甘くて昏い夜のこと 恋に落ちたときの匂いを覚えている。
七海が帰ってきてからしばらく経ったときのことで、僕はたびたびアイツの家に転がり込んでいた。七海がまた、あの時みたいにふいっといなくなってしまわないかすごく心配だったから。
「そんな風につきまとわなくても、もう逃げたりしませんよ」
って七海は僕が部屋を訪れるたびに、呆れたみたいな顔をしてクソデカい溜息をつくけど。
「ほんと?」
「ええ、大人ですから」
それでも僕は疑心暗鬼なので七海の家に入り浸る。任務やら情報共有やら何やら、本来なら補助監督がやる仕事を僕がひったくって、あらゆる雑務を届ける態で部屋を訪れていく。
大人かあ。
僕は高専にいたときからずっと七海のことが好きだったし、なんか色素の薄い柔そうな肌とかまだ少し未発達の手足とかさらさらの金髪とかに一目見たときからなんか釘付けになってしまったんだけど、七海にはそんなのは全部子供の戯れみたいな感じで思われてたのかなーとか考えてしまう。
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