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    3iiRo27

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    ritk版深夜の60分一発勝負
    第百四十二回 お題:「寂しさ/寂しい」「愛慕」
    司がワークショップで指摘された内容をきっかけに、類への愛の深さを再認識する話。
    司視点、基司しか出ません

    #類司
    Ruikasa
    #ワンドロ

    その大きさは無限大。「……うん。とても良くなったと思いますよ」

    「……!!ありがとうございます!!」



    優しく微笑む女性に言われた言葉に、サッと頭を下げてお礼を言う。

    でも、そのままいる訳にはいかない。パッと立ち退くと、すぐに次の人がスタンバイした。
    女性の顔からも微笑みが消え、真剣な顔で次の人に指示を出している。



    今日は、ワンダーステージのお休みを利用して、ワークショップに出向いていた。

    優しく微笑んでいるこの女性も、歌もアクションも極めている方というだけあって、見抜く目が凄い。
    今は微笑んではいるが、反面、優しさ故の厳しさもある。

    だが、指摘される言葉の数々は知らなかった、気づかなかったことばかりで、色々と勉強になる。


    また旭さんに相談して正解だったと、心の中で旭さんにお礼を言った。







    「……はい、それでは15分休憩とします。先ほどの指摘をしっかり考えてください。休憩後、同じセリフを言っていただきます」


    はい、と皆元気よく返事をしたものの、練習はかなり厳しい。
    この休憩で少しでも身体を休めないとな、と水を飲みながら考える。





    「天馬さん、少し宜しいかしら」

    「……っ!?は、はい!」


    突然声をかけられ、水を吹き出しそうになるのを堪えながら、振り返る。
    そこには、例の講師の方が微笑みながら立っていた。


    「すみません休憩中に。少し、聞きたいことがありまして」

    「は、はい。なんでしょうか?」


    何を聞かれるのかと、背筋を伸ばして身構える。
    そんなに硬くならないでいいのよと、一言言ってから、女性は口を開いた。


    「天馬さんの演技は、とても良いものでした。役そのものにも見えるほど、入り込んでました」

    「あ、ありがとうございます!」

    「はい。……だからこそ、気になってしまった残念な点があったので、お聞きしたかったんです」


    その言葉に、思わず、え、と言葉が漏れる。
    そんなオレを尻目に、女性は苦笑しながら口を開いた。











    「天馬さん、お付き合いしている方がいますよね?」






    「……えっ」


    突然言われた言葉に、困惑と共に、何故わかったのかと、思わず顔が熱くなるのを感じる。

    そんなオレが微笑ましいのか、くすりと笑いながら、女性は続けた。



    「女性を思う、男性のセリフ。とてもよく心に響きました。お付き合いしている人への気持ちを、投影しているようで。

    だからこそ、惜しいと思ったんです」

    「それは……実際の恋愛感情を、持ち出しているから、ですか?」




    「そうとも、言えますね。
    天馬さんのその感情には、少しだけですが、寂しさも混じっているので」

    「……それは……」



    女性のその言葉に、言葉がつまった。

    実際、この女性のワークショップは、彼女の多忙さも相まって、他に比べてかなりの短期・長時間となっている。
    なので実際、あまり類と話している時間が取れていないのだ。



    「実際の感情を持ち出すのは、決して悪いことではありません。ですが、余計な感情もついてくるのは、間違いなく欠点と言えるでしょう」

    「…………」

    「だからこそ、




    "今思っている感情"ではなく、

    "セリフにあるような思いを向ける時の感情"




    が出せるようになれば、とても良くなると思いますよ」


    「……セリフにあるような思いを……」

    「心の底から感情を操作するのは、そう容易ではありません。
    ですが、会得すれば、抱いている感情をそのまま芝居に向けることができる。最高の武器となり得ます」

    「………………」

    「休憩後の貴方の演技、期待しておりますね」



    そう、微笑みながら、離れていく女性。

    オレはただただ、考えていた。



    類への思いを変えて、芝居に向けられる方法を。





    ------------------------------------




    数日後の、ワークショップ終わり。

    一人一人、個室に呼び出されて、今回のよかった点、悪かった点を、教えてもらっていた。



    勿論のこと、オレも、よかった点も悪かった点も、どちらも沢山言われた。

    まだまだ精進が必要だなと考える中、ふと言葉を切って、女性がオレに微笑んだ。




    「……講義の途中で、恋愛感情の向き先の話をしたのを、覚えていますか?」

    「え?は、はい。あれから自分なりに工夫しましたが……」

    「はい。確かに、前よりも良くはなりました。ただ、あまり向けたことがない感情ですと、前より薄いように感じました。体感したことがない感情も向けられるといいですね」

    「っ、はい!」




    「それから。……これに関しては、評価でもなんでもないですが。」





    そう言って、一呼吸おく女性に、オレは首を傾げる。

    そんなオレを尻目に、女性はオレをまっすぐ見て、口を開いた。











    「……天馬さんは、その好きな方に、愛慕を寄せているのですね」



    「……あい、ぼ?」

    あまり聞かない言葉に、思わず首を傾げる。
    そんなオレに、クスリと笑いながら、話を続けた。



    「とても愛していて、傍にいたい。心惹かれていて、いつでも思い続ける。そんな意味を持っています」

    「……っ!」






    「アドバイス後の天馬さんの演技は、確かに良くなっていました。足りない部分もあれど、進歩しておりました」

    「その中でも、誰かにまっすぐに想いを伝える言葉。……これに関しては、どれよりもまっすぐに心に響きました。他の方々からも、高評価を受けています」



    聞いている人が少し恥ずかしくなるくらいには、と苦笑する女性を見て、思い出した。
    オレがセリフを言って戻る最中、何人かは顔を赤らめていたと。

    しかし、オレは周りの人もそんなにわかるほど、想いが籠っていたのか。
    その事実に、少しだけ恥ずかしくなってくる。



    「高校生で、ここまで深く人を好きになっているのは、少し珍しいように感じました。
    ですが、だからこそ、自分の中にある想いを、最大限に発揮できたのだなと、思っています。



    好きな人と、お幸せに。そして、その想いを、大事にしてくださいね。」


    「…………っ、はい!」




    女性のその言葉に、大きく返事をしながら、頭を下げた。





    ------------------------------------





    周りにその想いが伝わるくらい、オレは自分の演技に想いを込められていた。

    大切なことだけど、コントロールできてなかったのは事実で。
    その想いが駄々洩れだったことは、流石に恥ずかしい。


    けれど。




    『とても愛していて、傍にいたい。心惹かれていて、いつでも思い続ける』


    オレが類に向けている感情が。
    それがどれほど大きいものなのか、全然理解できてなかった。

    それを、改めて認知して。
    恥ずかしい反面、多忙なのも相まって、頭はそれ一色に染まっていた。




    類に会いたい。




    今日あったことも、言われたことも、全部全部話して。
    オレの愛の大きさを、類に知ってほしい。


    だって、類ならば。

    こんな愛の大きさも受け止めて。


    その上で、同じくらい。いや、それ以上の愛で、返してくれる。

    そう、確信しているから。



    帰りの歩きの信号待ちの間に、類の番号をタップする。

    プルルルル、と響く音がすぐに途切れ、愛しい声が耳を刺激した。




    「もしもし、類か?あのな……」














    その日、オレは類の家にお泊りすることになるのは

    また、別のお話。
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