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    mayu_og3

    @mayu_og3

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    mayu_og3

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    屋上デートする🌪🌱

    この街で一番空に近い庭園は、沈みかける夕日を浴びて茜色に染まっていた。夜の気配を漂わせた空に伸びる緑の木々の間、しゃがみ込んだシルエットが長く伸びている。
    「よう、ウィル」
    驚かせないように、ゆっくりと近づくガストの声にウィルが振り向いた。夕映に金色の髪がキラキラと輝き、小さく揺れる。
    「アドラーか。何か用か?」
    「いや、ここに来れば会えるかなぁ…って思ってさ」
    ガストの軽口に呆れたようにため息をついて、ウィルは立ち上がった。
    「ノースセクターのルーキーは随分と暇なんだな」
    皮肉めいた言葉も、声をかければ顔をしかめられ、話をすることさえ拒否されていた数ヶ月前からすれば、格段の進歩だ。ゆっくりと近づいてくるウィルの顔を眺めながら、ガストの胸は高まり、自然と頬が緩む。嫌悪からほんの少しの信頼へ、ウィルの自分に対する気持ちが変わり始めた冬を超えて、いつの間にか一方的な友情から片想いへと変わった気持ちを胸に隠しながら、彼のお気に入りの場所へ立ち寄ることが、ガストにとってささやかな幸せを感じる時間になっていた。

    春の気配が近づいてきているといえ、夕暮れの風まだは冷たい。隣に並ぶウィルが小さく肩をすぼめるを見やり、ガストは羽織った上着のポケットに両腕を入れた。
    「右と左どっちがいい?」
    悪戯な子供のように尋ねると、少し戸惑うように、左、と答えが返ってくる。
    そっとウィルの冷えた手を取り、ポケットの中身を乗せた。少し荒れたウィルの指が、手のひらに乗せられたココアの缶をそっと握りしめるのを見つめながら、ガストは指先が熱くなるのを感じていた。
    「ありがとう」
    と素直に礼を述べるウィルの視線を気恥ずかしそうに逸らし、──あの指に触れたくて、優しさに見せかけた下心をポケットに忍ばせてきた俺は、かなりカッコ悪りぃな…。
    「どうかしたか?」
    「あ〜いや。何でもねぇよ。つーか立話も何だし
    座らねぇ?」
    黙り込んだガストを覗き込むウィルの視線に、心臓が跳ねる。動揺を隠すように笑いながらベンチに腰掛けると、静かにウィルが横に並ぶ。
    そっと肩を抱くには躊躇われるほどの距離。それでもウィルが隣にいる事が嬉しくて、ガストは柔らかく微笑んだ。

    見下ろした街には、ぽつりぽつりと窓の明かりが灯りはじめた。ガストは片方のポケットに残ったミルクティーの缶を取り出し、カチリと開けた。
    ──甘党のウィルのために砂糖多めのやつだというのは当然、秘密だ。

    「で、アキラは?トレーニングか?」
    「オスカーさんにベンチプレス勝負で勝つんだって気合い入れてた」
    「はは、相変わらずだな」

    手の中の缶はまだ温かい。これを飲み終わるまでの間、束の間の逢瀬。
    ココアをゆっくり飲みながらウィルが話すのは、最近ますます張り切っているアキラの話題。そして、時折り心配そうに、レンはどうしてる?と尋ねる。
    相変わらずウィルの頭の中は、大事な幼馴染の事ばかりなんだな。と彼の優しさを好ましく思うと同時に、ちりりの小さな嫉妬で胸が痛むのは、隠した恋心を自覚させられてむず痒い。

    「で、相方に振られた保護者クンは、お花の世話を焼きにきたつーわけか」
    「そうだよ。文句あるか!その呼び方…止めろよ」
    「悪りぃ悪りぃ。機嫌直してくれよ」
    たちまちしかめっ面になるウィルをなだめるように、ガストは両手をひらひらと振った。
    懐かしい呼び名に、こんな風に近づく事さえ出来なかった春の日の光景がガストの脳裏に浮かんだ。

    ──あの日もこんな夕暮れだったな。

    ルーキーに興味のないメンター二人と、マイペースなルームメイト、慣れないヒーローの生活に、面倒ごとに巻き込まれることには慣れているとはいえ、流石に疲れた心が無意識に癒しを求めたのだろうか。気がつけばガストは滅多に立ち寄ることのない屋上庭園に立っていた。緑の葉を掻き分けゆっくりと進むと、丸まった制服の後ろ姿と跳ねた金色の毛先が目に入った。

    ──ウィルか?
    花壇の前にしゃがみ込んだウィルは、ガストの気配に気づく様子もない。手にしたジョウロから溢れる水がキラキラと夕日を浴びて光っている。
    ──保護者クンは花の水やりも一生懸命だねぇ。
    膨大な数のスタッフを抱えるエリオスには、庭園の管理を任された職員もいるはずだ。本来ならヒーローである彼がこんな事をする必要はない。熱心に花壇の世話をするウィルを眺めながら、半ばあきれ、半ば感心しながらガストは呟いた。
    幼馴染のアキラを危険な目に合わせた。と顔を合わせればウィルには辛辣な態度を取られている。
    ガストとしては反論したい気持ちはあるものの、大事な人を心配するウィルの気持ちは理解できるので、ついヘラヘラとかわすような態度を取ってしまい、益々、嫌われている自覚はあった。
    ──声かけたら、また嫌な顔されっかな…
    ウィルの顔が険しくなるのを想像して、困った様にガストは笑った。彼の秘密の花園踏み荒らしてしまうような気がして、黙って立ち去ろうとしたが、自分の前では見せてくれないウィルの穏やかな横顔をもう少しだけ眺めていたい。ウィルの指がゆっくりと葉を撫でるのを見つめながら、漏らした呟きは自分でも驚くほど甘く響いた。
    ──世話好きなんだな。
    春を待つように膨らんだ蕾に、優しく微笑みかけるウィルの顔を横目に見ながら、ガストは静かに立ち去った。

    思えばあの時からだ、俺がウィルを好きになったのは──

    少し冷めたミルクティーを飲みながら、黙り込んだウィルの顔を伺う。
    「だいぶあったかくなってきたし、そろそろ花も咲きそうだな」
    「そうだな。ゼラニウムの蕾が開きそうだから、あったかくしてあげないと」
    「相変わらず世話好きなんだな。保護者クン」
    「だから、その呼び方はやめろー!」
    ガストの煽るような口調に、たちまちウィルの眉が吊り上がり、愉快そうに笑うガストの頭を小突いた。
    「痛てっ!悪かったって」
    「お前のこと、ちょっとだけいい奴かもって思った俺が馬鹿だった。ココアくらいで懐柔できると思うなよアドラー!」

    捨て台詞のような言葉を残してウィルが立ち上がる。そのままガストを置いて、スタスタとエレベーターホールへと向かう。その背中を追いかけて、三歩後ろ、ウィルの不機嫌そうな後ろ姿を眺めながら、ポケットに手を入れた。
    今度は下心じゃなくて、俺の本気をここに忍ばせてこようか…。
    甘いお菓子、綺麗な花、指輪は…まだ早いか。

    ほんのちょっとだけ手が届かない背中を見つめて、いつか横に並んだウィルの笑顔を見れる日がくる事を密かに思った。
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    recommended works

    hinoki_a3_tdr

    DOODLEガスウィル
    ウィル女体化
    ガストを女性下着売場に放り込みたかったなどと供じゅ(ry
    ピンクや水色のふわふわとしたものから、赤や黒のきわどいデザイン、どこを見てもテイストの違う下着が並んでいるだけで逃げ場がない。自身の存在が明らかに場違いであることを肌で感じながら、ガストは足元を見つめることしか出来なかった。

    「なあ、アドラー。その、ちょっと行きたいところがあって……」
    もじもじと指をいじり、恥ずかしげに問いかける恋人に、一も二もなく頷いた。ウィルの頼み事だから、てっきりカップル限定スイーツのあるカフェだとか、購入制限のあるケーキ屋だとかそういうものだと思ったのだ。
    「……えっと、ここ?」
    「うん……」
    ウィルに連れられてやって来たのは、いかにも女の子のための店、といった外観の店だった。それもそのはず、ディスプレイに飾られているのは表に出していいのかと心配になるほど小さな布を身にまとったマネキンたち。そう、女性下着店だ。
    ガストは目を疑ったし、耳も疑った。今、「うん」って聞こえたけど実は「違う」の間違いだったんじゃないか? うん、きっとそうだ。
    「行こ」
    「お、おう」
    そうだよな、そんな訳ないよな。
    動かない俺の袖口を軽く掴んで、ウィルは店内へと足を進め 1106

    hinoki_a3_tdr

    DONEガスウィル
    別れようとしたウィルと荒療治でつなぎとめることにしたガスト
    「別れてくれ」
     たった一言。それだけで、世界から一人と残されたような、うら寂しさがあった。
     俺とアドラーは恋人同士というものだった。俺は、アドラーが好きだった。アキラの一件があったのにも関わらず、俺はアドラーに惹かれていた。そんなときに、アドラーに告白されたのだ。嬉しかった。が、同時に怖くなった。だって、俺の中にあるアドラーへの感情はプラスのものだけではなかったから。
     アドラーへの恋心と一緒に、彼への恨みのような感情もまだあった。そして、それが今後消えないだろうことも、なんとなく分かっていたのだ。こんな俺では、いつかきっと振られる。今が良くても、いずれ破綻することだろう。そんな想像から、俺はアドラーを先に振った。そうすれば、無駄に傷つくことはないと。
     だが、アドラーは諦めなかった。何度も何度も俺に告白してきて、その度に俺は、アドラーを振って。傷つきたくないからと始めたことが、どんどん傷を増やしていく。俺だけじゃなくて、アドラーにも。それは、本意ではなかった。だから、受け入れることにしたのだ。アドラーの粘り勝ちと言ってもいいだろう。
     大喜びするアドラーに、これで正解だったのかも 4699