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    nemunemune40

    刀さに/成人済/高校生不可/成人向け
    妄想と習作の格納庫

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    nemunemune40

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    みかさに。スケッチみたいなもの。神様の恋のはなし

    #刀さに
    swordBlade
    #みかさに
    overflowingWithLove

    月狂 明るい夜だ。
     月の弓弦はいよいよ張りつめて光を増し、初夏の涼やかな闇を青く照らし出している。審神者は窓辺の欄干にもたれて透き通る夜闇の世界を眺め、一方で恋刀である三日月宗近は室の奥にある寝台の上から恋人の背中を見つめていた。唐物の意匠を施した天蓋の中で、酒杯を載せた盆を傍らに置く姿は寝入り間際といった風情だ。しかし絶世の美貌は露ほどの眠気も宿さず、長く緻密な睫毛を透かして恋人の背を見つめ続けている。
     何がしたいわけでもない。恋人を眺めるのは彼の趣味だ。千年この世にあると大抵の事に既視感を覚えるが、彼女に関してだけはいまだ新鮮な驚きと理解の及ばぬ手ごわさがある。それが楽しく気味が良い。鶴丸国永の驚きを求める気持ちが、彼女と接していると理解できる気がする。
     ――俺を侍らせながら、見向きもせずに空の月ばかり眺めるとは。
     苦々しくも愉快さがこみあげて、永遠の繊月が浮かぶ目を細める。声をかければ振り向いてくれるだろうが、いつまであの人間が自分に無関心で居られるかが楽しみであえて何も言わないでいるのだ。
     彼の長い時間のなかで、どれほどこんな時があっただろう。人が彼の傍らにあれば、誰もがその美しさに目を奪われ平静というものを忘れる。
     刀は切れ味を、強さを望まれるのが道具としての宿命である。三日月宗近は刀でありながら、その美しさを最大の理由として千年守られ望まれてきた。
     ゆえに思い知っている。人間は美しさに弱い。強さと同じか、時にそれ以上に魅了され惑わされる。美しさ以外の点で三日月宗近という刀に向き合う人間も居るには居たが、そうした者ほど彼の所有者とならないのが常である。
     だというのに、彼に若者の肉体を与えた今代の主は天上の月ばかり見ている。あるいは夜の景色かもしれないが、いずれにせよ三日月宗近を意識しているそぶりがない。
     人の身の美しさが本体に及ばないわけではない、と彼は判断している。所用あって万屋へ赴くとき、余人から受けるまなざしは刀であった時と同じだ。驚愕、陶酔、執心、欲情、……時に羨望や嫉妬、まれに恐怖と嫌悪、何にせよ正気とは程遠い視線が豪雨さながらに降り注ぐ。千年のあいだ人間たちから浴びせられ、もはや感慨すら湧かないほど慣れ親しんだもの。
     だからこそ、この主に初対面から惹かれたのだろう。あの時、彼女の眼には軽い驚きこそあったもののすぐにそれは消え、平静に澄んだ瞳はまっすぐにこちらを見つめた。今度は三日月宗近が驚く番だ。己を所有する人間が、こんな目で見てくるなど思いもよらなかった。
     当初は思い違いを疑い、日々を重ねて確信に変われば、それは簡単に欲へと変質する。あの瞳が欲しい。あの眼差しが欲しい。俺だけを映してはくれないか。そう思って手を伸ばして、主もそれを受け入れて今に至る。
     恋仲になって変わったことと言えば、肌の触れ合いが加わったこと。あとは主の眼差しや声が、明らかに慈しみを宿すようになったことぐらいか。しっかりとこちらを見つめつつ、優しく穏やかな色をしているあの瞳が、どうにも三日月宗近の心をとらえて離さない。
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