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    mono_gmg

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    mono_gmg

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    プレゼントを手渡してくれた時の、花が咲いたような笑顔が瞼の裏に残っている。
     今から少し前の事。マンドリカルドは一人の幼い姿をしたサーヴァントであるアビゲイルから贈り物を頂いた。元はと言えば自分が彼女に心配させるような表情(何かあった訳ではなく残念ながらデフォルトである)をしていて、その時交わしたやり取りからアビゲイルはマンドリカルドがクリスマスにプレゼントを貰えていなかったと知り(そもそもクリスマスは陽キャと子供たちの為の行事だと思っていた)、今からでも用意して元気づけたいと立ち上がったようだった。しかもプレゼントの中身を調達するのに微小特異点にまで赴いたらしく、こんな自分の為に非常に申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
     けれど丁寧に包装された贈り物を受け取った自分以上に、渡した少女の方が嬉しそうに笑みを浮かべていて。礼をしてからそのまま談笑へ転がりほのぼのとしている最中に(要らぬ気掛かりを抱かせないよう慎重に勇気を出して)聞いてみた。何故そんなにも嬉しそうなのか、と。すると真ん丸な眼をぱちぱちと瞬かせてからふふ、と笑って当たり前のように彼女は言ったのだ。受け取って下さった貴方が嬉しそうなのだから、わたしも嬉しいに決まっているわ。

     部屋に戻ってベッドに横たわり、天井を見上げながら思考の海に沈む。プレゼントを贈った側が嬉しくなる事もあるのか。ごろりと寝返りをうつとテーブルの上に置かれた件のプレゼントが目に入った。マンドリカルドを元気づける為にわざわざ用意してくれた贈り物。可愛らしい包装紙に包まれ、少しだけ曲がったリボンが不思議と愛らしく感じる。受け取った方としては当然嬉しかった。それは少女から自分に向けられた真心と言っても良いのかもしれない。
    (……となるとクリスマスっていうのは……真心を贈り合うイベントってことなのか……?)
     現代ではどこぞの神の誕生を祝う日とされていたが、いつしか宴を開く為の言い訳になっていったらしい。仲間や恋人が集って賑やかに騒ぐいかにも陽キャ向けの現象で自分には関係ないとすっかり頭の中から忘却していた。カルデアに来てからは北欧辺りの老人(サンタという男性らしいが何故かカルデアには女性が多い)が子供たちに贈り物をする行事でもあると聞いて、まぁ頭の片隅くらいには留めておこうと思ったぐらいである。
    (クリスマスかぁ……)
     自分の中でぼんやりとしていたその文字が、実際にプレゼントを受け取り、贈り物をした側の気持ちを聞いて、大きくなっていた。俺には関係ないな、と思っていた存在がすっかり形を変えている。具体的に言うとちょっとだけ羨ましい。
    (……もし。もし、俺がプレゼントを渡せるとしたら……、……たぶんマスターにだろうなぁ……)
     カルデアでは驚く事に色んなサーヴァントと関われていて、話せる人は割りと多いけれど。クリスマスという行事がとっくに過ぎてしまった今の時期に気負わず贈り物が出来るとしたら、たぶんマスターだけであろう(アビゲイルにお礼として贈る案もあるが彼女には別の形で返したいと思う)。しかし自分の力だけで調達するには限度があるし、その為に周りを頼るのは少々気恥ずかしい。やはり自分にはプレゼントなんて気の利いた真似は不可能なのだろうか。所詮シミュレーターにこもってトレーニングに励む事しか出来ないようなぼっちでは。
    「……あ、」
     脳内で電球が子気味のいい音をたてながら突然光る。周りを頼らずとも、自分の力だけで調達出来る贈り物に心当たりがあった。しかも実用的なので渡されて困る事は無いはずの品。勢いよくベッドから降りいつもの木刀を持って部屋を出る。目指すはお馴染みのシミュレータールームだった。

    「マスター、マンドリカルドなんすけど……今大丈夫っすかね?」
    「大丈夫だよ、どうぞ~!」
     シミュレータールームで目的の物を確保してきたマンドリカルドは、件の品を後ろ手に隠しながらマスターである立香の部屋を訪れる。許可を貰い扉が開くと、作業用のテーブルにタブレットと書類を広げていた青い瞳と目が合った。難しそうな紙の束と睨めっこをしていたらしい彼は消灯前にも関わらずいつもの礼装のままのようで。これは訪問するタイミングを間違えてしまったかもしれない、とマンドリカルドが内心反省会を開こうとしていると。
    「作業中に見えるけど休憩中でもあるから気にしないでね。それで、どうしたの?」
    「マジでマスター読心術持ってません……? ……まぁ、先手打たれたんでありがたく話しますけど」
     長年マスターとして務めを果たしてきた青年の洞察力とコミュニケーション能力に改めて感服しつつ、後ろ手の袋を恐る恐る目の前へと差し出す。
    「……今更になっちまって申し訳ないんすけど……これ、クリスマスプレゼント、ってことで……」
     流されるように袋を受け取った彼はきょとん、と不思議そうに眼を瞬かせる。開けていいのかと問われたので緊張を誤魔化すように首を何度も縦に振った。
    「……わ、秘石に頁に……心臓……!?」
    「……もっと気の利いた物が用意出来たら良かったんすけど、何度もエミヤさんに頼る訳にはいかねえし……クリスマスの時もトレーニングのついでに戦利品収めてたんで、けっこう力になれたんじゃ、ないかなー、と……」
     段々と自信が無くなってきたのか言葉尻はどんどんと弱くなっていく。本来は自身が望んだプレゼントを受け取って喜ぶ立場であるマスターに実用的過ぎる品を贈るのは夢が無さすぎるのでは、と思い始めていた。そんなマンドリカルドの心配とは裏腹に、贈られた立香は何故か笑いを堪えているようだった。
    「っふふ……もしかして、実用的過ぎて夢無いんじゃ……とか思ってない?」
    「当たり過ぎて怖いんすけど!?」
    「だって顔分かりやすいからさ~。……実用的なものでもすごい助かるし、贈られること自体が何よりも嬉しいんだって、マンドリカルドはもう知ってるんじゃない?」
     アビーからプレゼント貰ったんでしょ。年相応の笑みを浮かべるマスターは千里眼も無いのに全てを見通していた。少女が元気づけたいと自分の為を思い、時間と労力を費やして用意してくれた贈り物。自分なんかに申し訳ない、と抱いていた思いも受け取る頃にはすっかり変わっていた。ありのままに嬉しいという気持ちを伝えられて良かったと思う。
    「ありがとう、マンドリカルド。来年こそはオレもクリスマスプレゼント用意するからね!」
    「……うっす。楽しみにしてますね」
     ーー受け取って下さった貴方が嬉しそうなのだから、わたしも嬉しいに決まっているわ。記憶に残るその言葉を心の中でなぞってから噛み締める。目の前の花のような笑顔に似たものが、自分の表情にも咲いていますように。
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    Replies from the creator

    mono_gmg

    DONE大学生ぐだ×バーの店員マンドリカルドな現代パロディ。まだ続く予定
    色々ふわふわしてますがご容赦ください


     一般的な夕食の時間は過ぎ去り、夜の都内が賑わいを見せ始めた頃。中心地から少し外れ、とある物静かな人気の無い通りを一人の若者が歩いていた。その足取りは酒に呑まれた者特有の不安定さは見られなかったが、どことなくふらふらとしていて覚束無い。俯きがちなその背中には彼だけが知っている寂しさが漂っている。
     青年は少し前までは大切な人と親密な時間を過ごしていたけれど、その大切な人と歩む道は今や違えてしまった。互い以上に想いを寄せる恋人が出来た訳ではなく、双方の間にある恋心が冷めた訳でもない。二人の関係に幕を下ろしたのは彼女が静かに呟いた別れよう、の五文字。相手を試すような冗談を告げるような人ではなかった。慌てて表情を窺えば眉を八の字にしながらもしっかりとこちらを見据えていて、長い時間を共にしてきた人の決意を覚ってしまった。切り出されてからたっぷり間を置いてゆっくりと頷く。未練は無い、と言えば嘘になるけれど。提案も憂いも拭い去って彼女を説得出来る自分の姿が思い描けなかったのだ。関係性が一つ消えても大事な友人であることは変わらないから、彼女にほんの少しの罪悪感も残したくなくてなるべく穏やかに笑 8950