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    のくたの諸々倉庫

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    POIPOI 57

    黎明よ、どうか断罪を(完)/ディルガイ
    おわり!

    #ディルガイ
    luckae

    「残念ながら別人だぜ、あいつは」
    「……本当、なのか」
    「ああ、見た目は俺そっくりだけどな。なんなら俺の生まれ変わりかもしれないが、記憶の引き継ぎに必要な『俺』は今ここにいる。
     つまりは姿形だけそっくりな他人だよ」
     白い部屋。僕が贈ったものだけが、色を持ってそこに佇むこの場所で──僕を見るガイアの目は、さも愉快そうに弧を描いた。
    「ちなみにな、お前今結構危うい状態にあるぞ。ここにいるほんの短い時間以外、前からずっと寝てなかったもんな」
    「……そんな、ことは」
    「あるんだよ、過労死しかけてもなお気付かないとか余程だぞ。
     それとも俺と、ここで一緒に楽しく暮らすか?」
     ──あるいはそれは、僕がそれを拒むのだろうという確信と共に放たれた言葉だったのかもしれない。
     それでもひどく、心は揺れた。彼と一緒に、ここで、永遠に。
    「……それも、いいかもしれないな」
    「っ……おいおい、どうしたんだよお前。そんなにお疲れだったのか」
    「言い出しておいて慌てるな……疲れているのは確かだが、君と過ごせるならそれも、悪くないと思っただけだ」
    「冗談だろ……そうなればお前、もう二度と目を覚ますことなく死ぬんだぞ」
     分かっている、とだけ返して目を閉じた。自らの神の目を思い浮かべ、静かに開く。
     ……僕の掌の中に、それは確かに現れていた。
    「気付いたことがあるんだ」
    「なんで……それを!」
    「君の腰にも、僕のこれとよく似たものがあることは知っていた。けれどそこに刻まれたマークは、氷のそれだ」
     使い方は未だによく分からないが、燃えろと念じて掌の上に炎を呼び出した。ぱちぱち、ゆらゆらと燃えるそれは炎のマークにふさわしく、真紅の熱さと輝きで。
    「君の力が、この部屋の温度を下げている原因なら……僕がいれば、君はいつまでも凍えずに済む」
    「……やめろ」
    「君を寒さで震えさせたくなかった。だからずっと、僕は」
    「やめてくれ」
    「君のそばから、離れたくないんだ」
    「にいさん、ッ!」
     ──顔を、上げる。
     揺らぐことなく僕を見据えて、しかしガイアの表情はひどいものだった。だめだ、やめてくれと震える声で紡がれるのは、彼の本音であるように見えたけれど。
    「……出ていけよ。お前は新しい生を真っ当に、生きてくれよ。
     なあそうだろ、俺のこと憶えてもいないくせに! どうしてそんなことが言えるんだよ、なあ!」
    「……ずっとずっと、疑問に思っていた」
     いっそ泣き喚くようなその声に、気付いたときには語り出していた。
    「例えば自分の好きなものが、世界からすれば『普通』ではないものだったとしよう。けれどその『普通』は誰が決めるのだろう、と。その誰が決めたわけでもない幻想に、どうして縛られる必要があるのだろう、と」
     炎を握り込んだ。熱が消える。
    「記憶がないからこそ、言えることなのかもしれない。それでも君といると、自分を隠さなくていいことに胸が震える。君と過ごすために、眠る時間だって少し増えた。
     ……それでもこうなってしまったのだから、あるいは君がいなければ……僕はもう死んでいたかもしれない」
    「偶然だ、そんなの! 俺はただ気まぐれで、っ」
    「それでいい。それでもいいんだ。
     夢の中に出てくる『弟』を愛しているなんてこと、きっと『普通』ではないんだろう。それでも君と話しているうちに、僕は決意したんだ。
     君を連れて帰るよ、ガイア。この生は何も憂うことなく、君を愛したい」
    「……なん、で」
     知ってるんだよ、と。震える声で呼ばれたのは、きっといつかの僕の方だ。
    「……厳密に言えば、全て思い出したわけではないけどね。恋仲だったんだろう、僕たちは」
    「そんなの、わからないだろ……」
    「ああ、もしかして違っていたかな。それでも僕がなぜ、嘘つきと呼ばれているのかを考えていたんだ。
     いつかの『僕』は、君をかばって死んだらしいね。そして嘘つきと呼ばれるからには、きっと僕たちは約束をしていたんだろう。そして君は、僕の記憶をここに閉じ込めた上で……真っ当に生きろ、と言った。
     負い目があったんだろう、君は。けれど僕が約束を守らずに死んだことを責めなければ、それが表に出てしまうことを恐れていた。そうすればきっと、僕が君に手を伸ばすであろうことくらい……君には読めていたんだろうね」
    「ちがう、ちがう」
    「違うものか。僕はそれがどんな傲慢であろうと、君と生きることを決めたんだ。
     たとえそれが、この部屋の中であろうと外の世界であろうと……一向に、構わないけどね。
     僕は君が、幸せそうに笑う顔が見たい」
     椅子から立ち上がった。固めていた拳を開けば、そこからは先ほどより大きくなった炎があふれ出る。
    「……帰ろう、ガイア。君がひとりで過ごした300年を、僕は無駄にしたくないんだ」
     がらん、と。
     その時僕の足元に、赤黒い大剣が転がる。ああそうだ、僕はこの剣を知っているし……この攻撃が、どれほど重いか想像がつかないほど馬鹿でもない!
    「な……んで、だよ! なんで、お前はいつもそうなんだ!」
     壁を殴るように斬りつけていれば、背後から慌ててしがみつかれる。けれど僕には止まるわけも、止まれるわけもなかった。
    「この部屋を壊したらな、俺たちは時空の狭間に落ちて魂ごと消えるぞ! これは最後の砦でもあるんだから!」
    「そう言って君は、残った可能性すら諦めてきたのか!」
    「違う! お前に死んでほしくないんだよ、生きてくれよ馬鹿にいさん!」
    「ああそうだ、僕は馬鹿だ! だから今、こうして君を困らせているんだろう!」
     がつん、と叩き込んだ斬撃と共に、そのとき壁にヒビが入った。そのまま力を込めて亀裂を広げる。
     どこまでも広がる無限の星空が、壁の向こう側に見えた。
    「……お前、お前、っ!」
    「ディルックだ。飛び出すぞガイア!」
    「死にたいのか!? ヤケになってるんじゃねえよ!」
    「違う、僕が手を引いて連れ帰る!
     ……僕を、信じろ!」
     言いながら半ば強引に、手を引けば部屋を振り返り──それでも僕の手を、離すことはなかったから。
    「……はは、思い出したよ。そうだったね、ガイア」
     目の前に広がるのは、いつかのディルックが見た景色だろうか。茜色に染まる道を、時折振り返ってガイアをたしなめながら歩いていた、遠い日の記憶。
     どうしてあのとき、ガイアは泣いていたのだったか。家に帰りたくないよ、とぐずる彼の手を引いて、ワイナリーまで帰るその道すがら。「僕」は何を言ったんだっけ。
     ふわふわと頼りない足元を踏みしめ、ガイアの手だけは絶対に離すものかと前を向いた。遠くにあった光が近付く。ああでも少し、寒い、だろうか──



     白い、天井が見えた。
    「……目が、覚めたのか」
     そして同時に、僕を覗き込む青い髪の青年が目に入る。覚醒しきらない頭でもそれがガイアだと分かって、腕を伸ばしてキスをして──けれどそこで、僕はここがテイワットではないことを思い出した。
    「……ッ!」
     慌てて起き上がろうとして、しかし体がひどく重くて。それでも目の前の青年は取り乱した様子もなく、「長いこと、寝てたからな」と。
    「……君は、いったい」
     久々に声を発した気がする。ひどくかすれた僕の声に、彼は少しだけばつが悪そうに、けれど優しく、笑ってみせた。
    「お前が俺に会いに来る夢を、ずっとずっと見てた」
    「……あ、あ」
    「最初は誰だか、分からなかった。けどお前が『俺』を部屋から連れ出した日……一気に全部、腑に落ちて」
    「ガイア、なのか」
    「そうじゃなかったらここにいないだろ、察してくれよ。
     ……なあ、ディルック。いつかの約束、守ってくれるのか」
    「……すまない、少し……混乱していて。
     確認のために、っふふ、もう一度言ってくれないか」
     いや憶えてるよなそれ、と、おそらくは病院であろうこの場所を気遣ってか、控えめに声を上げ。気恥ずかしそうに視線をそらし、「俺が帰りたくない、って言った日にさ」と。
    「言っただろ、いつかふたりで暮らそうって。そうしたら俺が服を汚して帰っても、怒られることはないから、って」
    「それだけ、だったか」
    「……俺だってそう訊いたよ。そしたらお前言っただろ、だからいつか、結婚してほしい、って」
    「そう、だったね」
     視界がにじんだ。彼はまるで泣いていなかったのに。目尻から流れ落ちるそれを拭い、「それでどうなんだよ」と。
    「……ああ、そして毎日こう言うんだ、って約束だったね。
     おかえりガイア、愛してるよ、って」
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