獄家は代々、炎柱を承継し、鬼殺隊の中において特別で重要な位置にいる一族だ。日々心と身体の鍛錬を欠かさず、鬼殺という役目を果たしている。柱には希望するだけ俸禄が支払われるが、だからと言って煉獄が有り余るほどの額を請求しているということはなく、むしろ堅実で質素な生活をしている方だと屋敷内の調度品から見てとれた。
     どちらかと言えば自分のことになると無頓着な煉獄だが唯一、こだわっていることがある。それは衣服だ。産屋敷家に参上する際は隊服を着用することが慣例化されているが、柱はその他に交渉の場にも顔を出すことがある。となるとそれぞれの場にふさわしい衣服を揃える必要がある。町を歩けば誰もが見惚れる美丈夫である煉獄は何を着けても似合う。次はどんなものを仕立てたのか予想し、纏う姿を見るのが多くの隊士たちの楽しみでもあった。
     

     鎹鴉からの報告で任務を終えた煉獄と炭治郎が戻るのを知った千寿郎は二人のために部屋を温め、風呂の準備をしていてくれた。熱々の湯に浸かると雪が舞う山中での任務で身体の芯まで冷え切った身体が解れて溶け出していきそうだった。
    「兄上、仕立てをお願いしていた着物が明日、届くそうです」
     風呂上がりの二人に夕食までに軽食をと熱い茶と甘い菓子を持ってきた千寿郎が閉口一番に告げた。
    「おお。もう少し時間がかかると思っていたが。新年に間に合ったな」
     とろみのある甘いたれのかかった団子は渋めの茶によく合う。二個、三個口にして腹が膨れると途端に眠気が襲ってくる。二人がいるのに継子である炭治郎が先に眠ってはいけないと自分の腕を抓った。
    「年内には間に合わないかもしれないと伺っておりましたので、心配していましたが、安堵しました」
    「千寿郎くんが生地や染めを見立てているのでしょう? 俺はそういうことがからっきしで、どんな着物なのか楽しみです。きっとお似合いですよ。見なくても判ります」
     真新しい着物を纏った煉獄の姿を想像して、少し眠気が遠のいた。
    「はい。父上や兄上の意見を取り入れながら決めています。僭越ながら、今回は炭治郎さんの着物もご用意しましたよ」
    「えっ、俺のですか?」
     思わず持っていた茶を零しそうになった。眠気はどこかに吹っ飛んで完全に目が覚めた。
    「ああ。君の着物も一緒に仕立てたぞ」
     先程の発言は聞き違いではなかった。
    「えっ、そんな、申し訳ないです」
    「いつも正月に合わせて父上と千寿郎のものも新調しているのだから気にするな」
    「そうです。兄上の継子である炭治郎さんも我が家の一員ですし」
     恐縮する炭治郎はにこにこと兄弟に同じ笑顔を向けられて、眩しさに思わず目を瞑った。
    「甘露寺がいる頃には彼女の分も仕立てていたからな」
    「でも先日、仕立てていただいたばかりですし、普段は隊服があるので箪笥の肥やしになってしまいますよ」
    「平穏な世の中になったときに必要になるものだから何枚あってもいいだろう? もっともそのころはもしかしたら着物ではなく洋装が主流になっている世の中になっているかもしれないがな」
     確かに街に出れば洋装を纏う人が多くなってきたと感じた。洋装は着物に比べて動きやすく、脱ぎ着もしやすい。この先、洋装を選ぶ人はどんどん増えていくだろう。
    「兄上。禰󠄀豆子さんの着物は蝶屋敷に運んでいただきました」
    「そうか。あちらには女手がたくさんあるから着付けにも困らないだろう」
    「えっ、えっ、ちょっと待ってください。禰󠄀豆子のものも用意していただいたのですか?」
    「君の分だけというわけにもいかないだろう。兄妹なのだから」
     誰にでも公平に接する煉獄らしい答えだが、何を言っているのだと不思議そうな顔を向けられたのは心外だ。高価な着物を継子でもない禰󠄀豆子の分まで仕立てて貰う道理はない。
    「妹御に似合いそうな色を選んだが、若い女子が好む流行りの柄にして貰ったそうだ」
    「女性向けは甘露寺さん以来ですので職人の方が張り切っていらっしゃいましたよ。禰󠄀豆子さんも太陽を克服されて晴れて陽の下を歩けるようになりましたし、あちこちどこにでも行けますね。皆で初詣に行きましょうね」
     にこにこと笑顔全開な千寿郎がとても楽しそうで、それ以上何も言えなくなってしまった。炭治郎と禰󠄀豆子のことを思ってしてくれたのだとよく判った。感謝もしている。だがどうにも胸の中がちりちりとして落ち着かない。
    「届くのが楽しみですね」
     夕食の支度をしてきますと言って千寿郎は腰を上げ、二人に一礼すると部屋から出ていった。
    「どうした。竈門少年。浮かない顔をして」
     じっと畳の目を睨みつけていた炭治郎は煉獄の声にはっと我に返った。
    「う……何でもありません。あのっ、千寿郎くんの手伝いをしてきますっ」
     腹の中で渦巻いている感情はとても幼稚じみていて口に出すことも憚れるが、このまま煉獄と一緒にいたら酷い言葉で詰ってしまいそうだ。
    「竈門少年、どうした?」
     訝しげな煉獄の声を振り切って、炭治郎は部屋から飛び出した。
     
     夕飯時にも頑なに目を合わせようとしない炭治郎に痺れを切らしたのか、千寿郎と片付けをしていた炭治郎は煉獄に連れ去れられるようにして部屋へ連れ込まれた。
    「君は何を怒っているのだ?」
     両肩を掴まれて顔を覗き込まれた。これでは逃げることもできない
    「う……怒っていません。俺の中で卑屈の虫が暴れているだけですから。自分の中で咀嚼できるまで放置しておいてください」
     煉獄から愛されていることはよく理解している。だからこんな感情を抱くのは自分の中できちんと整理がついていないだけなのだ。
    「俺は何か君の気に触るようなことをしたのだろうか」
     煉獄は困惑の表情をしているし、戸惑っているようなにおいがした。
    「着物の話をしているときから様子が変だったな。君に断りもなく着物を選んでしまったからか? それとも他に着たいものがあったのか?」
    「違います。あの……」
     大切な師匠にそんな切ない表情をさせてしまう自分が情けない。
    「以前に服を贈るのは脱がしたいという願望があると宇髄さんから伺ったとお話ししたかと思いますが、ええとそれで」
     以前、煉獄に正絹の着物を仕立てて貰い、宇髄の耳打ちどおりの展開になった。大切に仕舞った着物を見るたびにあの日のことを思い出して、顔が熱くなる。
    「禰󠄀豆子の着物を仕立てたということはそういうことなのかなとこう、胸の中が落ち着かなくて。そんなことはないと思っているのですけど、大切なことだから二度言いますがそんなことは絶対にないと思っているのですけど!」
     話し始めると止まらなくなって一気に胸の内を吐き出した。
    「煉獄さん?」
     いよいよ呆れられたかもしれないとこくりと息を飲んだ音がやけに大きく響いた。
    「君が案外、想像力が逞しいのだと初めて知ったぞ」
     ふっと眦を緩めた煉獄は炭治郎の手を引くとあっという間に膝の上に乗せてしまった。間近で見る煉獄の瞳の色は本当に美しい。だが瞳の色や睫毛の長さにも見惚れている場合ではないのだ。
    「つまり。悋気か」
     何だか嬉しそうに見えるのは何故だろう。
    「竈門少年。よく聞きなさい」
     顔を覗き込んだ煉獄は炭治郎の肩や胸に触れてくる。
    「は、はひっ」
     襟元をつうっと指先でなぞられて背筋が震えた。
    「お、重いでしょう。退きますから」
     煉獄の膝の上から退こうとした炭治郎の背中に回った腕に力が込められる。襟元をなぞっていた指はそのまま下へ下へと降りていく。もぞもぞ動くと煉獄のものに押し付けるような形になって、それがどんどん熱を帯びてくるのが判った。
    「あのっ、報告書っ、任務から戻ったので報告書を書かないといけませんから」
    「明日で構わない」
     合わせの隙間から指が忍び込んでくる。
    「煉獄さんっ」
    「俺が脱がしたいと思っているのは君だけだし、どんな服でも君の服を脱がすのは俺の役目だ」
     にっこり笑って、囁かれた言葉に炭治郎の身体から力が抜けた。かがみ込んできた煉獄は唇が触れるぐらいに顔を寄せてきた。
    「君はどうなのだ?」
    「……俺以外の人にはしないでください」
    「そうか。うん。君が不安にならぬようにしなくてはならぬというのに。不甲斐なし。君が安心できるよう行動せねばならぬな」
     触れ合ったところがじんと熱くて溶け出していきそうだ。 
    「早速実践しようと思うのだが」
    「お、お願いします」
     炭治郎は煉獄の首に腕を回し、甘く唇を噛んで催促した。
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