クリスマスの翌日イベント事にはいつも人一倍浮かれる晋作が、珍しく気乗りしていないどころか、むしろ気力さえなさそうに見えるので、否が応でも気になってしまう。
「どうしたんですか?」と声を掛ければ、これまた珍しく「何がです?」なんて、解っているだろうにはぐらかす。胡座をかいてカチャカチャと工具を弄ったかと思えば、服の裾の折れ目を手で伸ばしたり、かと思えば積まれた本をぺらぺらと捲ったり。まるで幼い子が拗ねているような。
「君にしては珍しいですね。イベントには目がないでしょう。クリスマスなんて、恰好のそれじゃないですか」
「……興味ないですね」
それもまぁ昨日までの行事の話だったのだけれど、ここ数日晋は本当に珍しく部屋に篭って浮かない顔をして、何かをずっとしていた。
「晋作」
「……なんでもないですよ、本当に。本当に興味が湧かなかっただけなんですってば」
口で言っても埒が明かないのなら、目で訊けばいい。じっと見詰めていると、晋はまた手遊びに服の裾を弄ったり、髪のひと房を指で撫ぜたり。そうして視線はあちらこちらへと飛ぶ。
じっと。そうしている内に、あーだとか、うーんだとか、唸った彼はばたんと勢いよく床に転がった。
「あー、もー、いいじゃないですか別に!」
「僕は何も言ってませんよ」
「言ってないですけど!あーーー、うぅ…」
近くに腰を下ろせば、そっとシャツの袖先を摘まれる。
「……何もないじゃないですか、だって」
なにが、と訊くより先に、晋はごろんと寝転び、背をこちらに向けた。本当に拗ねているようだ。
「特別何かが欲しいとかはないですよ。いやでも欲を言えば、まぁ部屋に飾る松花が欲しいとか、部屋がもう1つ欲しいとか、もっと面白可笑しい場所に行ってみたいだとか、そういうのはありますけど。、」
そこまで言われて理解した。本当に子どものようだと笑えば、彼は拗ねてもっと面倒を起こすだろうことも。
「でももう子どもじゃないですし」
そんなことはない、とも言えず。
「……そもそも、良い子でもないですし」
「っ、げほっ」
思わず笑ってしまいそうになった。成程、そちらが本音か。確かに嵐のような風ばかり起こしては、周囲を大いに巻き込む。
この一年間良い子にしていたらサンタクロースからプレゼントが貰える、という話に、それでぶすくれていたのか。
くしゃりと髪を撫でると、尖らせた唇で晋がこちらを振り向く。
「……子どもだって笑っているでしょう」
「子どもだったらプレゼントが貰えるようですし、いいじゃないですか」
「意地悪言わないでください」
ぷいっとまた拗ねて背を向けられた。
「ほら、晋作。八つ時です。食べないなら君の分も食べますよ」
「食べますけど!」
行儀悪く床を這って、盆に乗せられた大福をぱくりと齧る。はしたないと臀を叩くも我関せず、そのままぱくぱくと口しか動かない。
「……仕方ありませんね。限度はありますが、出来うることなら聞いてやりましょう」
「先生が?」
ぱくん。先程から口は忙しなく動いていたはずなのに、晋作の齧った面積は僕のよりも少ない。損をしたような気分に気が萎れる。
「それなら!」
対照的に晋作の顔はぱっと明るくなる。見ている分には、拗ねられている時より幾分もそちらが良い。
「現代の恋人達は、クリスマスに淫蕩な夜を過ごすそうです。僕達も、それに倣ってみるのはどうですか?」
頭が痛い。
気を紛らわせる為に残りの大福を口に放り込む。
「アレとかコレとかソレとか、色々試してみたいことがあるんです。そのために前から色々用意してましたし。ほら♡ね?」
晋作が自身の服の胸元を指先で引っ掛け、ぐいっと内側を見せてくる。途端に目眩が襲いかかってくる。
「せんせ、聞いてくれるんですよね?傷心な可愛い教え子のために」
拗ねられるよりはマシ。でも、だが、ぐしゃぐしゃと頭を搔くと、晋作がくすくす笑う。
「……クリスマスは昨日までですよ」
逃げるように席を立つ。が、当然追い掛けてくる。
「狡い!なんでも聞くって言ったのにー!」
「なんでもとは言ってない!」