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    color_alto_rs3

    @color_alto_rs3

    作者:アルト
    サークル名:アルト茶房
    トムサラ中心の小説置き場。
    主にTwitterに投下した長文のまとめを置いてます。

    その他の作品はpixivにて
    https://www.pixiv.net/users/2041510
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    今日は仕事で出張していたトーマスが帰って来る日。
    嬉しいはずなのに、サラはモヤモヤしていることがあって…
    待つ音楽と待たせる男、寂しがり屋のお話。

    ※恋人同士の設定
    ※文章の変化はないですが見栄えの問題で、Twitterで投稿したページメーカーと一部変えてる部分があります。
    投稿日:2022.10.06

    ##トムサラ

    嘘つきとカップケーキ 偶然も重なると必然になると、その昔、誰かが言っていたけれど――

     居候してるピドナのベント家の食堂にて、サラは腕を組んで考え事をしていた。今日はトーマスが仕事の長旅から帰ってくる日。
     いつもなら楽しみに待っているのだが……
     (初めはクッキーと飴、次はマドレーヌで、その次はチョコレート…)
     美味しそうなお菓子を次々と思い浮かべては、はぁ……と深くため息をつく。
    「また今日も買ってくるのかしら?」
     彼は仕事でピドナ不在が長く続くと、必ずサラにお土産を買ってくる。最初は旅先で買ったものが主だったが、最近はピドナの有名菓子屋のお土産が多くなった。しかもそれらはいつも<偶然>店を通りかかったから、という理由である。
    「お土産は嬉しいけれど、寄り道しないで帰ってきてくれるほうが嬉しいのにな…」
     ピドナの生活に不満はない。ただ彼女は好きな人に早く会えないのが寂しかったのだ。そんな物思いに耽っている時に、ボーン…と時計が時刻を知らせた音にサラはハッと気づいた。
    「この時間なら、もう午後の船便が到着してるはず…」
     ……もしかしたら、街でトムに会えるかも?
     そう思い立った彼女は、居ても立っても居られず、外へと飛び出して行った。

     サラは街を抜けてまずはピドナの港へと向かう。相変わらず人や荷物で混んではいたが、トーマスらしき人は見かけなかった。今度はメインストリートまで戻り、菓子屋が居並ぶ商店街まで出向くと……
     (……見つけた!)
     オレンジのマントに茶色い髪、後ろ髪がちょろっとした尻尾のように垂れたその後ろ姿、見間違いようがないトーマスだった。
     (今日はどこの店に行くのかしら?)
     サラはこっそりと彼の後をつけることにした。商店街は賑わいを見せてはいたが混雑という程でもなく、トーマスと距離があってもサラは彼を見失うことはなかった。
     (でもなんで、毎回甘いものなんだろう…?)
     トーマスは好んで甘いものを食べる人ではなく、どちらかと言えば酒やコーヒーに合う食べ物が好きな人である。そんな疑問を浮かべて尾行していると、ターゲットがある店に入った。
    「あれは……ケーキ屋さん?」
     サラはケーキ屋と反対側にあった酒屋の大きな樽の影に隠れて、動向を見守る。何かを選んでいるようだったが、彼女の見てる位置から詳しい様子はわからなかった。さして時間もかからずに彼が店から出てきた時は、手には<お土産>だと思われるものが入った白い小さな箱を持っていた。
     (トム、少し嬉しそう……?)
     店に入る前と比べて、少し口元が緩んでいるようにも見えた。トーマスが店から離れ背中が小さくなるまで見送った彼女は、やっと物陰から出てきてケーキ屋のショーウィンドウを見る。ポップでカラフルなデコレーションがされたカップケーキが目に入り、サラはハッと気づいた。
    「この店、前に雑誌で紹介されてた…かわいいカップケーキで若い子に評判の店だわ!」
     店名を看板で確認して、サラは確信した。
     彼は、<偶然>でなく前もって入る店を決めていることを――

    *** 
     (どうして、トムは嘘をついてたんだろう?)
     サラはぐるぐると複雑な気持ちを抱えてベント家に戻ると、先にトーマスが帰ってきていた。
    「おかえり、サラ。出かけてたんだな」
    「ちょっとお使いを頼まれてたの。トムもお帰りなさい」
     尾行してたと言えるわけもなく、彼女は笑って嘘をつく。慣れない嘘に胸の奥が少し痛んだ。
    「うん、ただいま。そうだ、お土産を買ってきたんだが、夕飯後に一緒にお茶はどうかな?」
    「ほんと? 楽しみにしてるわ!」
     サラのぎこちない笑顔にトーマスは気づかず、荷物整理と着替えがあるからと言って、彼は部屋に戻っていった。

    ――そして夕食後……サラは茶器を持ってトーマスの部屋の前に立ち、深くため息をつく。
     (どんな気持ちでトムとお茶をすればいいの?)
     勝手に尾行したこと、お土産の中身を知ってる後ろめたさに、彼女は気が重く感じた。
     (こんなことなら、後を追うんじゃなかったわ)
     しかしこのまま部屋の前で突っ立ってるわけにもいかず、サラは勇気を出して彼の部屋のドアをノックして中に入った。
    「やぁ、サラ。待っていたよ、そっちのテーブルで食べよう」
     それまで仕事をしていたトーマスは、来客用のソファーとローテーブルを指さす。指し示されたテーブルの上には、お土産だと思われる箱がすでに置いてあった。サラはつばをゴクリと飲んでから、緊張した面持ちで茶器を並べる。二人分のお茶を淹れて、彼女はトーマスと対面のソファーに座った。
    「どうぞ、開けてごらん」
     彼に促されて白い小さな箱を開けると、手のひらサイズのカップケーキが二つ入っていた。ケーキの上には、薄いピンク色のクリームが絞られており、その上にはラズベリーとミントの葉っぱが乗っていた。
    「前にさ、サラがこのお菓子を気になるって言ってたな〜って、店の前で<偶然>思い出してな」
     <偶然>という単語にサラはピクリと肩をすくめる。彼女はケーキを手に取らずソファーに座り直し、膝の上に手を置いた。
    「……サラ?」
     いつもと違う彼女の様子にトーマスは首を傾げると、サラは両手をぎゅっと強く握る。
    「あのね、実はトムに言わなきゃいけないことがあって…私、見ちゃったの」
    「見たって、何を?」
    「トムがこのお土産をお店で買っているところよ」
     サラは頭を深く下げて謝る。
    「……ごめんなさい。トムが帰港後にどこに行くのか気になって、後をつけてました」
     相手がどんな表情をしているか怖くて見られず、彼女は下を向いたままだった。彼女の話にトーマスは、最初は目を丸くして聞いていたが、最後には優しく口元を緩ませた。
    「サラ、とりあえず顔をあげて」
     相手に促されて、サラはやっと顔をあげた。
    「どうやら俺は、余計な心配をサラにさせたようだね」
    「そ、そういうつもりじゃ…」
    「いいんだ。長い間不在にしてサラに寂しい思いをさせたのは、本当のことだしさ」
     彼は箱からカップケーキを取り出し皿に乗せ、彼女にどうぞと言って差し出す。ケーキを受け取ったサラは、膝の上にそれを置いた。トーマスは箱に残ったもう一つのケーキを皿に移して、話を続ける。
    「それで? 俺はどんな様子だった?」
    「え⁉ えっと……<偶然>というよりは…目的がはっきりしてるように見えたわ」
     思い返すと、ショーウィンドウを確認するまでもなく彼は店に入ったようにサラは見えていた。彼女が躊躇いがちに話すと、トーマスは口の端をあげて小さく笑う。
    「はは、そうだよな。たまたま通りかかったようには見えなかったよな」
    「……怒らないの?」
    「怒れないよ。サラに嘘をついていたのは、本当なんだし…」
    「でも、どうしてそんな嘘を?」
     彼女の疑問に対してトーマスは、答える前に少しだけ照れを見せた。
    「あー…それは……サラと一緒にお茶を飲みたくて、だな…」
     相手がどう答えるか身構えていたが、想像したものと違って、サラは拍子抜けをした。
    「一緒に飲みたいって、いつもそうしてるじゃないの…」
    「確かにそうなんだが…出張で気が抜けない日が続くと、ふと思い出してな…」
     彼にしては珍しく言葉の最後は小さくなり、サラから視線をそらす。
    「それってつまり…寂しかったってこと?」
    「……カッコ悪いが、そういうことになるな」
     己の気持ちを認めたトーマスはサラの方を向いて、小さくため息をついた。
    「そんなことはないと思うけど…」
    「カッコ悪いよ。好きで今の生活をしているのに、これじゃあ仕事も、サラに対しても誠実じゃない」
     責任を感じる重たい言葉に、サラは押し黙る。
    「悪い。堅苦しい話をしたかったわけじゃないんだ……これ、食べような」
     話題を切り上げたトーマスは、カップケーキに手を付ける。だがサラは、彼に促されてもフォークに触らず考え込み――ポツリと言葉をもらした。
    「たまには、いいんじゃないかな……」
    「ん? サラ?」
     トーマスはサラの言葉が気になって、ケーキを口に入れる前にフォークを皿に置き、彼女を見た。
    「トムの言ったことを否定するわけじゃないの。ただ、その時の気持ちを認めても…いいと思うの」
     慌てふためいたサラは自分の考えを述べるも、最後は自信なさそうに声が小さくなった。
    「ごめんなさい、余計なことを言いました…これ、食べちゃいますね」
     いたたまれなくなった彼女は早く部屋から出ようと、手早くカップケーキを切り分ける。本当は味を堪能したかったが、その余裕はなかった。最後の一口を手に掛けようとしたところで、トーマスが口を開き、彼女は手を止めた。
    「優しいな、サラは。俺に怒ったりしないんだな」
    「怒るなんて、できないわ。だってトムが真面目で頑張り屋なのは、よく知ってるし。それに……」
    「それに?」
    「トムも寂しいんだとわかって、ちょっと嬉しいというか……」
     サッと頬を赤く染めたサラは、口を尖らせ視線をそらす。寂しい思いをするのは待つ方だけだと彼女は思っていたのだ。
     トーマスはサラの言葉に思わず頬が緩み、とうとう堪えきれず手で口を隠して笑い出した。
    「なによー…笑うほどでもないじゃない…」
    「そうだけど、サラがあまりにも素直だから…」
     もう! とサラは頬を膨らませるも、彼につられて笑いだし、最後の一口を美味しそうに頬張ったのでした。

    「ごちそうさまでした」
     ケーキを食べ終えて紅茶を楽しんだ二人だが、まだまだお喋りは止まらない。
    「ねぇ、トム。今度ピドナに帰って来る時は、港で待っていてもいい?」
    「いいけど…どうしてだい?」
    「だってほら、そうしたら私はトムに早く会えるし、トムはもうお菓子を買うのに嘘をつかなくても良くなるでしょ?」
     今度は一緒にお菓子を買いに行こうという彼女の提案に、トーマスはフッと微笑み、いいよと快く頷いたのでした。
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