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    mono_gmg

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    mono_gmg

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    「……あの、マスター。無理しなくて、大丈夫っすよ?」
     宥められるような言葉と共に困惑に満ちた眼差しを真正面から受けても、素直に頷くことは出来なかった。声の主でもある彼が一糸纏わぬ姿でシーツの海の中にいる。羞恥心と戦いながら無防備な現状に居心地の悪さを覚えながらも、逃げることなく自分と向き合ってくれているのに。我儘を通した己の方が逃げ出すなんて許せないのだ。数日前から時間や次の日のスケジュールを考慮した上で、ようやく当日の夜ーー初めて恋人を抱く時間を迎えたのに。
    「無理、なんてしてない、ぜんぜん」
    「……えっと、手震えてません?」
    「これは……、武者震いだから」
    「戦いに行くんすかあんた……」
     苦し紛れの答えに対して少々呆れたような物言いは、普段であれば慎重になりがちな恋人の気安さを感じて胸の内に喜びが積もるけれど。現状においては図星を突き刺してくる鋭利な刃物のようだ。
     両想いに至れて、欲を交えた問答の果てにシよう、という約束をした日から勉強と脳内シミュレーションを何度も繰り返してきた。負担のかかる受け身をお願いするのだから辛い思いはさせたくない。リードする立場として不安要素や心配事は極力削り落とし、万全の状態で挑んでいる筈なのに。
    (……傷付けたらどうしよう)
     自分なりに重ねてきた努力を嘲笑うように、気弱な気持ちが顔を出してしまう。これでは冒頭のように心配されても仕方が無いし、思考がマイナスに偏りがちな恋人に要らぬ勘違いをさせるだろう。
    「ホントに、無茶しなくていいって。一旦落ち着きましょ」
    「無茶じゃない。……本当に、君のこと抱きたいんだよ……」
    「……あー、それは分かってるけど……」
     想定していなかった返答に思わず間の抜けた音がこぼれた。さらにその反応に瞼を瞬かせる恋人が暫くしてあぁ、と納得したように口を開く。
    「俺、勘違いさせてるなこれ……えっと、無理するなって言ってるのは、焦るなって意味で。……もし、俺がマスターを抱く立場だったらもっと挙動不審だし、落ち着き無いと思うんすよ。それはマスターが大切で、万一にでも傷付けたくないから。……緊張するなんて、当たり前じゃねえっすか。好きな奴に触るんだからな」
     そう言いながらシーツを握っていたオレの手を騎士の逞しい掌で掬い上げる。
    「だからゆっくりで良いんすよ。まぁ、サーヴァントなんでそこそこ頑丈だし、あんたのすることで傷付かねえとは思いますけど。……立香が大切にしたいって言うなら、ちゃんと付き合うんで」
     なんて、自惚れ過ぎですかね。苦笑いしながら呟いたであろう言葉がこぼれ落ちる前に目の前の体躯を思い切り抱き締めた。
    「!? ま、マスター?」
    「……今、すごい嬉しい。どうしよう、嬉しすぎて泣きそう……好き……」
     いつだったか、バレンタインのチョコレートを渡そうとした時にリストラだと思い込んだ彼と一悶着あった出来事を思い出す。自分に自信が無い気持ちはよく分かるし、リストラなんてしないからと何度も念押ししたので後々掘り返すような真似はしなかったけれど。ーーやっぱり、少しだけ、悲しい気持ちは過ぎったのだと思う。
     あれから少しずつ絆を重ね、戦いの場でも日常でも、踏み込んだプライベートでも隣にいてくれる存在になって。いつしか彼を愛する自分ごと大切にしてくれるようになった。その気持ちを嬉しいと言わずになんと言えば良いのだろう。
    「……ん。俺も、好きです」
     ゆっくりと背に回された腕に頬はすっかり緩み切っていた。直接触れ合う素肌は隠された熱をじわじわと伝えてくれる。目の前にある赤みを帯びた肌色にふと引き寄せられ、皮膚の薄い首筋を噛むと微かに甘い声がこぼれた。
    「マンドリカルド。……抱いても、いい?」
     揺れる鈍色をじっと見つめながら問いかけてみれば、少し間を空けてから大切にしてくれ、と小さな笑い声が鼓膜をくすぐった。
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    mono_gmg

    DONE大学生ぐだ×バーの店員マンドリカルドな現代パロディ。まだ続く予定
    色々ふわふわしてますがご容赦ください


     一般的な夕食の時間は過ぎ去り、夜の都内が賑わいを見せ始めた頃。中心地から少し外れ、とある物静かな人気の無い通りを一人の若者が歩いていた。その足取りは酒に呑まれた者特有の不安定さは見られなかったが、どことなくふらふらとしていて覚束無い。俯きがちなその背中には彼だけが知っている寂しさが漂っている。
     青年は少し前までは大切な人と親密な時間を過ごしていたけれど、その大切な人と歩む道は今や違えてしまった。互い以上に想いを寄せる恋人が出来た訳ではなく、双方の間にある恋心が冷めた訳でもない。二人の関係に幕を下ろしたのは彼女が静かに呟いた別れよう、の五文字。相手を試すような冗談を告げるような人ではなかった。慌てて表情を窺えば眉を八の字にしながらもしっかりとこちらを見据えていて、長い時間を共にしてきた人の決意を覚ってしまった。切り出されてからたっぷり間を置いてゆっくりと頷く。未練は無い、と言えば嘘になるけれど。提案も憂いも拭い去って彼女を説得出来る自分の姿が思い描けなかったのだ。関係性が一つ消えても大事な友人であることは変わらないから、彼女にほんの少しの罪悪感も残したくなくてなるべく穏やかに笑 8950