痺れ紅と天華「痺れ紅と天華」
――いた、いた。私服でも変わらぬ縞羽織。
俺は、瓦屋根から一気に滑り降りて、伊黒の背後に着地した。
銀座の通りを行く紳士淑女たちが、目を丸くしてこちらを見る。ま、派手な登場ってのはこういうもんだ。
「よぅ、伊黒!派手を嫌うお前が、銀座デェトとはなぁ」
「…!宇髄、なんでここに…?」
伊黒が、びくりと振り返る。“デェト”の一語が効いたようだ。耳の端がほんのり赤らんでいる。
「聞いたぜ?甘露寺とお前の誕生日祝いデェト。女に誘われたなら、男は派手に応えてみせねぇと」
「そ、そんな特別なことは…いつも通り、だ…一緒に歩いて、おしゃべりして、甘味…でも…」
声が小さくなっていくのを、俺はわざと追い打ちをかける。一歩寄って、耳元で囁いた。
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