「今日はずいぶんシンプルなおやつなんですね」
「あ? まあな」
おやつ時、買ってきたチョコを運びに行くというある種の日課(ルーチン)をこなしにカイトさんの楽屋を訪ねると大概机の上には先客がいる。それは誰かからの差し入れだったりカイトさん自身がお昼と一緒に買いに出掛けて事務所の冷蔵庫で冷やしてあったものだったり様々だけど、華やかなものが多かった。のに、今日は真ん中でふたつに分かれた中華まんが置かれていただけだったので隣にチョコを置きながら問いかける。
「食べないんですか?」
「クールダウン中だ」
(中身が熱かったんだな……)
慣れた手つきでリボンを解き箱からチョコを取り出す彼の表情は、さながら宝物を見つけた少年のようだ。なんとも微笑ましく映るそれを見ると、このチョコの入手がどれだけ困難でも「明日もお店の前に並ぼう」と思えるから自分でも不思議に思う。
「何見てんだよ」
「私、そんなに見つめてました?」
「ああ。そうだ、ちょっと顔貸せ」
「なんですか?」
ふに、と白いものが唇に押し当てられる。
「もう熱くないか俺の代わりに確認しろ」
「ふぁい」
それを見て素直に口に加えると、カイトさんの手が離された。
「熱くないですよ。それに、甘くておいしいです」
「そうか」
「食べないんですか? あんまん」
「今はこっちがあるからいい」
こっち、と言われたチョコレートは残り3分の1ほどになっている。
「……そうですか」
そう返せば、その顔をやめろと仏頂面で言われた。やめろと言われても、口許が勝手にゆるむのはもうどうしようもない。
お詫びに明日はチョコと一緒にあんまんも買っていこう。
もちろん私と彼のふたつ分を、だ。