誕生日「きゃあぁ!」
「義姉さん」
甲高い悲鳴に扉を開けると、粉をかぶって真っ白になったカタリナがけほけほと咳き込む。
「大丈夫? 一体何をしていたの?」
「え? えと、あははは……」
布巾で顔を拭ってあげてから水を差し出すと、飲み干し一息ついたカタリナはギクリと身を強張らせて誤魔化すように笑う。
「まさか、おやつが足りなくて自分で作ろうなんて言うんじゃ……」
「違うわよ! これはキースの誕生日……うぐっ!」
疑惑を滲ませじとりと見つめれば、焦って口を滑らせたカタリナから飛び出した自分の名前に、キースはきょとんと瞬いた。
「僕の誕生日?」
「~~そうよ、明日はキースの誕生日でしょ? だから、ケーキを作ろうと思ったんだけど、アンが無理だって言うから、それならクッキーならって思って」
カタリナが粉まみれになっていた理由。
それが自分のためだと知って胸が熱くなる。
クラエス家に来てからずっと、カタリナはキースに優しさを沢山くれた。
いつも一緒にいてくれて、沢山の笑顔を向けてくれる。
それがどんなに幸せなことだったか、カタリナは知らないのだろう。
それなのにこうしてまた幸せを与えてくれるカタリナが愛しくて仕方なかった。
「義姉さん、クッキーを作ったことはあるの?」
「う。ない、けど何とかなるかな~って」
前世でさえ経験していないのに、無謀な試みをした結果が粉まみれの現状なのだが、笑って誤魔化すカタリナにキースが苦笑する。
「僕も手伝うよ」
「ダ、ダメよ。これはキースの……」
「義姉さん一人で作れるの?」
「う。た、たぶん?」
「二人ならきっと何とかなるよ。それにその姿、義母さんに見られたら怒られるよ。着替えておいでよ」
指摘に顔を青ざめさせたカタリナは、迷うも母の雷はやはり避けたいらしい。素直に頷いてくれた。
厨房から出ていったカタリナに、料理人に手伝いを頼み、片付けてもらいながら説明を受けて下準備をする。