綱、茨木とバカンスを過ごすこと　①北極に突如現れた常夏の楽園、様々な水着霊基のサーヴァント達が思い思いのリゾートを作る中、源氏の棟梁である頼光が生み出したのはハワイアンリゾートGENJIであった。
最初はストイック極まる修行場になるはずであったが、清少納言の優れた機転によりプールを中心としたリゾート施設として生まれ変わった。
やや労働環境をブラックにしがちな頼光を清少納言がドッジボール大会でリフレッシュさせた。
綱は清少納言に言われてドッジボールなる毬遊びに興じただけである。棟梁は思いのほか堪能したようで普段は自分を律して凛としているが、遊びに興じ体を動かせば童女の如きあどけない様子であった。常に気を張っているから気を休めたり散らしたりする方法を知らぬ不器用を愛おしくも思う。
　その姿を見ると不意に浮かぶのは茨木の姿であった。常に鬼であれと自分を律し真面目に鬼であろうとする彼女を連想した。綱の周囲はどうも不器用な人間ばかりだと思う。綱自身も含めてだが。
「綱、今日一日くらいは仕事を離れてもよいのですよ」
自分はあまり休まぬ癖に棟梁はそのようなことを言う。これではあのような仮面を被った意味があったのやらと嘆息が漏れた。
「頼光様」
「これは命令です。今日一日は仕事を忘れて遊ぶこと、いいですね。命じましたからね」
「御意」
押し切られる形で渡されたのはハワイアンGENJIのスイートルームのカギだった。
「明日の正午まで、しっかり遊んでくるのですよ」
「承知した」
しっかり遊ぶとは何をすればいいのか、とんと見当がつかないままに命令を拝領したのであった。普段なら命令の意図や意味を問うだろうが、遊べということであれば眠るなりプールで浮かぶなりすればいいのだろうと考えていた。

綱はスイートルームに行ってみたが、室内露天風呂、やたらと面積の広い豪華な寝台、ソファとテーブルといった調度から空間の使い方まで贅を尽くしたものだということはわかる。試しに横たわればベッドは体が緩やかに沈みこみ寝心地が良さそうであった。恐らく人体の構造や骨格に合わせて体圧を分散する仕組みなのだろう。畳にそのまま眠ることも苦にならない綱には理解のできない境地である。
室内露天風呂は総檜の広い浴槽でありガラス張りで空が見える。スイートルームだからか露天風呂の広さはカルデアの自室よりもはるかに広かった。湯浴みをするのにこれほどの面積が必要とは思えないが、狭いよりは広いに越したことはない。なにより、上司からの厚意を無碍にするなど考えられようはずもない。

しかし、まだ昼である。風呂にも部屋で眠るのにも早い。とすれば、館内を満喫する方が望ましいだろう。もしかしたら、明日、仕事に戻ったら施設を利用した感想や改善案を求められる可能性もある。少しでも有意義な休日にする必要があるように思った。

宿泊施設からプールへ移動する。
ウォータースライダーはここ数日、清少納言の企みにより時折操業を停止していたが、水しぶきの音が定期的にするところを聞くに順調に稼働しているらしい。