呼延灼はマスターによしよしされたい 呼延灼はカルデアに召喚されてからもエンプーサとの複合霊基のため情緒不安定かつ自己肯定感の問題をかかえる承認欲求モンスターであった。
自信がないけど褒められたい。ちやほやされたい。
自分だってちゃんと出来るはず。
マスターにいいところを見せてめちゃくちゃに褒められたい。
呼延灼にとって一番の行動原理はマスターからの称賛であった。マスターの優しい表情、声音、撫でてくれる手の温かさ。どれも呼延灼の心を癒し奮い立たせる素晴らしい魅力があった。
この手で撫でてもらえるなら何でもできる。そう、どんなことでもできる。
暗殺だって闇討ちだって出来るし、大軍を指揮するのも(向いてはいないけど)頑張るもん!
マスターの褒め力は他の人たちと違い、誠がある。
嘘をついて褒めることはない。呼延灼が頑張っていることもいいところもちゃんと本人が感じたことを褒めてくれる。だから、マスターに褒められなくなったら呼延灼はカルデアにいる動機がない。
そう、呼延灼はマスターによしよしされるために生きているといっても過言ではない。
承認欲求モンスターは特定の対象への執着を増して、既に百合百合ストーカーに近いヤンデレを発症していたのである。
その日、呼延灼はマスターの部屋に行こうとノウム・カルデアを歩いていた。
マスターは呼延灼が押しかけても嫌な顔をすることもなく、気遣いの言葉と普段の感謝を述べてくれる。時々褒めてくれるので自己肯定感爆上がりである。
なので、いっぱい褒めてもらうためにもマスターの近くに居なきゃと思ってしまうのも無理からぬことであった。
「やぁやぁ、どうしたんだい。呼延灼。楽しそうにして」
カルデアで最も胡散臭い男の一角、マーリンに呼び止められた。呼延灼にしてみれば古参かつ同族のマーリンはちょっとだけ憧れである。精神安定してそうだし。花のある儚げな美形の上に声も甘く穏やかでいい。この男と同種の夢魔というだけでちょっと自己肯定感上がりそうである。
「そういえば、マスターの伽には呼ばれたのかい?」
親切そうに告げられた言葉に呼延灼は驚愕した。あの人畜無害そうな優しいマスターが夜伽を命じるようには見えなかった。
「ああ、でも君はまだ新入りだから気を遣っているのかもしれないね」
「私も呼ばれれば答える準備はあります!」
「呼延灼、無理しなくていいよ。マスターは女性の身だが、どんなサーヴァントの愛にも応えてくれる方だ。君が応じなかったところで減点するような方ではないとも!」
鷹揚に笑うマーリンは爆弾だけ投下すると食堂へ消えた。
残された呼延灼はマスターがサーヴァントを夜伽に呼ぶ、呼延灼は呼ばれていない! という誤解だけぐるぐると頭の中に回っていた。
マーリンの嘘八百を信じ込んでしまうのが複合霊基の幻霊サーヴァント故か、彼女の内側にあるエンプーサの部分故か。思い込みが強い上に執着がすごい。
「この呼延灼、証明してみせましょう。閨でも有能であると!!」
呼延灼のぽんこつ攻めに藤丸立香の包容力受けの夜が始まろうとしていた……!!