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    kky_89

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    トリイ・ガク。パスワードは勘でといてほしい。

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    kky_89

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    創作のアジアファンタジーです。
    12国とか守人とか千年もののキツネちゃんとか幻…滸伝とか魔…師とか羅さんちの黒ちゃんとかから生えてた。

    FんたじーBすと面白いよね…新作に麒麟がいるらしいみようかな…

    習作・懐古/廃命
     黄山へ向かう道すがらの村々は私の郷里よりも豊かに思われたが、人の暮らしやすいだけに一度妖魔が出ればその被害も大きい。
    この日、立ち寄った村では若く働き盛りの農夫、猟師が相次いで失踪する事件に頭を悩まされていた。農作物にも家主の消えた家にも押し入られた様子がないため、人々も妖魔か幽鬼の仕業に違いないが、村は不便な土地にあって領主に嘆願を出しても音沙汰がない。屈強な男を何人か使者に送り出したものの誰一人戻っていないのだから無事に都まで辿り着いたかどうかも怪しい有様だという。
    彼らは私の身なりを見るや村長の邸宅へと招き、おそらく彼らの持てるもっとも良い茶を振る舞いながらそういった話を切々と訴えかけた。話を聞きながら、小さな屋敷の薄い壁越しにも私の返答にただ、応、と答えることを祈る気配を感じる。
    「…わかりました。引き受けましょう。……いくつか、お伺いしたいことがあります」
    「ありがとうございます。道士様。あなたはお若いのに立派なものです」
    「……。人が消える時になにか規則はありますか?たとえば、同じ方角の人が居なくなるだとか、時間帯、作業、血縁、身につけているもの、人や獣の恨みをかったり蔑ろにしたという噂だとか…」

    長く生きた獣が霊力を得て人を害するようになった妖獣ならば彼ら自身で立ち向かうだろうが、妖魔となればそれは世を害する災いそのものであり肉体を保てないため常人には視ることすら叶わない。だからといって、もし霊力に乏しい人間に視えるまでになればそれは妖魔などという生易しい存在には収まらない。修験者を集めて討伐をするか、土地ごと封鎖し村を捨てることになる。
    切り伏せたそれは薄らとヒトの形をしていたが、やはりヒトではなかった。
    深い森の豊かな土地とばかり思っていたが、陽の光の差さないほど生い茂った森の足元はひんやりとした湿気を帯びていて藻や苔がわずかに生えるばかりで若木は細く頼りなく今にも枯れそうだ。大地の精気を吸い尽くした森が養分としてヒトやケモノを誘い込んでいたところに、ヒトの気を得て狡猾に変化していったのではないだろうか。どうであれ、亡骸を連れ戻すことは難しいだろう。迷いの森にとりついた悪意が一つだけとは限らない。
     ふりむきざま、大樹の梢へと剣を投擲すると澄んだ音とともに剣が跳ね退けられた。やはり、と感じた時には私はすでに走り出し、投げ飛ばされた剣を引っ掴んで鬱蒼とした木々を足場にその梢へと駆け上った。
     一見するとなにもないのは、迷彩の術を使っているせいだ。気配も隠している。
     梢ごと斬り落とすつもりで剣を振り下ろすと、無色透明のマントを脱ぎ捨てるように真っ白な影がさっと横に跳び去った。ヒトのようだった。
     白い影を追い、枝から枝へ飛び移るが影もかなり腕が立つらしくどこか余裕のある動きをしている。追いかけているだけで埒が明かないうえに焦りが募れば不利な地形に誘導されても気づけない。かといって、攻撃を増せば私の体力が持たない。斬撃を打ち込むたび、高く伸びた枝葉が打ち落とされかえってあの影に都合よくつかわれているような気にさせる。
     けれどこちらが一方的にやりこめられているわけでもない。しばらくの追いかけっこのなかで私も白い影が立つときにどんな幹を選んでいるのかおおよそ判断ができるようになった。それにあれは妖魔でも妖獣でもない。それがまた一つの枝を蹴り木々の間を跳躍するのを見、私は地上へと降りた。枝を払いながら跳ぶよりも地を蹴ったほうが早い。影は予想と違わぬ場所に降り立ったが先ほどまでぴったりと後ろをついていた私を見失ったのか一瞬、足を止めた。
     私はそれの留まっている大樹を横一線、薙ぐ。
     手首に痺れるような抵抗を感じ、この樹もまた霊力を帯びていたことに気づく。が、突飛な手は一度しか使えない。仕損じればこの距離だ、捕り逃す。
     力づくでねじ伏せて樹がゆっくりと傾いでゆく。刃を立てたほうへ、他の木々の枝葉を道連れにしながらやがて樹は地響きをとどろかせて大地に伏せり、隙間なく埋め尽くされた天井に一寸の光が差した。鳥の一羽も飛び立たなかったしさえずりすら聞こえない。
     白い影は樹の倒れきるまえに跳んだが、軋みながら倒れる梢では踏みきりが甘かっただろう、途中で地に落ちた。
     不意の着地を難なくこなし、すぐさま追い打ちをかける私に白衣はようやく剣を抜いた。剣を交えて確信したが、これは生きた人間である。どこの流派か定かではないがよく訓練された、妖魔を祓うための剣術だ。私と同じく、人間を斬るのには向いていない。
     競り合いを押し切られ、互いに間合いをとってにらみ合いに転じる。
     真っ白だとおもっていた衣は淡い灰褐色で木漏れ日に透けたところは乳白色にきらめいている。薄物の外衣は絹のような光沢だが綿と霊獣の毛を織り込んだ丈夫で上等に仕立てにちがいない。どこかの社寺仙門の制服にみえるが土地勘もない私には瑞鳥の透かし紋の詳細はわからない。大帯には流風の意匠が、佩玉は金に服と同じく鳥の紋が刻まれている。どれをとっても一級の霊具に匹敵するだけでなく、芸術品としても耐えうる気品を備えていた。
    「この樹を切るなんて、すごいな…」
    「……」
     称賛を込めた声色は思いのほか若くよく見ればまだ少年とも呼べる顔立ちだ。
    「私を付け回して、なにがしたい」
    「一人で行くのは危ないから、手助けしようとおもっていたんだ。でも、その必要はなかったね。きみ、強いじゃないか」
     白衣の少年は剣を構えたままにこりと笑いかけた。
    「……あなたが仕組んだわけではないでしょう」
    「ええ。もちろん」
    「手柄の横取りになってしまったなら…あなたが報告に行けばいい。この森に近づいてはならない、木を伐ったり枝を拾うのもやめたほうが良いと忠告をしてくれ」
    「呼び子を祓ったのは君だよ。それは君がするべきだ。私だって手柄はべつに求めていない」
     それなら、なぜ剣を構えたまま瞬きもせずこちらを注視しているのか、私には意図がわからなかった。私も剣を構えているせいだろうか。けれど私はさきほどから何度も視線を外し切っ先をそらして戦意のないことを伝えている。彼が応じてくれなければ私も剣を下ろすことはできない。私の意識が逸れているとわからないほど愚鈍なら陰鬱な霊気に満ちたこの場をああも跳びまわることはできるはずがない。欲しいものが手柄ではなく金品なら私の不意を突こうとするはずだがその様子もない。
    「………」
    「私の縮地についてこれる人、先生以外で久しぶりに見たよ」
    「いやだ」
    「まだ何も言っていない」
    「やらない」
    「一度だけでいい、手合わせをしてくれ」
    「断る」
    「ここは霊樹の領域でどれだけ暴れたって畑どころか獣のひとつにも迷惑はさせない。これほど私たちの手合わせに向いている場所はほかにないと思う」
    「私は断った」
    「じゃぁもう一度頼む。私と手合わせを」
    「しない」
    「頑固だね」
     少年はやれやれ、といった風に肩をすくめて剣を地面に刺し、袂を漁り始めた。彼はそこに百度嚢をしまっているか袖そのものを百度嚢として扱っているのだろう。
    「勝っても負けても、これを君に譲ろう。予備にと持たされたのだけれど君ならやっても惜しくない」
    「…」
     彼が取り出したのはまだ紐も通されていないまっさらな百度嚢である。
    百度嚢自体は霊具を扱う舖ならどこにでもある。その名の通り「百度つかっても壊れない」という意味でもあり袋の口を通ってしまえば「百度入れられる」袋でもある。特別な品ではない。ただ、店で買うとなると一財産必要になる高級品だ。
    「…勝負はしたくない」
    「それは駄目だ。私は君と一戦交えると決めたんだから」
    「……」
     私は承諾した覚えがない、と咄嗟に言い返せないことがもどかしい。断る、といったところでこの様子では彼は止まらない。もっと強固に、明確に、できれば彼を上回る言葉数で応戦しなければならないが、よい言い回しが浮かばない。真剣での手合わせとなれば殺さなければ構わないことを意味する。すこし追いかけっこをして一度鍔競り合いをしただけの実力もわからない相手にやるべきではない。無為な争いは避けるべきだ。
    「それに、私が探し物をしている間、きみは逃げることも襲い掛かることもしなかった。気持ちのいい人だ。うん、やっぱりやろう。今からやろう!あぁ、楽しくて胸が張り裂けそうだ。外は物騒な人がまだまだ残っていると聞いたけれど、きみと出会えたならあれぐらいの困難は馬の糞だ」
    「…あなたは…見た目に寄らず粗野だ」
     白衣の少年は、真っ白な剣を取ると軽やかな剣舞の一節舞い、再び私に剣先を向けた。先ほどとはちがい、闘気がみなぎっているのに小さな子どもみたいに浮かれている。楽しい、というのは本当なのだろう。
    「きみは見た目通り冷静だ」
     私がほんの一瞬でも全力で無意味に駆け回ったのはいったいいつぶりだろう。
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