がじ、と俺の指先を真島の八重歯が齧る。
「……ほんまにええんか?」
指を咥えながら、最後の確認というかのようにこちらを見上げて尋ねてくる。
ああ、と答えて指先でその尖った歯を撫でてやる。目を伏せて滲んだ血を舐めとるその表情がやけに扇情的に感じて、ひそかに生唾を飲み込んだ。
とろける心臓
1990年代 神室町
ネオンと喧騒の街は今日も賑やかしく夜更かしをしている。
中道通りの裏路地で、退屈そうに子分を小突く真島を見つけて焼肉屋に誘った。水面下では対立する直系組織の若頭二人だが、不思議と馬が合い、いつしかこうやって食事や酒を共にする機会が増えてきた。昔、殴り合った記憶も懐かしい。組を持つ身分が上の彼を弟のように思うのはおこがましいが、ただの同業者というよりかは親しくしている。年下の友人、と呼ぶには、少し面映ゆい。
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