染まりましょう。染めましょう。「…よし。これで全部か?」
「うん。ごめんね、手伝ってもらっちゃって」
「演出のためだしな!これくらいの手伝いはお手の物だ!」
手にした袋を持ち上げ、嬉しそうに笑う類を見て、オレも頬が緩むのを感じた。
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ある日の休日。
新しい公演も一段落ついたこともあり、一旦公演はお休み。
練習も、新しい脚本ができるまでは、ツカサリオンの反復練習となった。
そんな中、類が演出のために買いたいものがあるから付き合ってほしい。とのことで
オレと類だけ練習を休み、買い物に出ていた。
本来は新しい脚本ができてから買うそうだが、今回買うのはどちらかというとロボットの部品が主。とはいっても、量が多いというのに加えて大きさがなかなかのものだ。
これは確かにオレが着いていかないと大変だっただろう。
とはいっても、流石に2人で等分すれば、嵩張りはするもののさほど重くはない。
暑さ故に汗はかくものの、買い終わったものを持ちながら話し合うくらいの余裕でできていた。
今後の脚本や、それに付ける演出を話し合いながら、類の家で向かっていた時。
屋台が並ぶ通りに差し掛かった。
「…ん?お祭りでもやるのか?」
「ああ、司くんはあまりここ来ないもんね。ここでは毎年夏祭りをやってるんだよ」
「へえ…。それにしても、出店が開くの結構早いんだな」
「15時くらいから買えるようになるしね」
そう聞きながら、出店を眺める。
思えば、昔は行ったことがあるものの、咲希が入院してからは申し訳なくて避けていた気がする。
そう思うと、随分と久々なんだなと感じてしまった。
ぼんやりと眺めていたオレに何か思うことがあったのか、「ねえ、司くん」と、類が声をかけてきた。
「…ん?どうした?」
「流石にこの荷物で行ったら迷惑になっちゃうと思うけれど、どれか1つだけ買って帰る分には大丈夫だと思うんだ」
「あ、ああ。確かにそうだな」
「うん。だからさ、よかったら奢らせてくれないかい?」
「…っは!?いやでも流石に悪いだろう!」
「いやいや。僕がお願いして付いてきてもらったんだし。お礼をさせてよ」
ね?なんて言いながら覗き込んでくる類のお願いを、断れるわけがなく。
「わ、わかった。頼む。」
「うん。買ってる間だけ、この大きいのだけ持っててもらっていいかい?それと、何食べたい?」
「ああ、任せておけ。それから、食べたいのは……」
言いながら、出店を改めて眺める。
たこ焼きに焼きそば、鈴カステラ、お好み焼き、チョコバナナ。
…どれも、美味しそうではあるのだが。
「…あ。かき氷、頼めるか?」
「かき氷?それでいいのかい?」
「炭水化物を食べてしまって、夕飯が入らなくなってしまったら本末転倒だからな。イチゴを頼む」
「うん、わかったよ」
走って買いに向かう姿を見て、焦らなくていいからなと、思わず声をかけてしまった。
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「ただいま」
「お邪魔します。…これはここに置いておいていいか?」
「うん、ありがとう」
無事類の家に着き、荷物を置いてすぐに洗面所に向かう。類も後ろからすぐに着いてきた。
帰ってきたら、まず手洗いうがい。俺の家での習慣を知ってから類もそれに倣うようにやってくれるようになった。
ただ、まあ。オレと一緒にいる時のみ、のようではあるが。
「溶ける前に早速食べようか」
「ああ、そうだな!」
さっさと類の部屋に戻り、置いておいたかき氷を手にし、食べ始める。
砕かれた氷とシロップが絶妙にマッチしていて、とても美味しい。
しかし、急いで食べても頭痛を起こすだけだから、気をつけながら食べ進める。
……しかし、なんというか。
「類はそれを選んだんだな…」
「え?ダメかい?」
きょとんとしながら答える類の手にあるのは、真っ青に染まったそれ。
そう。類はブルーハワイを選んでいた。
「ダメではないが…舌が真っ青に染まるのが苦手でな」
「あ、こんな感じのかい?」
「やめろやめろ」
わざわざ口を開いて見せてくるそれを手で制しながら、ため息をつく。
「それに、ブルーハワイってなんだ?って思うしな」
「…と、いうと?」
「メロンやイチゴなんかと違って、味が想像できなくて単純に怖い」
再度ため息をつきながら口に運ぶ。そんなオレを見て、きょとんとしながら、類は言った。
「想像、って……味は同じだよ?」
「…………………は?」
ぽかんとするオレに、類は気にせず答えた。
「かき氷のシロップって、主に色と香りしか分けられていなくてね。メロンだろうかイチゴだろうが、味は同じなんだよ?」
「………!!!!!??」
「これぞ、人間の想像力の強さ、って感じだよね。香りと見た目の違いだけで、無意識に味まで違うと思い込んじゃうみたい」
「な、なんて…ことだ……いやでも、実際に違うと感じていたんだが…」
衝撃的なその言葉に、思わず頭を抱えそうになる。
それを見ていた類が立ち上がり、傍によってきた。
「なら、試してみるかい?」
「え?…………んっむ!?」
何を言っているのか、と類の方をみた瞬間、その口が塞がれる。
そしてそのまま、びっくりして開けていた口に、素早く舌が差し込まれる。
音を立てながら口の中を動き回るそれに翻弄されてしまい、手はTシャツを掴むことしかできない。
口の中で混ざり合う唾液は、類のと混ざってる筈なのに、イチゴ味を食べている時と変わらない味がした。
「……っは…はー……っの、ばか…」
「ふふ、ごめんよ?でも、味は全然変わらなかっただろう?」
してやったりな顔をする類に、思わずそっぽを向いてしまう。
しかし、ふと見えてしまったそれに、思わず顔を戻してしまった。
「…?司くん、どうかしたかい?」
「類、ちょっと口開けてみろ」
「……?わかった」
首を傾げながら、口を開けてくれる。
先ほどまで真っ青に染まっていた舌は、オレのと混ざってしまったからか、色を変えていた。
「舌の色、変わってるな」
「え?……ああ、キスしたからかな?」
「ああ。そう考えると、してよかったな」
え?という類の前で、べ、といった感じで、舌を見せる。
イチゴの赤と、ブルーハワイの青が混ざった色。……紫色を。
「お前の色に染まったからな?」
反撃だ。といいながら言うオレに、類は顔を赤く染めながら、覆いかぶさってくる。
かき氷は、ついぞ溶けきる最後まで、食べられることはなかった。