CoCシナリオ「拝啓アンノウン」ログ KP : CoCシナリオ「拝啓アンノウン」開始します。
KP : あなたは心地の良い柔らかな日差しと小鳥のさえずりで目を覚ます。先日までのじっとりと蒸した空気は見る影もなく、夏の足音は遠ざかっていったようだ。傍らの時計をちらりと見やれば、本来の起床時間よりいささか早く、しばらく会えていない寿との予定があった事を思い出す。胸を躍らせているあなたは、軽い足取りで支度を済ませ、外出のため玄関へ向かうだろう。するとあなたの視界に一通の封筒を捉える。
糸魚川澄 : 「あれ?なんだろ、これ」
KP : あなたは封筒の表面を見るが、差出人の名前も、宛名も書かれていない。
KP : 内容は以下の通りである。
KP : 『けっこう涼しくなってきたけど、アンタはどうやって過ごしてんのかな 笑ってるかな どうか、幸せでいてほしい □□た俺が悪いから、全部おいていきます』
糸魚川澄 : CCB<=85 【目星】 (1D100<=85) > 70 > 成功
KP : あなたはその紙に違和感を抱く。よく観察すると、それは炙り出しになっているということが分かるだろう。
KP : 手紙を火で炙ると、ここからかなり離れた街の名前と、見たことも無い住所、センターという文字が浮かび上がる。
糸魚川澄 : 「んん〜?……何はともあれ、行ってみないと、かな」
KP : 電話を掛けようと、メッセージを入れようと、彼と連絡がつくことはない。
KP : 発見した手紙に不信感を覚えながらもあなたは彼との待ち合わせ先に向かうだろう。吹き抜ける風が頬を撫で、季節独特の空気が肺を満たした。
あなたが待ち合わせ場所にたどり着くと、そこに寿の姿はない。まるで、彼の存在が、自分から切り取られてしまったような空虚が心を埋め尽くす。待てども、待てども、あなたの名前を呼ぶあの声が響く事はなかった。
糸魚川澄 : 「……なにか、あったのかな」
あなたは彼と仲の良い東に電話を掛ける。
東惣太郎 : 「もしもし?」
糸魚川澄 : 「あ!東さんこんにちは!突然すみません!……今日、寿くんと会うはずだったんですけど、見当たらなくて。なにか、ご存知だったりします?」
東惣太郎 : 「寿と……そっか。実は先週くらいから、僕も連絡取れてなくて」
糸魚川澄 : 「えっ!そうなんですか!?なにか、あったんじゃ……」
東惣太郎 : 「僕にもわからないんだ。ただ……最後に会ったとき、ちょっと様子がおかしくて」
糸魚川澄 : 「様子が?どんなふうに、ですか?」
東惣太郎 : 「うーん……なんて言ったらいいんだろう?なんだかよそよそしくなったというか。ここしばらくはずっと、軽く接してくれてたのに」
糸魚川澄 : 「そう、なんですね。この前会ったときは、あんなに仲がよさそうだったのに……」
東惣太郎 : 「僕もそう思ってたんだけどね。とうとう突き放されちゃったかなって、家に行くにも行けなくて」
東惣太郎 : 「でも、スミさんですらそうなら……いや、僕が嫌われることなんかよりずっと、大変なことになってるのかも。……心配だな……」
糸魚川澄 : 「……それならわたし、ちょっと寿くんのお家、行ってみますね。なにかわかったら、また連絡します」
糸魚川澄 : 「だいじょうぶ!寿くんが東さんになにも言わずに離れちゃうなんて、きっとありえないもの!すぐ、元どおりになります!」
東惣太郎 : 「……あの子もいい友達を持ったね。ありがとう。寿のこと、頼んだよ」
糸魚川澄 : 「ふふ、はい!」
KP : 何故か玄関は開いており、足を踏み入れると寿の家からはどこか閑散とした印象を受ける。決して生活感がないという訳では無いが、干しかけの洗濯物や、シンクに放置されたままの食器など中途半端な状態に映るだろう。
KP : [寿の家]探索可能箇所
部屋全体
棚
机
糸魚川澄 : CCB<=85 【目星】 (1D100<=85) > 20 > 成功
KP : [部屋全体]
出かける支度が全くされてないことから、寿は慌てて家を出ざるを得なかった、もしくは誰かに連れ去られたのでは、と感じる。
糸魚川澄 : 「……本当に、なにかあったのかな。無事、だよね。きっと」
KP : [棚]
卓上メモ、ボールペン、鉛筆が無造作に置かれているが、メモには何も書かれていない。
糸魚川澄 : CCB<=85 【目星】 (1D100<=85) > 88 > 失敗
KP : 鉛筆でメモをこすると、先ほどの封筒に書かれていた町の名前と住所、センターの文字が浮かび上がる。
KP : 手帳のようなものが1冊置かれている。
KP : <手帳>
9月10日
先生(ソウタロウさん)に会った。駅前の居酒屋でいっしょに夕飯。東京みやげもらう。→2年くらい前から世話になってる。3日に一回くらい会う。よくパーカー着てる。若い?童顔?
9月12日
スミさんと遊びに出かけた。→友だち。うのさん(ちっちゃい。黒かみ)の妹。金パツのタテまき。
9月20日
■■さん(クール。目つき悪め。黒かみ)と■■さん(銀パツのマッシュ。丸メガネ)とテレビ電話しながら飯。■月■日に3人で買い物行く約束した。
9月26日
わからない。
糸魚川澄 : 「日記、かな。勝手に見ちゃってごめんね」
糸魚川澄 : 「……でも、様子がおかしいっていうのも、間違いなさそう。行かなくちゃ。寿くんには助けられてばっかりだったし、ね」
KP : 手帳を閉じて立ち会がると、あなたの視界の端で何かがキラリと光った。そちらに目を向けると、机の傍に、ドッグタグ風のペンダントが落ちている。この家の主がいつも身に付けているものだとわかるだろう。
KP : 拾い上げてよく見てみれば、端に『Keiichi Kotobuki』と彫られている。トップにくすみ一つないことから、こまめに手入れしていることがうかがえる。しかしチェーンの引き輪部分が歪んでおり、このままでは着けられないかもしれないとあなたは思う。
糸魚川澄 : CCB<=(8*5) 【DEX】 (1D100<=40) > 73 > 失敗
KP : あなたは引き輪を元に戻そうとするが、うまく直すことができなかった。
糸魚川澄 : 「……こういうの、苦手なんだよな……。でも、大事なもの、だもんね。わたしてあげたいな」
KP : あなたはセンターと呼ばれる場所へ住所を頼りに向かう。何本も乗り慣れない電車を乗り継ぎ、移りゆく景色を横目で追う。あなたの知る景色はみるみるうちに消えてゆき、不安に苛まれているかもしれない。
しばらくして、住所に記された場所にたどり着くと、そこに広がっていたのは仰々しい施設と大海原だった。
施設の周りには柵のようなものが設けられており、入ることは出来そうもないが、海岸側に回ることは出来るだろう。
KP : 海岸に行くと、細かな砂が日光を反射し、所々眩しい光を放つ。水面はゆらゆらと形を変え、自由を謳歌しているようにも見える。そんな海岸をあなたが進むと、その先に見慣れた人影があるだろう。見間違うはずもない、寿だ。
糸魚川澄 : 「……!寿くん!」
糸魚川澄 : 「こんなところでなにしてるの?心配、したんだよ?」
KP : あなたが寿に接触するならば、その声に気がついたのか彼の瞳があなたを映す。しかし寿はあなたには目もくれず、雄大な海に向き直ってしまった。彼は、あなたを見知らぬ誰かと認識しているように映るだろう。
«SANc 0/1d2»
糸魚川澄 : CCB<=78 【SANチェック】 (1D100<=78) > 66 > 成功
糸魚川澄 : 「やっぱり、覚えてない……んだね」
糸魚川澄 : 「……いきなり、ごめんなさい。わたし、スミっていうの。あなたのこと、教えてくれたり、する?」
寿敬一 : 「……はあ……そうすか」
寿敬一 : 「俺のこと……さあ、何だろうな」
KP : それに対してあなたが言葉を返そうとしたその瞬間、背後から伸びる腕が見え、視界が暗転する。仄かな薬品の香りは虚しく鼻腔をくすぐった。
KP : 冷たく、全身を微かに圧迫されることで感じる独特の浮遊感。目を覚ませば、口端から漏れ出る泡が見える。視界を埋め尽くす一面の群青とちらりと覗く光の筋、紛れもなくあなたの体は大海原を漂っていることが分かるだろう。水面から顔を出せば、海岸からそう離れておらず、そこには人の姿は見えない。
KP : [施設周辺]探索可能箇所
門
砂浜
糸魚川澄 : 「……寿くん、あなたに、なにが、起きてるの……」
糸魚川澄 : 「でも、あきらめられない。引きずってでも一緒に帰るんだから」
KP : <門>
施設全体を囲む柵の途中に取り付けられた大きめの門。カードリーダーのようなものが取り付けられている。専用のカードキーがあれば開けられると思うだろう。
KP : <砂浜>
波で砂がさらわれたのか波打ち際が少し抉れているようだ。
糸魚川澄 : CCB<=85 【目星】 (1D100<=85) > 71 > 成功
KP : キラリ、何かが反射する。あなたが不思議に思い、それを手に取ると、なにかのカードキーのようだった。
糸魚川澄 : 「やった!さすがわたし!」
KP : カードキーを門に取り付けられたカードリーダーで読み取ると音もなく門が開き、迎え入れられる。柵のせいで良く見えていなかった施設の全貌があなたの目の前に広がった。芝に覆われた庭は思っていたより広く、そこにいくつか並べられたベンチは、ほんの少し殺風景な公園を演出している。石畳の先にあるのは白を基調とした外観の建物で、特に看板等が出ている訳では無いが、ここが寿の記していたセンターだと言うことがわかるだろう。
糸魚川澄 : CCB<=75 【聞き耳】 (1D100<=75) > 43 > 成功
KP : 少し離れたところにいる職員の声だろうか、話し声があなたの耳に聞こえてくる。
『またここに外部の人が来たって本当なの?』
『そうみたい、今度は寿さんの……』
『せっかくここまで来たのに、会っちゃいけないなんて気の毒よね』
『でも仕方ないのよ、そういう決まりなんだから。』
この会話から、寿は間違いなくここにいるが、あなたは会いに行ける立場ではないということを確信するだろう。
糸魚川澄 : 「寿『さん』、か。……ひどい目には、あってない、のかな」
KP : あなたがセンターに入ろうとすると、自動ドアが静かに開き、病院のような風貌の廊下に足を踏み入れることになる。
糸魚川澄 : CCB<=75 【幸運】 (1D100<=75) > 54 > 成功
KP : 幸い受付には人がおらず、誰にも気づかれることなく施設内に入ることが出来るだろう。
KP : [センター内]探索可能箇所
物置部屋
病室
糸魚川澄 : CCB<=75 【聞き耳】 (1D100<=75) > 62 > 成功
KP : 物置部屋には、人のいる気配がする。
糸魚川澄 : CCB<=75 【聞き耳】 (1D100<=75) > 12 > スペシャル
KP : 病室からは、特に何の気配も感じない。
KP : <病室>
202号室という札がついた一般的な病室。佐藤と名前が書かれており、鍵がかかっている。こちらにもカードリーダーのようなものが取り付けられているのが見えるだろう。
KP : 『職員用カードキー認証、患者不在ノタメロック解除デキマセン。患者用カードキーモ併セテ認証シテクダサイ。』と機械音が響く。
糸魚川澄 : CCB<=75 【幸運】 (1D100<=75) > 55 > 成功
KP : 扉の隙間から物置部屋の中を覗き見ると、雑多に積まれた段ボールの陰に、誰かが立っているのが見える。
糸魚川澄 : CCB<=85 【目星】 (1D100<=85) > 82 > 成功
KP : よく観察してみると、10歳ほどの少年であるようだ。
糸魚川澄 : 「……こども」
KP : あなたが静かに部屋に入ると、そこには見知らぬ一人の少年がいる。栗色の髪に黒の瞳、少し気だるそうではあるが元気が無いわけではないらしい。彼はゆっくりとあなたの方を見る。
少年 : 「……」
糸魚川澄 : 「……急に、ごめんね。わたし、お友達を探してるの。わたしのこと、他のひとには、ナイショにしてくれる?」
少年 : 「……おともだち」
少年 : 「……きみは……もしかして、僕のお友達?」
糸魚川澄 : 「うーん、わたしが探しにきた子はあなたではないんだけど……」
糸魚川澄 : 「おともだちになろっか!わたし、スミ!お名前、教えてくれる?」
少年 : 「……うん」
佐藤直人 : 「ええっと……そう、僕は、佐藤直人」
糸魚川澄 : 「よろしくね、直人くん」
糸魚川澄 : 「佐藤くん、ってことは向かいの病室、あなたの?ここのこと、くわしいのかな」
佐藤直人 : 「向かい……多分、そう。詳しいってほどじゃないけど……わかることは、すみちゃんよりもある、かも」
糸魚川澄 : 「そうなんだ!直人くんに会えてよかった〜……。勢いでここまで来ちゃったけど、わたし、どこになにがあるのかもわからなくって。直人くん、どこか悪いの?」
佐藤直人 : 「病気なんだ。記憶がね、無くなって、死んじゃうやつ。それ以外は僕もよくわかんない」
佐藤直人 : 「だからここに何かあるかなって見に来たの、そしたらきみに会ったんだ」
糸魚川澄 : 「……そう、なんだ」
糸魚川澄 : 「……そしたら良い思い出、たくさん作らなくっちゃね。おともだちになれた記念に、握手でもする?」
佐藤直人 : 「……うん、握手」
糸魚川澄 : 「ふふ、ありがとう!ここではなにか見つかった?」
佐藤直人 : 「ああ、これ……さっきまで読んでたんだけど、ちょっとむずかしくて」
KP : <資料>
『感染症に関する独自研究』
7月28日
感染症について魔術を織り交ぜることで調べていくと、特殊な生物の存在にたどり着いた。
この存在の召喚に成功した場合、私自身が巻き込まれる可能性もあるがそれで良い。全てを忘れ去る目的の元では、寧ろそれは成功である。
8月17日
やつの力は想像以上だ。これならこの病原体が世界へ広がるのも時間の問題、多くの人が苦しまずに済む。薬の調合は不要だろう。
■月■日
誤算だった。どんどん体の機能が失われていく、このままだと記憶だけでなく命まで失ってしまうだろう。予定では記憶を無くすだけだったはず。動くことが出来るうちに薬の調合を考えなければならない。動けなくなってしまう時、それは私が死ぬ時だ。
■月■日
く すり は 赤 、ちゅ うしゃ きに
最後の部分は薄く、ミミズが這うような字で書かれている。
糸魚川澄 : 「これ……」
糸魚川澄 : 「ねえ、直人くん。直人くんは、病気、治ったら嬉しい?」
佐藤直人 : 「……うん。嬉しい」
糸魚川澄 : 「……そっか。直人くん、わたし、この建物のこと、もっと詳しく知りたいな。直人くんのお部屋も見せてもらってもいいかな?」
佐藤直人 : 「うん。いいよ。……お友達、見つかるといいね」
糸魚川澄 : 「うん。絶対見つけるよ。それに、直人くんの病気のことも気になるしね」
糸魚川澄 : 「直人くん、お部屋に入るためのカードキー、持ってる?」
佐藤直人 : 「カード?これのこと、かな」
糸魚川澄 : 「わあ〜ありがとう!直人くんだいすき!」
KP : 『病室内』
病室内は少し散らかっており、歩行を補助する器具は物干し竿のように扱われている。ベッドの下には遊び道具が詰められているのであろう箱が場所をとっており、子供部屋といった風貌だ。
佐藤直人 : 「……すみちゃん、そのカードキー……きみは、じつは職員さんなの?」
糸魚川澄 : 「これね、ひろったものなの。直人くんとわたしだけのヒミツね」
佐藤直人 : 「うん。ふたりだけの、ひみつ」
KP : [病室]探索可能箇所
ゴミ箱
ベッドの下
KP : ベッドの下はごちゃごちゃとしているが、少年の私物なため、頼むのならば、少し辛そうではあるものの動かしてくれるだろう。
糸魚川澄 : CCB<=85 【目星】 (1D100<=85) > 86 > 失敗
糸魚川澄 : 「ベッドの下、なにがあるの?」
佐藤直人 : 「えっと……なんだっけ?僕も忘れちゃった」
佐藤直人 : 「あ、これ」
KP : ベッドの下をあさっていた直人は、革張りの入れ物を指さす。中には注射器が入っているようだ。
糸魚川澄 : 「注射器……?直人くんの?」
佐藤直人 : 「……そうだっけ?」
KP : 注射器が入っていたのは、やけに良質な革張りの注射器ケースである。両手に収まるサイズのものだろう。
それを開けてみるならば、中には赤い液体を有した注射器が一本入っている。しかし、入れ物を見る限り空いているスペースがあるようだ。
糸魚川澄 : 「……これ、借りててもいい?」
佐藤直人 : 「……」
KP : 彼は一向に頷こうとしない。いや、出来ない、の方が正しいとあなたは感じるだろう。
KP : 少年は床にへたり込み、先程まで懸命に動かしていた四肢はまるでただの鉛のようにぷらん、としているのだから。
糸魚川澄 : 「な、直人くん!?」
佐藤直人 : 「……たぶん、それ、お薬だよね。本当は……自分に使いたいんだ」
佐藤直人 : 「でももう刺す力も無い。だから……あなたにあげる」
KP : 彼はそう言って微笑んだ後、その上体をゆっくり床に預けた。寿を助けることができる薬、それはもちろん、目の前の少年を救うことも出来る、そうあなたは理解せざるを得ない。
糸魚川澄 : 「……この薬がここにあるって、今まで、知らなかったの?」
佐藤直人 : 「……ああそうだ、それ、前にスタッフさんのお部屋で見つけて。大事そうにしてたから持ってきちゃって……いつだっけ。わかんないや」
糸魚川澄 : 「……ごめん、ごめんね。わたし、あなたに、ひどいことした」
糸魚川澄 : 「わたし、友達を助けなきゃいけない。だから、薬がひとつしかないなら……あなたのこと、助けられない。でも、でも……もし、もうひとつ、見つけられたら、絶対に、ここまで戻ってくるから。……だから、ごめんなさい、直人くん」
糸魚川澄 : CCB<=85 【目星】 (1D100<=85) > 51 > 成功
佐藤直人 : 「……」
KP : 直人は微笑むものの、既に呼吸さえも苦しそうな状態に陥っている。薬を持って戻る頃には、既に事切れているかもしれないと悟るだろう。
糸魚川澄 : 「……本当に、ごめんなさい。あなただって、友達、なのに。あなたのこと、助けられなくて、ごめんね」
佐藤直人 : 「……」
KP : あなたは友人のために薬を使わずに持っておく。友人?目の前の彼も友人である。だがあなたは、今目の前にいない友人を取った。少年は言ったのだ、『あなたにあげる』と。決してこのあなたの行動は間違っていないはずである。そして、少年の命の灯火は揺らめき、懸命に抗いながらも消えていった。そこに残ったのは冷えきった亡骸と、その頬を伝う大粒の涙だけだ。
糸魚川澄 : 「ごめんなさい、ごめんね。あなたに会えてよかった。……ありがとう、おやすみなさい、直人くん」
KP : ゴミ箱は今にも溢れかえりそうなほど紙くずが入れられており、お絵描きでもしていたとかと思うだろう。
糸魚川澄 : CCB<=85 【目星】 (1D100<=85) > 26 > 成功
KP : 黒いクレヨンでグルグルと描かれた形容しがたいイラストに、僅かに濡れて、乾いたあとが見える。さらに、破かれた紙には謝罪の言葉が列挙されているのが分かるだろう。
糸魚川澄 : 「『多くの人が苦しまずに済む』……これの、どこが」
糸魚川澄 : CCB<=75 【聞き耳】 (1D100<=75) > 55 > 成功
KP : 廊下には人の気配がする。
糸魚川澄 : CCB<=75 【アイデア】 (1D100<=75) > 85 > 失敗
KP : あなたは静かに少年の病室を後にする。そして廊下へ出ると、あなたの視界にふと、人影を捉える。いくつか離れた病室、そこから出ていく寿の姿を。
糸魚川澄 : 「……寿くん」
KP : 彼の後を追うなら、たどり着く先は先程の海岸だろう。季節に見合った肌寒さが体を冷やし、潮風は海を眺める寿を他所に遠くへと進んでいった。さざ波はまるで鏡のような水面を掻き乱し、ざぁと音を立てる。特段不思議な光景ではない、それでも寿はその瞳にじっくりと群青を焼き付けているようだった。
糸魚川澄 : 「……こんにちは、なにを見てるの?」
寿敬一 : 「何って……海」
寿敬一 : 「……俺には多分、大事にしてる人がいたんだよな」
寿敬一 : 「キレーだよなあ。こんな景色、一緒に見たこともあったのかも、なんて」
糸魚川澄 : 「……本当に、きれいだね。わたし、海だいすきなの。星空も、お皿いっぱいのお菓子も、バラの庭園も素敵だったけど、やっぱり、海が一番素敵」
糸魚川澄 : 「ねえ、大事な人のこと、思い出したい?」
寿敬一 : 「……そりゃ、な。でも、わかんねえ。何も、俺には」
KP : そう言って彼は、手にしていたケースから分厚い紙束を取り出す。そして言った。
寿敬一 : 「俺は忘れちまったから、これ全部、大事な人たちに置いていこうと思う。誰宛てかも、誰からかも書いてねえけど」
寿敬一 : 「手紙の冒頭ってさ。ハイケイ、って書くんだって。誰に教えてもらったんだっけ……それも、忘れちまった」
寿敬一 : 「……拝啓、俺の知らない、大事な人たちへ」
KP : その瞬間、彼は持っていた紙束をふわりと潮風へと託す。書簡という名の想いの結晶は宙を舞い、届くはずもない彼の、彼女の住む土地を夢見る。
そして、ひらり、数通の書簡があなたの元に舞い落ちる。
KP : あなたが拾い集めた手紙は、全部で8通。内容を見ると、そこには日々記憶を失っていく寿の思いが、拙いボールペン字で綴られていた。全ての手紙には赤い大きなバツ印が付けられているようだ。
糸魚川澄 : CCB<=75 【アイデア】 (1D100<=75) > 56 > 成功
KP : これらの手紙はすべて検閲を受け、許可されなかったものなのだろうと察する。
KP : 『9月27日 なんて呼んだらいいかわからないんですけど、急にいなくなってすみませんでした。シセツの人に連れてこられちゃったんです。俺いつも、アンタのとこ押しかけて何してましたっけ?まあ、出てこられたらまた遊びに行きますよ。この病気のことは外の人にバラしちゃいけないらしいから、この手紙がアンタに届くことはないと思いますけど』
KP : 『9月28日 アンタは結局、小さいんでしたっけ、大きいんでしたっけ。どっかで初めて会ったとき、ちっちゃって思った気がする。でも大きい背中だった気もする。どっちでした?いや、ここに来る前は、ちょっとは覚えてたんですよ。アンタの顔とか、しゃべり方とかも。あと俺に、なにか教えてくれた。でも、なんだったかな。大事なことだったらすみません。俺がいなくなったら、悲しんだりすんのかな、なんて 俺ってマジでバカなやつですよね。もし会いに来てくれたら、って思うからここの住所書いときます。』
KP : 『9月29日 フラッシュバックってやつですかね。今日の飯、カレーだったんですけど。においかいだら、何か思い出しかけました。学生の頃?バカでかい何かをぶんなぐったり?してました。インパクトすごかったことは思い出せるけど、なんだっけ?だれといっしょだったっけ?大事な人たちだったのか?思い出そうとすると、頭のてっぺんがむずむずする。なんでだろ』
KP : 『9月30日 スタッフいわく、俺には大切な人がいたらしい。そんな覚え少しもないのに、くやしくて仕方ない、今書いてるこれも、記ロクみたいな作業だってのに、ごめん。って気持ちがなくならない。これがセンザイキオクってやつなのか?』
糸魚川澄 : 「これは、『先生』宛て、なのかな。こっちは……あは、またちっちゃいって言われてる。ふふ、カレーでどうしてこんな物騒なこと思い出すのよ。…………」
KP : 『10月1日 明日って、なにか予定があったのか?10月2日、この日付見ると、そわそわする。なんで?シケンの合格発表?新刊の発売日?だれかと遊ぶ約束?自分ががんばったことも、好きだったものも、友だちも思い出せない。そもそも俺に、そんなものあったのか?わからない。』
KP : 『もし本当に、俺に大切な人がいたのなら、せめてその人には幸せに生きてほしい。だって俺がなくした分も、持っていられるわけだし。でもそれは俺のエゴ、向こうは俺のこと、あんがい忘れたがってるかもしれない。もともと、俺のこと大切になんて思ってないかもだし』
KP : 『約束 だれかと大事な約束した 思い出せ 思い出せ 思い出せ 思い出せ
わからない ごめん ごめんな』
KP : 『忘れたくない、イヤだ、イヤだ イヤだ このままじゃ、何も、わからなくなる。俺はだれ?分からない、苦しい、うでが動きにくい、これが、最後の手紙になるかもしれない。会いたかった、もう一度でいいから。もう一度?俺のことを大切に思ってる人なんて、いたのかな いないんだろうな 日記見てもぜんぶ、俺から一方的に言ってるだけだし。』
この手紙の最後の一行だけ、鉛筆で乱雑に塗りつぶされている。
糸魚川澄 : 「…………」
糸魚川澄 : CCB<=75 【アイデア】 (1D100<=75) > 19 > 成功
KP : 本文はボールペンで書かれているが、塗りつぶすのに用いられているのは鉛筆である。となれば、光にかざすことで判読可能なのではないかと思い至るだろう。
KP : あなたは手紙を陽の光にかざした。塗りつぶされていた一青年の思いが、空に透ける。
KP : 『一度でいいから だれかに 愛されてみたかった』
糸魚川澄 : 「……ねえ、君、聞いてくれる?」
糸魚川澄 : 「わたし、わたしね、本当は、怖かったの。……あなたが、あなたの意思で全部、忘れちゃったなら、わたし、きっとあなたにひどいこと、言っちゃうと思ったから」
糸魚川澄 : 「だって、わたし、そうだったとしても、あなたのこと、諦められないもの!」
糸魚川澄 : 「……よかった。あなたも、忘れたくないって思ってくれてて。帰ろう、寿くん。あなたを大事に思ってるひとたちが心配して待ってるよ」
KP : あなたは少年に使わなかった薬を手に持つ。そして、その注射器を彼の腕に突き刺す。少年の命を助けることが叶わなかった赤い液体はまるで寿の血液と一体化するように流れ込み、数秒の間の後、彼はあなたの方を見て微笑むだろう。それは紛れもなく、あなたのよく知る彼であり、あなたの瞳に映るのは他の誰でもないあなた一人である。
KP : そして、寿はまだぎこちない動きで腕を動かし、潮風で冷えきったその手をあなたの頬に添える。
寿敬一 : 「……スミ、さん」
寿敬一 : 「ああ、全部、失くすとこだった……」
糸魚川澄 : 「うん。でも、失くなってないよ」
糸魚川澄 : 「おかえり、寿くん!」
寿敬一 : 「……」
寿敬一 : 「……参ったな。俺が守るって、鵜野さんとも約束したのに。助けられちゃいましたね」
糸魚川澄 : 「もう、お兄ちゃんまたそんなこと言ってたの?あのひとの方がよっぽど危なっかしじゃない。寿くんも真にうけないでよ!」
寿敬一 : 「ふふ。確かに、あの人は危なっかしいとこありますよね。まあ鵜野さんに言われなくとも、そのつもりだったんで」
寿敬一 : 「……こんなことも、全部、思い出せて良かった」
糸魚川澄 : 「……もう、忘れないでね、寿くん」
寿敬一 : 「……はい」
KP : そこまで話した寿はあなたに向き直り、その真っ直ぐな瞳であなたを見つめた。安堵に満たされる子どもじみた、それでいて、見守るような大人びた眼差し。彼は彼自身の記憶を、あなたという存在の尊さを、噛み締めるように零すだろう。
寿敬一 : 「……ただいま」
寿敬一 : 「俺の、大切な人」
糸魚川澄 : 「……えっ」
KP : 吹き抜ける風は散り散りになった想いをかき集めるように、二人の頬を掠め、届かなかった幼子の想いを儚く散らせた。
KP : 【エンドB】
KP : 生還報酬
KPCを救うことが出来た +1d10
糸魚川澄 : 1d10 (1D10) > 5
system : [ 糸魚川澄 ] SAN : 78 → 83