冬の待ち合わせする現パロ土斎『悪い、遅れる』
長引きそうになった仕事の合間にそのメッセージを送ったのは三十分ほど前のこと。既読は即座について、一拍の後『了解』と犬のスタンプが送られてきた。
そして今、改札から吐き出される雑踏に揉まれながら、土方は久しぶりに会う恋人へとコールする。
三コールも待たずに『はいはーい』とのんきな返事が返ってきた。
「今駅に着いたが、お前どこに……」
そこまで言いかけて、途切れる。
いつも待ち合わせの目印に使っているカラクリ時計の横に、目的の人物がいたからだ。黒いダウンを着たその男は土方を認めるとにこやかに片手を上げる。その手にはテイクアウトのコーヒー。
『土方さん、こっちこっち』
姿は見えるのに、声だけが携帯越しに聞こえてくるのが奇妙だった。土方は足早にそちらへと向かう。
「遅くなって悪かったな。待ったか?」
てっきりどこかで暖を取っているものと思っていたが、律儀に外で待っていたらしい。しかし、年下の恋人――斎藤はひょこんと肩をすくめて見せた。
「いえいえ、僕も今来たとこなんで」
なんてのが大嘘であることはバレバレである。吐く息は白く、しかし手に持った紙コップの飲み口からは湯気が出ていない。
「嘘をつけ」
土方は自分のマフラーを解くと、斎藤の首に巻き付けた。赤い鼻先を掠めた指が冷たさを感じ、スマホをポケットに突っ込もうとする手を掴んでやればひんやりと冷え切っていた。
「いったいいつからいたんだ。店の中で待ってろよ」
風邪をひきたいのかと思わず嗜める土方に、斎藤は気恥ずかしそうにはにかむ。
「ここなら駅から出てくる土方さんをすぐ見つけられるじゃないですか」
瞬間、強く抱き締めてやりたい衝動に駆られた。けれど往来であったことを思い出して、触れたままの手を握るだけにとどめる。
「あ、ちょっと、人が……」
「誰も見てやしねえよ」
今更人目を気にしようが、周囲の誰も彼もが自分の都合で頭がいっぱいだろう。男二人が手を繋いでる様なんて誰が気に留めると言うのか。
土方は冷えた手をコートのポケットへ招き入れ、足をもたつかせる斎藤を引きずるように歩き始めた。
「おら、とっとと行くぞ。ただでさえ遅れてんだ」
「そりゃあんたのせいですけどね」
「うるせぇ、これでもお前に会いたくて死ぬ気で終わらせたんだ」
背後で「おごぁ……」と、言葉にならない呻きをあげる斎藤に、いい気味だと土方は鼻で笑った。