彼女が、舞台袖から俺の腕をひいて歩く。
その横顔に明らかな緊張を感じとり、そわりと心配になる。
しかし心配になったからと言って、今の俺に出来ることは少ない。
なぜなら――
「《あの、オレ何処へ連れていかれるんですか?……まさか、逮捕?!》」
「違うよ! あなたはもう解放されたでしょう?!」
今、彼女と一緒に歩いている男は『俺』ではなく、先程までとある事件の犯人にさせられかけた青少年だからだ。
1月7日、夜公演。
そのスケジュールの中にある空白の5分には、毎年関係者の間にある種の緊張が走っていた。
【3つの鍵】
廊下を進む間じゅう、ふたりはずっとこんな調子だった。
誤解も甚だしい言動をしている《彼》を彼女がなだめすかしている、という図は端から見ると奇妙に映りそうな気がしていたが、どうもそういう気がしたは俺だけらしい。
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