白萩の君へ「白萩の君へ」
流れる黒髪。父上の羽織の陰からじっと、こちらを見つめていた金と碧の瞳。
俺は、あの瞬間――初めての恋に落ちた。
嫋やかな風情は、秋風に揺れる尾花のよう。艶やかな髪に見え隠れする白い頬は、叢雲にそっと身を隠すお月様のようだった。
その子の名は、伊黒小芭内。
「小芭内ーッ!おめでとう!起きているか!?君の誕生日だ!!」
俺は大量の芋羊羹を携えて、小芭内宅の玄関を引き開けた。
九月半ば。朝は、少し冷えるようになった。朝つゆが玄関先の竜胆に輝いている。
「爽やかな朝だ!小芭内!」
勝手知ったる幼馴染の家。居間、書斎。最後にガラリと寝所の襖を開けると、布団の上に小芭内が身を起こしていた。まだ、目が覚めきらないのだろう。白い頬はなお白く、ぐったりと額に手を当てている。
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